会社を辞めたい労働者に代わり、退職の意思を伝える「退職代行サービス」が広く浸透している。2月には民間企業による「退職代行」が非弁行為(※)にあたるとして、最大手の代表が逮捕される事件もあったが、いま、その一歩手前の選択肢として「休職代行」への注目も高まっているという。

※弁護士資格を持たない者が、報酬目的で法律事務(交渉、和解、法的判断を伴う相談など)を反復継続して行う行為。弁護士法72条違反であり、2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金に処される可能性がある。
会社と完全に決別する「退職」という重大な決断を下す前に、一旦「休む」という選択。復職する気まずさも気になる中で、あえて「休職」を選ぶ人が増えている背景には何があるのか。数多くの代行案件を手掛ける弁護士法人川越みずほ法律会計代表の清水隆久弁護士に聞いた。

退職代行のこれまでと休職代行の最新事情

退職代行サービスは2020年前後に目立ちはじめ、この数年で急拡大した。会社を去る手続きを業者に任せる姿勢に対しては、賛否が分かれたが、一定数ニーズがあり、いまでは一般的なサービスとして定着している。
その一方で、昨今注目度が高まっているのは「休職代行」だ。かつては人手不足や長時間労働、精神的ストレスが激しい業種や職種に偏っていたが、昨今は新入社員を含む幅広い層から依頼が寄せられ、特に連休明けや長期休暇明けには、精神的な限界を感じて「会社に行きたくないが、すぐに辞めていいのか迷う」という層からの相談が急増するそうだ。

「休職代行」の定義、法的位置づけ

2017年ごろから、退職および休職代行を積極的に受任してきた清水弁護士によると、休職代行は「休職手続きを弁護士が代理人として行うこと」を指し、単に意思を伝えるだけでなく、そこには重要な法的位置づけが存在するという。
「雇用契約において、企業には労働者の心身の健康を守る『安全配慮義務(※)』があります。医師の診断書があるにもかかわらず、正当な理由なく休職をさせずに出勤を強制することは、この義務に違反し、民法415条に基づく債務不履行責任が発生する可能性があります。
また、休職手続きは定期的な連絡や就業規則の複雑な解釈が必要な『法律事務』です。弁護士以外の業者が代理や窓口を行う法的根拠は不明確であり、弁護士法違反(非弁行為)になる恐れがあります」(清水弁護士)
※企業や組織が従業員の健康と安全に配慮する義務のこと。
「企業は従業員が常に安全で働きやすい環境で仕事できるよう配慮しなくてはならない」(労働契約法5条)。
退職代行サービス大手の事業者が非弁行為で摘発されたのは記憶に新しいが、復職を前提とする「休職代行」は、企業とのよりきめ細かなやり取りが求められ、代理権を持つ弁護士ならではの役割といえる。
「弁護士以外が提供している休職代行サービスも見かけますが、どこまで踏み込んでいるのかは不透明です。料金的にはかなり抑えているようなので、依頼者に代わって休職の意思を伝えるだけの可能性も考えられます。
大変な割に報酬はそれほど見込めませんから、積極的にやる弁護士もそれほどいないのではないでしょうか」(清水弁護士)
そうした状況もあり、清水弁護士のもとには絶えることなく、休職代行の依頼が舞い込んでくるという。
「やはり依頼の多くはハラスメントであったり、職場環境に適合できなかったりでメンタルに不調をきたしてのケースが多いです。そうした事情ですから、会社側との交渉や手続きのプロセスで、依頼者が会社からの連絡にきちんと対応できず、結果的に不利になるケースもあり、逐一、寄り添いながらケアすることにもなります」(清水弁護士)

休職代行のメリット/デメリット

そこまで追い込まれているなら、「退職」一択でもよさそうだが、清水弁護士は「退職代行」の依頼でも、「休職」を進言することも少なくないそうだ。その理由は「退職」という重大な決断を一旦保留し、体調を回復させる時間を確保できるからだという。
「依頼者の多くは大手企業の社員や公務員です。ですから、報酬も含め、労働環境は素晴らしいケースが多い。相談時は精神的に追い込まれ、熟慮する余裕がないのはわかるのですが、冷静に考えれば、“いい職場”ではあるんです。
たとえば原因がパワハラだとすれば、休職代行では復職後の労働環境改善も求めますので、問題がクリアされた状態で職場に戻れます。実際に、退職を依頼されたケースで結局、休職に切り替え、その後、部長まで上り詰め、『辞めなくてよかった』と感謝されたこともあります」(清水弁護士)
退職代行を利用し、ストレスを最小限に会社を去れたとしても、その後のキャリアの保証はない。
一方、休職の場合は、交渉のプロセスで解雇される可能性もゼロではないが、復職が前提であり、仕事面の不安は少ない。
休職の理由によっては、傷病手当金の申請サポートもあり、公務員の場合、病気休暇の利用で一定期間、給与が保障されることもあるという。

退職すべきか、休職すべきか…どう判断する?

退職か休職か。最終判断は依頼者に委ねられるが、一度は魅力を感じて入社した会社。少し距離を置いて、心身を穏やかにしたうえで冷静に進退を考える時間をつくってもいいだろう。
清水弁護士によれば、「休職代行」の依頼者には新入社員もいるというが、ある意味で「鋼のメンタル」といえ、あえて辞めない姿勢を評価してもいいのかもしれない…。
最後に清水弁護士に、どんな人が「休職代行」を利用すべきかを聞いた。
「心身は限界だが、まだ退職を決断しきれない。辞めたい気持ちが強いが、会社の待遇や環境には未練がある。会社と連絡を取るだけで動悸がする…。どんな理由であれ、とにかく迷っている人は、休職という選択肢も視野に入れ、弁護士に相談してみることをおすすめします。
たとえば、メンタル不調が理由なら、まずは療養に専念する環境を整えることができます。
もし療養の結果、やはり復職が難しいと判断した場合には、そこから退職代行へスムーズに切り替えることも可能です。
休職の交渉プロセスで解雇されるリスクもありますが、弁護士がついていれば闘えます。
とにかく精神的な苦痛を抱えながら無理に働き続けず、手遅れになる前に動いてください」


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