見た目の進化は地味だが中身は大きく変わっている!

ホンダがクルマを活用するさまざまなシーンに合わせて、乗り手の生活を豊かにする軽自動車を提案してきた「Nシリーズ」。その末っ子として、根強い人気を得て来たモデルが「N-ONE」だ。かつての名車「N360」の愛らしさを彷彿とさせる、どこか懐かしく、キョロっとした表情のフロントフェイスが特徴的なN-ONE。

ホンダの話を聞くところによれば、今回のモデルはフルモデルチェンジをして、2代目に生まれ変わっているのだという。



「え? どこが変わったの???」



外観だけ見れば、そう言われそうなところだが、外板パネルはバンパーまわりの形状が変わっているものの、丸や四角、台形をモチーフにしたシルエットやドアやボンネットの形状などは、2012年に登場した初代モデルとほぼ変わっていない。しかし、これも開発者の狙いのうち。プラットフォームはN-WGNなどに採用されているNシリーズの第2世代のものに一新されているし、高粘度の構造用接着剤を採用するなど、軽量高剛性な作り込みも行われたという。クルマがフルモデルチェンジするとき、変化するために欲張って進化しようとすると、それまでのオーナーとクルマとの関係性が違ったものになってしまって、そのクルマに抱いていた本来の魅力が薄れてしまうことがある。



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ところが、末永く愛せるクルマを目指して開発された今回のN-ONEの進化をみると、N360譲りのタイムレスなデザインがN-ONEの魅力だと受け止め、本質的に変わらない価値を受け継ぎながら、最新技術を用いて進化させている。一見すると地味な進化に見えるが、じつは大胆なフルモデルチェンジと言えるのだ。



細部に目を向けると、最新技術を駆使しながら進化を遂げていることがわかる。その一つがクッキリとした表情に変わったヘッドライト。しかも、N-ONEは全グレードにこのLEDヘッドライトを標準装備している。Nシリーズの末っ子ながら、贅沢な装備を充実させている点をみれば、N-ONEは単なる廉価モデルの末っ子ではなく、あえて小さなクルマを選ぶこだわり層に向けた提案であることがうかがえる。



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プロジェクターヘッドライトの外側を囲うリングは、デイタイムランニングランプとして常時点灯するもの。

ウインカーやハザードランプをONにすると、イエローに変わって点滅するあたりも、最新のクルマのトレンドを感じさせる部分だ。フロントバンパー下部の開口部は横長にブラックアウトされた形とすることで、重心を低く、ワイドに見せる視覚効果を与えている。



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また、ボディサイズをみると、前輪駆動(FF)モデルの全高は1545mmに設定。先代は後から追加されたローダウン仕様が1550mm以下の全高に設定されたが、2代目N-ONEはFFのベースモデルが1545mmに抑えられたことで、一般的な機械式駐車場に収まる。マンション住まいであるとか、出先で機械式駐車場に停めざるを得ない縛りを受けるユーザーでも、N-ONEを選べるようになったことは朗報だろう。



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外観とは裏はらに、インテリアはガラリと刷新されている。人のための空間は広く、メカは小さく設計するホンダ独自の「MM思想」を受け継いでいる2代目N-ONE。ガソリンタンクは前席下に配置するセンタータンクレイアウトの採用で、後席の前後スライドはできない構造だが、左右の座面を跳ね上げて固定し、荷物の空間として活用することで、ベビーカーや観葉植物など、背の高い荷物を積みこむことができる。



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シートに座ってみると、軽自動車ながら、しっかりとした座り心地が得られていることに驚かされる。初代はベンチタイプだったフロントシートだが、2代目は運転席と助手席それぞれを独立させたセパレートシートに変更。サイドサポートは乗員の身体を支え、座面はウレタンの硬度を高めることで、身体の沈み込みを抑え、疲れにくい姿勢が保てるように設計されている。前席と後席を比べると、前席のほうが明らかに上質なファブリック素材があしらわれていているが、ブラックの単色で素っ気ない後席も、実際に腰掛けてみると、しっかりとした座り心地が得られるように配慮されているようだった。



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運転席と助手席の間に生まれた隙間には、新たにドリンクや小物が置ける収納装備を追加している。新設計されたインパネは、ドライバーが瞬時に車両の状態を把握しやすい2眼タイプのアナログメーターを用意。ナビのモニターの下あたりには、エアコンやシートヒーターの操作パネルを配置。そこから助手席側に水平に伸びるインパネガーニッシュは、凹面でカーブを描くシンプルで洗練された造形のもので、ベーシックなOriginalには艶やかなプラチナホワイトのパネルを。Premiumにはハイセンスなブラックウッド調、RSには金属のような鈍い光沢を放つスチールヘアライン調のパネルが組み込まれる。また、グローブボックスは奥の壁面に沿わせるように組み込んだことで、助手席乗員の膝まわりに足が組めるほどの広いスペースをもたらした。



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今回のN-ONEのグレード構成は4種類。ベーシックな「Original」、艶めきを感じさせる「Premium」と「Premium Tourer」、スポーティな「RS」の4タイプを設定している。



ベーシックなOriginalは、もっともN-ONEらしいタイムレスで素朴なイメージを際立たせたスタイリングが特徴だ。14インチの黒い鉄チン(スチール)ホイールには、ディッシュタイプのホイールキャップやホイールの淵にクロームメッキのリングが組み込まれていて、とてもお洒落。



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パワーユニットは、660ccの自然吸気エンジンにCVTの組み合わせ。足もとには、155/65R14のDUNLOP ENASAVEが装着されている。

58馬力を発揮するノンターボのエンジンは、街乗りの発進加速でアクセルペダルをそこまで深く踏み込まなくても、目標とする車速にスムースに乗せていける印象だ。一気に車速を高めようとするとエンジン回転が高まり、3気筒エンジンのノイズが響きやすい状況といえるが、耳障りな音を響かせない工夫によって、安っぽさを感じさせない。低燃費走行ができるECONモードをONにして加速してみると、1拍おいて徐々に力を漲(みなぎ)らせていく加速のリズムは、愛嬌満点のN-ONEでホノボノした気持ちで走る気分にピッタリで、物足りなさを感じさせることはなかった。



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むしろ、驚かされたのは、軽自動車ながら質の高い走りが得られていること。プラットフォームやボディの高剛性化に伴って、サスペンションやショックアブソーバーは乗り心地を高める方向にセッティングすることが可能になった。Originalのスタート価格は約160万円(消費税込)と、額面だけをみると軽としては高価だが、こうした軽のベーシックなモデルから、「安かろう、それなりだろう」という概念を覆し、小さいクルマにコダワリ抜くあたりがホンダらしい。



快適にもスポーティにもドライブを満喫させてくれる一台!

Premiumと名の付くグレードは、自然吸気エンジン×CVTを搭載する「Premium」とターボエンジン×CVTでパドルシフトを搭載する「Premium Tourer」の2つの仕様が用意されている。どちらも、ドア下部にシルバーのモールディングをあしらっており、足もとには、グレーメタリック塗装の15インチのアルミホイール、ブリヂストン ECOPIA 165/55R15が装着されている。



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今回は、ターボエンジンを搭載した「Premium Tourer」に試乗。さっそく、驚かされてしまったのは、乗り心地の良さ。敷地内から一般道に向かう出口の段差を乗り越えてみたところ、軽としてはタイヤが薄い15インチ仕様であるにも関わらず、嫌な突き上げ感を感じさせないのだ。街を流すと、ゆったりと優しく、しなやかな身のこなしをみせ、カーブや交差点を通過するときは、減速からコーナーの立ち上がりに向けて、車体が不用意に揺すられるようなこともなく、思いどおりに駆け抜けていくことができる。



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64馬力を発揮するターボエンジンは、低速域でもターボラグが少なく、扱いやすいトルク特性を備えている。アクセルを踏み込めば、小さいボディを軽快に走らせていける気持ち良さともに、わだちや荒れた路面では、タイヤを路面に沿わせながら、安定性の高い走りを披露してくれた。



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また、走行中に車内が静かであることも快適性の高さに結び付いている。ターボの場合はそこまでエンジン回転を高めなくても、余裕をもって走れるところもあるが、Premium以上のグレードには、遮音性の高いフロントガラスが採用されているため、より静粛性が高い。これまで、上級クラスのクルマに乗っていたユーザーがダウンサイジングで初めて軽に乗り換えるケースでも、違和感を感じにくいだろう。



そして、走り好きに注目して欲しいのがスポーツグレードの「RS」。トランスミッションはCVTまたは、6速MTの2種類が設定されているが、今回はMT車に試乗することができた。



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RSの外観の特徴は、ブラック色を効果的に組み合わせた専用のエクステリア。フロントグリルやフォグライトのガーニッシュ、サイドモールなど、ダーククロームメッキで統一感を与えていたり、15インチのアルミホイールはPremium Tourerと似たデザインながら、マットブラックとすることで、引き締まった印象に。ブラックアウトされたルーフやドラミラーも手伝って、低重心でワイドなイメージを強調している。



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RSの車内は、内装色をブラック基調としながらも、ステアリングやシフトまわりにシートなど、所どころオレンジ色のアクセントカラーがあしらわれている。MTのシフトレバーは、1999年に登場したFRの2シーター スポーツカー「S2000」から譲り受けたものだという。



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運転席に乗り込むと、クラッチが踏みこめる位置にシートスライドを前寄りに合わせて、運転姿勢を整えていく。ここで少し残念だと思ったのが、ハンドルの調整機構は上下を調節するチルト機構しかついていないこと。N-WGNでは上下に加えて、体格に合わせて前後の調整ができるテレスコピックが設定されていただけに、N-ONEにそれが付いていないのが口惜しい。仕方がないので、それ以外の部分をどうにか調整しながら、走り出してみることに。



すると、期待していた以上に気持ちがいいドライブフィールを満喫させてくれる。まず、シフトレバーを操作する際の感触がいい。インパネから突き出たシフトレバーは、フロアシフトと比べて高い位置にレイアウトされているにもかかわらず、シートにしっかりと身体を支えられたドライバーが左手を伸ばした時に、自然に操作できるように工夫されている。そう感じる理由の一つは、変速操作がショートストロークで行えること。手のひらに軽く力を込めて押したり、手のひらを返して手前に引いたりすると、スコッ、スコッと確実に狙ったゲートに入れられるもので、変速の際の手応えも絶妙なところに落とし込まれている。



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低いギヤに落として、エンジンを高回転まで引っぱってみると、7000rpm回転まで、気もちよく回っていってくれる。レッドゾーン手前ギリギリまで回していけるのは、MT車だけの特権だ。ターボエンジンには、電動ウェイストゲートバルブを採用し、レスポンスが向上しているが、ペダル類やシフト、ハンドル操作を駆使しながら、リズミカルに走らせていく場面では、クルマと一体感を得て走る楽しさに目覚めさせてくれる。

FFターボ×6速MTは軽自動車として初めての組みあわせ。高速道路を移動する時は、多段化した恩恵で、トップギアはエンジン回転を低めに保って巡航できるため、振動やノイズを抑えて走れて快適に。低燃費走行も期待できそうだ。



おまけに、今回のN-ONEはドライバーのうっかりミスで起こる衝突事故のリスクを低減する「Honda SENSING」が初搭載され、全グレードに標準装備されたことにも注目したい。RSのMT車の場合のみ、クラッチをつなげて変速操作を行う関係上、前方/後方誤発進抑制機能、渋滞追従機能がつけられていないが、スポーティなRSでも、CVT仕様を選べば、渋滞の完全停止まで対応するアダプティブクルーズコントロールが使えるようになったというのは嬉しいニュースだ。



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ちなみに、RSのCVT仕様は、変速制御MAPがRS専用にセッティングされている。Sレンジに入れて走ると、アクセル操作のレスポンスが向上。ワインディング路でブレーキングを行うと、ステップダウンシフト制御を行うというもので、エンジン回転を高め、カーブの立ち上がりで加速しやすい態勢に持ち込める。パドルシフトで操作ができるので、ハンドルから左手を離さず、2つのペダル操作に集中しながら、スポーツドライビングを存分に楽しむことができるのだ。



4つのモデルそれぞれに内外装や走りのキャラクターを明確に表現し、「N-ONE」としての魅力を深めながら、可能性を広げてみせた第2世代の新型モデル。外観はあまり変わらないように見えていたが、基本性能の大幅な進化によって、快適にも、スポーティにもドライブを満喫させてくれる一台に仕上げられている点に懐の深さを感じた。



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