次世代小型モビリティとして期待大の最新EV

トヨタは、2030年までに国内市場に適切な電気自動車(EV)を発売するとしている。一方、世界的な電動車への移行が進むなか、国内へはEV導入をしないのかということへの回答が、超小型モビリティとしての2人乗りEV「C+pod(シーポッド)」の発売である。これは、2年前に催された記者会見の場で示された計画の実現である。



性能は、車載のリチウムイオンバッテリーが9.6kWhで、WLTCによる一充電走行距離は150kmである。価格は、165~171.6万円だ。



この性能は、現在は衝突安全対応のため車体全長が伸びて登録車扱いだが、元は軽自動車のEVとして誕生した三菱i-MiEVの一充電走行距離164kmに近い。ただし、i-MiEVはJC08モード値なので、トヨタのシーポッドのほうが優れているかもしれない。実際、軽自動車と比べ車体寸法が大幅に小さく、車両重量も半分近いシーポッドの消費電力は、54Wh/kmと、i-MiEVの3分の1ほどでしかない(これもモードが異なるので、もっと効率は良いだろう)。



トヨタの超小型EV「C+pod」がもつ大いなる可能性と「懸念...の画像はこちら >>



いずれにしても、シーポッドの性能は、私が以前から構想してきた100km100万円軽商用EVの求めた価格や性能に近く、おおいに期待するEVの一台だ。



ところが、これも当初からの計画だとはいえ、昨年末からの発売は、法人や自治体への限定販売に止まる。一般消費者へは来年からの予定だ。都内に住む私の友人はさっそく購入を考えたが、諦めている。また、日産三菱自からは、来年以降、軽EVの発売も予定されているので、そうなると、価格と性能次第では競合することになるかもしれない。



トヨタが、個人ではなく企業や自治体など団体への限定販売とした背景にあるのは、EV参入への慎重な姿勢によるものだろう。



トヨタの超小型EV「C+pod」がもつ大いなる可能性と「懸念」される事態



ひとつは、国内のEV市場の深刻な障害に対する懸念ではないか。

具体的には、マンションなど集合住宅への200Vの普通充電コンセント設置が、実質的にできない状況がある。住民の共同利用の場となる駐車場にコンセントを設置するには、管理組合での合意が必要で、それがほとんどの場合否決されているからだ。i-MiEVやリーフが発売されてから10年以上を過ぎてなお、この課題は解決されていない。集合住宅に住む消費者に失望を与えるだけでなく、販売店も対応に苦慮するだろう。



また、一般消費者へ販売するとしたら、全国のトヨタ販売店で営業のEV学習や、EV整備の実習が必要になる。それに投じた費用に対し、販売が進まない可能性が高いこともトヨタの懸念材料だろう。



急速充電器のさらなる普及がEVの可能性を広げる

一方で、法人や自治体への限定販売であれば、個別に合意すれば納車できることになるので、無駄が少ない。なおかつ、SDGsへの取り組みが、企業や自治体で進みはじめ、再生可能エネルギーの導入などと合わせて、印象を好転させることにひと役買うことにもなる。



それらの手続きを、ワンストップ(ひとつの窓口)で完了できるよう、電力会社などとの連携もトヨタは進めている。やりやすいところから、無駄なくEV導入を図るというのが、トヨタの戦略だろう。



しかし別の視点で考えると、市場占有率で50%超えをするほどの日本一の自動車メーカーが、己の都合に良い取り組みだけを進めるなら、EV導入を進めようとしているほかのメーカーやインポーターは、これまでと変わらず苦労を強いられる。2030年からエンジン車販売を禁止するとした東京都も、販売促進の補助金を手厚くするようだが、もはや補助金政策ではEV普及は進まない状況だ。

税金を使って、焼け石に水といった政策でしかない。



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トヨタが本格的に乗り出せば、EV導入に限っては管理組合の合意を得なくても、報告義務等だけでコンセントを設置できるような、30年までの時限的な特別措置の考慮なども可能になるかもしれない。



また5000店を超えるトヨタの販売店に急速充電器が設置され、ホンダeの販売を通じてホンダも販売店への急速充電器の設置が完了すれば、全国に7000カ所の急速充電拠点が一気に増えることとなり、それは現在の2倍になる。普通充電器の拠点と合わせれば、ほぼガソリンスタンドの件数に近づく。そうなれば、集合住宅に住む消費者も、もう一度EVの購入を考えるかもしれない。



トヨタの超小型EV「C+pod」がもつ大いなる可能性と「懸念」される事態



トヨタが日本の自動車業界の盟主であるとするなら、業界が本当に成長できる施策に力を添えるようなEV戦略が求められる。

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