では、「サイコパス」とは具体的にどんな類型の人物なのか。実は明確な定義はない。「精神病質者」と訳されるが、それってなに?というのが実際のところだ。
本連載では、サイコパスについて、ビジネス心理学の第一人者でもある内藤誼人氏が、その特徴、対処法、存在が多い職業などについて、時にデータを交えながら解説する。
第三回では、サイコパスのまさに冷徹な側面を象徴する犯罪に関する興味深いデータを紹介する。※この記事は、内藤氏の著作『面白すぎて時間を忘れるサイコパスの謎』(三笠書房)より一部抜粋・再構成しています。
サイコパスが起こしやすい犯罪
サイコパスが起こしやすい犯罪のひとつは、拉致・監禁。サイコパスは犯罪を起こす危険性が普通の人よりも高いのですが、あらゆる犯罪を等しく起こしやすいのかというと、そうではありません。
カナダの法医学精神医療サービスのユーグ・エルベは、カナダの犯罪統計を使って、「拉致・監禁」で有罪となった件数が犯罪全体に占める割合を調べました。すると、2001年の統計では全体のわずか0.34%でした。拉致・監禁という犯罪に手を染める人はきわめて少なく、200人に1人もいません。
ところがサイコパスに限ると、拉致・監禁で有罪判決を受ける割合は11.3%。他の犯罪者に比べ、サイコパスの犯罪者は拉致・監禁で逮捕される割合が圧倒的に高いのです。
なぜ他の犯罪者があまり拉致・監禁を行なわないのかというと、良心の呵責に苛まれ、罪悪感に耐えられないからです。
エルベの分析によれば、拉致・監禁を実行するためには無感情でなければならず、被害者が泣き叫ぶ姿を見つづけても平然としていられるのは、サイコパスだけ。
泣き叫んでいる被害者をずっと見ていても、サイコパスはへっちゃらなのです。
また、サイコパスには「被害者を自分の思い通りにしたい」「自分のおもちゃにしたい」という欲求がもともと強いため、拉致・監禁関連の犯罪が多くなるのだろう、とエルベは指摘しています。
「残虐なこと」を無感情で実行できる
もうひとつサイコパスが起こしやすい犯罪は、凶悪犯罪。普通の人なら、刃物で人を殺すとしても、せいぜい一突きするくらいです。
一方、サイコパスは何十回も突き刺したり、被害者の耳を切り落としたり、目玉をくりぬいたり、という残虐性が際立っています。
普通の人なら気持ち悪いと感じることでも、サイコパスは無感情に実行できるのです。
米国ジョージア・リージェンツ大学のマイケル・ヴィタコは、417名の一般市民にサイコパステストを受けてもらい、3年半以内に犯罪を起こすかどうかを調べました。
その結果、やはりというか、サイコパス得点の高い人ほど凶悪犯罪に手を染める割合は高くなることがわかりました。
サイコパスが「積極的でない」犯罪
ヴィタコはまた、サイコパスがあまり手を染めない犯罪についても指摘しています。それは「盗み」。どういう理由でサイコパスが盗みをしないのかはよくわからないのですが、金品のようなものには、もともとそれほど関心がないのかもしれません。
サイコパスは拉致・監禁や凶悪犯罪には手を染めますが、万引きや窃盗のような犯罪はおかさないのです。
サイコパスにとっては、大胆な犯罪のほうが得られる快楽が大きく、万引きや窃盗といった小さな犯罪では面白くも何ともないのでしょうか。