布シートと本革シートではかけ心地が大きく変わる
1台のクルマを購入し、気に入るか、気に入らないか、長く乗り続けられるか、そうでないかのひとつの大きなポイントが、シートのかけ心地ではないだろうか。どんなに高額なクルマでも、どんなにシートが豪華でも、自身に合う、合わないは別問題ということもある。身長、体型、運転姿勢、腰痛持ちの有無などで、もし、自身にぴったりの運転がしやすく、快適に座り続けられるシートを手に入れることができたら、愛車への愛着が一層増すというものだ。
実際、運転歴40年超えのボク自身も、やっと自身にとって理想的な、チョイ乗りでも、長距離・長時間運転、走行でもほぼ疲れないシートと巡り合うことができ、そのドイツ車をもう6年も乗り続けているが、手放す気持ちになれないでいたりする。
ところで、輸入車ファンの間では、ドイツ車のシートは硬く、フランス車のシートは柔らかい……と言われていたりする。ドイツ車のシートは、実用車のフォルクスワーゲン・ゴルフでも、あるいは現在のメルセデスベンツCクラスのルーツである190Eでも、シートは張りの強い硬めのかけ心地だ。しかし、硬いからかけ心地が不快……ということにはならない。長時間の着座を想定して、椅子文化のヨーロッパ、ドイツ車らしい綿密な計算、設計が施され、実際疲れにくいと定評がある。
一方、同じヨーロッパのクルマでも、とくにフランス車のシートは柔らかいかけ心地と言われてきた。乗り心地(足まわり)のやわらかさと見事にマッチした、ソファ感覚のシートもある。シート座面のサイドサポート部分の立ち上がりは、ドイツ車で標準的に使われることもあるシートほどではないにしても、体重で座面を沈み込ませ、自然にホールドしてくれるのが、たとえばフランス車のシート(すべてではないが)ということだ。
ちなみに、ボクがダイニングチェアとした最高峰だと思っているのは、フランスのインテリアブランド、リーン・ロゼのチェア。食卓なのに、いつまでも座り続けていたい気にさせる、ふんわりとした快適感ありすぎ!! のチェアなのである。やはりフランスのチェア、シートはさすがである。
そんな椅子文化のヨーロッパ車に対して、長い間畳文化だった日本車のシートは、かつてチープなかけ心地のものが多かった。

話はそれてしまったが、シートのかけ心地については注意点がある。それは、布シートと本革(一部含む)シートで、同じシート骨格、クッションを持っていても、表皮の張りで、かけ心地が大きく違うことがあるということ。
出来るだけ長い時間座って自身に合うシートを選ぶべき
最近痛感したのは、まずはボルボ。上級グレードには贅沢にも本革シートが標準装備されるのだが、本革シートだと、ボクの身長172cm、体重65kgの体型では、シート表皮の張りが(新車時の話ですが)硬すぎる印象。しかし、ベースグレードの布シートだと、体重でじんわりお尻が沈み込み、実に快適で心地よく、体重による自然なサポート性も得られ、より好ましく感じられたものだ(個人による)。

国産車でも、すでに述べたシートの良さが特徴のマツダのMAZDA3でもそう感じた。MAZDA3の自慢ポイントのひとつとしてフォーカスできるシート(前席)は、人間のバランス能力を引き出す、骨盤を立たせた姿勢をたもてるシート設計、レイアウトが肝で、骨盤を立てた姿勢を取らせることで、着座姿勢(&運転視線)を安定させているのだ(だから疲れない)。

実際、MAZDA3の運転席に着座すると、上半身のサポートは自然なのだが、座面はお尻がグッと沈み込み、腰まわりをやさしくサポート。これまであまり経験したことがない新シート、着座感なのである。とにかく心地よく、自然に座れ、運転疲労さえ低減してくれるシートなのだが、それもボクの体型、体重では標準の布シートにあてはまることで、オプションの本革シートだとお尻の沈み込みが少なく、かけ心地がけっこう違ったりするのである。

それは最新のホンダ・フィットにも言えることで、先代までの前下がり的!? な着座感から激変したシートのかけ心地の良さがあるのだが、これも布シートで体感しやすく、最上級LUXEグレードの本革シートになると、やはりお尻の沈み込み感が異なり、あくまで個人的な印象だが、より快適に心地よく座るには布シートに限る、と思ってしまうのである。

話をヨーロッパ車に戻すと、ドイツ車は硬めのかけ心地、フランス車は柔らかめのシートという決めつけは、しかしここ最近では正しくないとも言える。
たとえば8代目となる新型ゴルフ。1.5リッターモデル(e TSI Style)のスポーツコンフォートシートは、先代同様、硬めながら快適感あふれるかけ心地を継承している。

しかし、1リッターモデルの標準シートは、あろうことかフカフカで柔らかい、分厚いクッション感ある、まるでソファのような、フランス車的かけ心地なのである。もしかすると、こうしたシートの需要もあるということかもしれないが、先代までのゴルフオーナーなら、あれれ! と思うはず。もっとも、国産車からの乗り換えならそのソフトタッチによって、むしろ違和感なく乗れるかもしれない。

一方、フランス車のシートが今でもすべて柔らかいかけ心地なのか? といわれれば、そうでもない。比較的硬めの、張りの強いシートを採用している例も少なくないのである(くどいようだが本革シートで顕著)。
ただし、シートのクッション感、足まわりの設定で、絶妙に快適な、「猫足」と呼ばれるような乗り心地を示してくれることは、車種によっては今も変わらない。ルノー・カングーの現行モデルやシトロエンC3のように、往年のフランス車のような、ゆったりとした乗り心地、体をふんわり包み込むようなシートのかけ心地を味わえるクルマもあるのだ(それでも直進感、安定性は文句なしだ)。

いずれにしても、枕やベッドマットレス同様、硬い、やわらかいだけで、個人的な快適感、疲れにくさが決められるわけではなく、やはり自身の体との相性が、お気に入りのシートを見つけられるポイントとなる。
つまり、ショールームのちょい座りではなく、できるだけ長い時間座って、運転して、合う、合わない、を判断すべきなのである。結果、単なる硬めのかけ心地、柔らかめのかけ心地ということだけではない、自身にフィットするシートに出会えれば、クルマのデザインや性能、価格以上の満足感が得られるに違いないのである。