12日に都内で開かれた自民党の党大会で、陸上自衛隊中央音楽隊に所属する自衛官(3等陸曹)が制服姿でステージに上がり、国家斉唱を行った件が議論を呼んでいる。
SNSや野党からは主に「自衛官の政治的行為の制限(自衛隊法61条)に抵触する」との指摘が行われているが、自民党の高市早苗総裁(首相)は14日午後、記者団の取材に応じ「私人として、旧知の民間の方から依頼を受けた」と、あくまで隊務と関係ないプライベートでの参加であることを強調し、「法律的に問題はない」とした。

他方で15日、木原誠二官房長官(元防衛大臣)は衆院内閣委員会で、政府として「法律に違反するということと、政治的に誤解を招かないかということは別問題で、しっかりと反省すべき」と述べた。また、自民党と連立政権を組む日本維新の会の藤田文武共同代表は、「不適切だったという評価を下さざるを得ない」と苦言を呈した。
実のところ、法的観点からどのような問題があるのか。憲法や訴訟法に詳しい杉山大介弁護士に聞いた。

自衛隊法違反か否かの議論は「難しい」


本件について、最も多く論じられている自衛官の政治的行為の制限(自衛隊法61条、同法施行令87条)は、自衛官の政治的自由を制限する規定である。
杉山弁護士は、「自衛隊法違反かという観点から論じるのは難しい面がある」と指摘する。
杉山弁護士:「自衛隊法61条は『政令で定める政治的行為をしてはならない』と定め、禁止される行為を限定的に解釈しています。
そして、これを受けて、政令である自衛隊法施行令87条は、『影響力の行使』や、『政治的目的をもって利益を得る』など、一定の評価を伴う抽象的な規定を設けています。
したがって、『違反している』という論理を展開することができる一方で、『違反していない』かのような論理を展開することもできます。
自衛隊法は、『窃盗をしたら違法』『放火をしたら違法』といった『白黒』をはっきりつけにくいところがある法令です。だからこそ、政府側、自民党側も、違法に当たらないと主張して通そうとしています」
この論点について決着をつけるには、最終的には裁判所の判決を得るほかないのかもしれない。しかし、杉山弁護士は、本件ではそれは著しく困難だと説明する。
杉山弁護士:「日本の裁判制度は、原則として、当事者間の具体的な権利義務をめぐる紛争の解決に必要な範囲でしか法的判断を行わないというしくみになっています。

したがって、今回の件が自衛隊法に違反するか否かについて、裁判所が判断してくれる前提が揃っていないのです。
たとえば、この件を『おかしい』と考える政党等が、同じ自衛官による歌唱を求めて拒否されたという事実を作り、訴訟提起するなどしない限り、裁判所の法的判断を得ることはできません」

隊員個人の「思想良心の自由」侵害の問題も

自民党の萩生田光一幹事長代行(衆議院議員)は14日の記者会見で、党側の発案ではなく、業者から推薦があり、防衛省が了解していたことを明かした。
とはいえ、政権与党であり内閣(行政)を掌握している自民党から依頼を受けた場合、自衛官が自由な意思で党大会への参加の是非を決定することは困難ではないか。
杉山弁護士:「参加者の投稿画像から、自衛隊の中央音楽隊副隊長も参加していたことがうかがえます。
そうすると、自衛官個人レベルで意思決定できる話ではなく、自衛隊・防衛省側の一定の組織的な判断も経ていると考えられます。
特定政党のためだけに歌唱パフォーマンスをさせられることが、自衛官の個人の思想良心の自由(憲法19条)に対する間接的な制約、あるいは『思想良心に反した行動をとらされない自由』に対する制約になるという議論は、憲法上もあり得ると思います」

国家公務員のあり方の問題

杉山弁護士は、本件については「自衛隊法ないしは同施行令の具体的な規定に違反するか否か」という議論の立て方は本質的とはいえず、それ以前に、国家公務員である自衛官の「国民全体の奉仕者」(憲法15条2項、国家公務員法96条参照)としてのあり方の問題だと喝破する。
杉山弁護士:「そもそも、公務員は日本国全体のために仕事をしなければならない立場です。その中でも強い権力と実力を持つ組織である自衛隊の隊員は、より日本国全体のための奉仕者として、政治的に中立でなくてはならないはずです。
それなのに、自民党という特定の政党の党大会にだけ参加してパフォーマンスをすることは、どう考えても問題です。
政令という、国会が作るものでもない、行政が作るルールのカタログに、ぴったり当てはまる行為が記載してあったかなかったかなどと、枝葉の議論で妥当性を論ずべきものではありません。
また、政権与党として強大な権力を保持している政党が、自衛官を自身たちのパフォーマーとして使ってよいと考えることも問題です。
私は、それは公務員、自衛官の与えられた職責、立場、本質に反することだと考えます。しかし、残念ながら、最近はおかしいという感覚を共有できない人が増えてしまっていると感じます。

たとえば、自衛隊の幹部クラスの中にも、防衛大学校の講師として、専門性を欠いた単なる右翼系パフォーマーを招くといった、自身の思想の組織内への押し付けでしかない行動が見られるなど、公私の区別への意識が鈍磨している人間がいることも間違いありません。
国防というのは、自分の思想や好き嫌いが影響しては困る分野です。日本国全体と、日本国民全体を公平に守る立場でなければなりません。その当然の感覚を共有し難くなってきていることに、強い懸念を覚えます」


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