この記事をまとめると
■清水和夫がイギリスのシルバーストーンサーキットにて新型の911GT3RSに試乗した



■空力面をGT3からアップデートし約3倍のダウンフォースを稼ぐことに成功している



■歴代GT3史上最高のパフォーマンスを発揮する珠玉の1台と言っても過言ではない完成度だ



ナナサンカレラのDNAを受け継ぐ史上最速の911GT3を試す

ポルシェ911GT3と言えば泣く子も黙るポルシェ最速のスポーツカーである(自然吸気エンジンの場合)が、さらにその上をいくGT3RSが登場した。



コロナも収束し始めた9月後半に、英国のシルバーストーンサーキットでGT3RSの国際試乗会が開催され、幸運にも最速のポルシェ911GT3RSのステアリングを握る機会に恵まれた。さっそく超高速サーキットのインプレをリポートしよう。



ポルシェ911GT3RSの系譜は50年前までさかのぼる。空冷時代はGT3ではなく、RS(レーン・シュポルト=レーシング・スポーツ)の名前がつけられていた。ポルシェフリークの間では、幻の名車となっているのが1973年式のポルシェカレラRS。通称「73(ナナサン)カレラ」と呼ばれているが、今では希少価値から1億円もするらしい。



【試乗】旋回加速度は驚異の1.5G! 地上の戦闘機「ポルシェ...の画像はこちら >>



「カレラRS」は空冷時代を駆け抜けてきた各911モデルに与えられた最速ポルシェの称号であるが、水冷エンジンの時代にはGT3の名を使うようになった。実際に空冷から水冷エンジンにシフトした1997年、996型911カレラが登場してパワートレインとボディ、サスペンションがすべて一新された。ここがポルシェの飛躍の大きなターニングポイントになった。気になるのはカレラRSの存在だ。そこでポルシェは2003年に水冷エンジンを高度にチューンした新世代のRSをGT3という名前でリボーンさせたのである。



【試乗】旋回加速度は驚異の1.5G! 地上の戦闘機「ポルシェ911GT3RS」をシルバーストーンで全開走行



この初代GT3はイタリアで国際試乗会を開催し、私は幸運にも初代GT3の試乗会に参加したが、官能的で俊敏なGT3の走りに血が沸騰したことをいまでも記憶している。



ポルシェ911カレラはその後、997型から991型、そして992型へと進化するが、そのすべてのモデルにGT3とGT3RSが登場している。GT3とRSの差別化は明確で、RSはサーキット走行を強く意識して開発され、ロールバー付きなので、安心してサーキットを楽しめるモデルである。

だが、ロードカーとしてはノーマルという言い方が微妙だが、GT3が最良であることは間違いない。つまり、GT3の無駄な贅肉を削ぎ落とし、安全部品を標準で装備し、タイヤも溝はあるものの、サーキット走行に耐える性能を与えているのがRSなのだ。言い換えると完全にレーシングカーから公道に舞い降りた競走馬なのだ。



【試乗】旋回加速度は驚異の1.5G! 地上の戦闘機「ポルシェ911GT3RS」をシルバーストーンで全開走行



しかし、最近のGT3のエンジン性能は限界に近い。ポルシェは水平対向6気筒という縛りがあるので、気筒あたりの排気量は現状が限界だ(6気筒で4リッター)。回転数も9000までまわるので、これも限界。また、タイヤの性能もやりきっている。それではどのような手段で速さを増すのか?



【試乗】旋回加速度は驚異の1.5G! 地上の戦闘機「ポルシェ911GT3RS」をシルバーストーンで全開走行



ポルシェが得た結論はレーシングカーの911RSRや911GT3 Rをインスパイアし、空力性能とシャシーの大幅性能アップに挑戦したのである。



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見た目もパフォーマンスもまさに戦闘機そのもの

細かいスペックは下記の表を参照していただくとことにしてここには書かないが、空力性能をレーシングカー並に追求したことで、強烈な旋回性能を有しているらしい。たとえば、風洞実験の計測では時速200Km/hで409Kg、285Kg/hで860Kgのダウンフォースを可能としている。この値はノーマルのGT3のなんと3倍に匹敵するではないか。しかも、F1でおなじみのDRSを巨大なリヤウイングに装備し、フラップを開くと空気抵抗が減りトップスピードが増すが、むしろフルブレーキング時にリヤのダウンフォースを増すことで、安定した制動力が得られるという話に興味が湧く。



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空力の申し子のように、エクステリアは映画「トップガン」に出てくる戦闘機F-14トムキャットのように精悍だ。ボンネットから前後フェンダーには、いたるところに空気の流れを考慮したデザインが見える。ここまで戦闘モードのスタイルだと、街なかは恥ずかしくて走れない。



【試乗】旋回加速度は驚異の1.5G! 地上の戦闘機「ポルシェ911GT3RS」をシルバーストーンで全開走行



コクピットは機能的だ。走行モードも可変ダンパーから可変ベクタリングまで、いろいろとセットアップ可能なスイッチがステアリングホイールに備わっている。短い時間のサーキット走行なので、走りながら変えるほど余裕はなかったので、エキスパートがセットした仕様で走ることにした。ちなみに驚いたのは四輪のダンパーの伸びと縮みがそれぞれ調整可能な幅のなかでセットできること。



【試乗】旋回加速度は驚異の1.5G! 地上の戦闘機「ポルシェ911GT3RS」をシルバーストーンで全開走行



エンジンはGT3と同じだが、7速のPDKはGT3よりもローギヤードかつクロスレシオに変更され、トップスピード重視からコーナーの立ち上がりを優先している。最高速度はGT3が318km/hで、GT3RSが296km/h。0-100km/h加速はGT3RSが3.2秒で、 GT3(PDK)は3.4秒。GT3RSはGT3よりもトップスピードでは劣るが、加速力・旋回力・制動力で勝っている。



【試乗】旋回加速度は驚異の1.5G! 地上の戦闘機「ポルシェ911GT3RS」をシルバーストーンで全開走行



さっそく、テストドライブが始まる。

エキスパートがドライブするGT3に先導されシルバーストーンの洗礼をうける。マシンとサーキットが初めてだと緊張するが、先導車のラインをトレースしながらペースを上げる。まず驚いたことはブレーキが鬼のように利くこと。つい止まり過ぎてしまうこともあったが、首が痛くなるほどよく利く。データで見ると瞬間的には1.6Gの減速度だ。加速はノーマルのGT3と違いがあまりないが、コーナーリング中に積極的にスロットルを開けることができる。ダウンフォースが大きいので、リヤタイヤのグリップは予想以上に大きい。そのため、旋回Gが強烈だ。データでは軽く1.5Gで高速コーナーをクリアした。



【試乗】旋回加速度は驚異の1.5G! 地上の戦闘機「ポルシェ911GT3RS」をシルバーストーンで全開走行



言い換えると、限界の80%くらいで走るかぎり、何も起きないほど挙動は安定している。むしろ自由自在にタイヤの限界を超えて、ドリフトで楽しむには向いていない。グリップ走行に徹し、オン・ザ・レールでの限界走行が似合っている。



このGT3RSは3134万円の価格だが、日本ではすでに抽選状態になっている。もう、これ以上速いポルシェはターボのGT2を除いて存在しないだろう。



【試乗】旋回加速度は驚異の1.5G! 地上の戦闘機「ポルシェ911GT3RS」をシルバーストーンで全開走行

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