0~400m加速タイムを通称「ゼロヨン」と呼んでいた

ある年代のクルマ好きにとって、自動車の限界性能を示す指標のひとつとして忘れがたいのが「ゼロヨン」だろう。



0~400m加速の略称として生まれたこの指標は、停止状態からフル加速して400m先のゴールラインを切るまでのタイムを競うもの。もともとはアメリカで愛好されている1/4マイルドラッグレースに由来するのだが、1/4マイルというのは正確には402.336mであるため、日本式の0~400m加速タイムというのは厳密にいえばドラッグレースのタイムより短くなる。



また、ドラッグレースというのはタイムを競うのではなく、あくまでも同時に走るライバルより速くゴールに到達することが目的の競技であり、クルマの性能を知るための比較としてのゼロヨン計測とは根本的な部分で違いがある。



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そして、20世紀の自動車メディアでは雑誌単位でテストコースを貸し切り、市販車のゼロヨンタイムを計測することが当たり前のように行なわれていた。



なぜなら、自動車メーカーがゼロヨンタイムを発表することはほとんどなく、メディアが独自に計測する必要があったからだ。20世紀の市販車レベルであれば400m地点でスピードリミッター(国産車で180km/h)が作動することもなく、比較的安全にクルマの限界性能を比較できる方法として誌面を賑やかすことが多かったのだ。



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一方で、ゼロヨンというのは速度無制限のアウトバーンを除くと、ほとんどの国の公道においては速度違反に通じる違法行為となる。世の中でコンプライアンスへの要求が厳しくなる中で自動車メーカーは0~100km/h加速、0~60km/h加速、60~100km/h加速といった指標を用いてパフォーマンスをアピールすることが増えていった。



そうした背景もあって、雑誌などが独自にゼロヨンタイムを計測して、どのクルマが最速だ! といったコンテンツを作る機会が減っていった。日本のモーターメディアについていえば、バブル崩壊からつづくデフレ傾向によって全体として製作費が厳しい状況になっている。そのため、400mの加速タイムを計るためだけに大枚をはたいてテストコースを借りるという企画を行なうのが難しくなっているというのも、悲しいことだが事実だ。



エコカーブームによって限界性能は重視されなくなってきた

また、21世紀になってからのエコカームーブメント、すなわちハイブリッドカーの流行や燃費性能へのニーズの高まりに合わせて、限界性能の優劣はさほど気にしないという風にユーザーマインドが変わっていったことも関係しているだろう。



とはいえ、世界のスーパースポーツカーにおいてはゼロヨンを意識した機能を備えているマシンも多い。その機能とは一般に「ローンチコントロール」と呼ばれるもので、最高のゼロ発進性能をクルマが自動的に行なうというもの。



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2ペダルのスポーツカーであれば、特定のモードにしてから、左足でブレーキを踏み、右足でアクセルペダルを目いっぱい踏み込みエンジン回転が指定値に達したあたりで左足から力を抜けば、最適なトラクションをコントロールして最高のスタートダッシュを切ることが可能になっている。



そして、マニュアルトランスミッションのクルマではスタートでのクラッチワークにドライバーの差が出るもの。こうしたローンチコントロールがついているクルマであれば、どんなドライバーでも同じタイムが出ると思ってしまいがちだが、じつは違っていたりする。



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たった400mといっても、クルマが全開加速するときにはどうしても左右に振られてしまう部分はあるし、まっすぐに走っているつもりでも少しでもステアリングが切れた状態ではゴールまでの距離が微妙に伸びてしまう。そのため、オートマ車であっても意外にドライバーの差が出る計測方法だったりするのだ。



ちなみに、ローンチコントロールについては駆動系にとてつもない負担がかかる。そのため、何度もローンチコントロールを利用するとクラッチなどのメンテナンスが必要になることもあるので、ローンチコントロールがついているクルマであっても安易に試すのは避けておくのが吉だ。そもそも数百馬力のスーパースポーツのローンチコントロールを公道で利用することは、危険すぎるのは言うまでもない。

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