提訴後、原告代理人の弁護士2人が会見を開き、請求の趣旨を説明。
日本でおよそ4億3600万回のワクチン接種
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。国内では2020年1月に初めて感染者が確認され、23年5月に感染症法上の位置付けが「5類」に引き下げられるまでに、約3300万人が感染した。この間、感染拡大を防ぐためにワクチンの開発・製造が進められ、厚生労働省のウェブサイトによると、全額公費負担で行われたワクチンの「特例臨時接種」の回数は、2021年2月の開始から24年3月の終了までにおよそ4億3600万回に上った。
一方で、ワクチン接種後には、重篤な健康被害も報告された。副反応による健康被害を救済する厚労省の「予防接種健康被害救済制度」への申請は今も続いており、今年4月20日時点で累計申請件数は1万5222件、うち9470件が予防接種による健康被害と認定されている。
親族を亡くした遺族らによる国への集団訴訟も起きている。そして今回、これらの集団訴訟とは別に、息子を亡くした2組の両親が原告となり、新たに提訴に踏み切った。
厚労省は接種による重篤な副作用を把握していたか
提訴後に会見に臨んだ原告代理人の志摩勇弁護士によると、ファイザー社に対しては、製造物責任法に基づき、ワクチンの製造物責任(欠陥)を問うという。訴状では、肺がん治療薬として用いられていたイレッサの副作用で間質性肺炎を発症し症状の悪化または死亡した患者・遺族らが国とイレッサの輸入販売会社に対し、本件と同様の訴訟を提起した際、最高裁が「副作用に係る情報が適切に与えられていないことは、製造物責任法上の欠陥に該当する」との見解を示していたことを挙げている(最高裁平成25年(2013年)4月12日判決)。
本件において、2021年7月7日に行われた厚労省の副反応検討部会では、接種開始から同年6月27日までの間に、39歳以下の若年男性において死亡例を含む34件の心臓障害が発生したことがファイザー社から報告されていたという。
志摩弁護士は「ファイザー社は若年男性に心臓障害が発生するリスクを顕著な事実として把握していたにもかかわらず、添付文書へ記載しなかった」と指摘。ワクチンの添付文書の「警告」欄や「重大な副反応」欄へリスクを記載しなかった点について責任を追及する。
一方、国に対しては、国家賠償法に基づく「規制権限不行使」を訴えている。
志摩弁護士は、ファイザー社からの報告を受け国は、若年男性に心臓障害などの重篤な副作用事例が相次いでいたことを21年7月の部会の時点で把握していたと指摘。
「厚生労働大臣の規制権限により、適時ファイザー社に対し適切な指導をしていれば、添付文書に(リスクの可能性を)記載せしめて接種者に警告することができたにもかかわらず、その義務を怠った」と主張した。
なお、1960年代に慢性腎炎などの治療薬として投与されたクロロキンにより失明被害を生んだ事件(クロロキン網膜症事件)の訴訟において、最高裁は「厚生労働大臣による医薬品規制権限の不行使は、『その許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるとき』には、国家賠償法上の違法性が認定される」としている(最高裁平成7年(1995年)6月23日判決)。
「何が行われていたのか。司法の判断を仰ぎたい」
訴訟の争点になると予想されるのが、2人の青年の死亡とワクチン接種との「因果関係」だ。男性Aさん(享年27)は2021年9月27日、ファイザー社のワクチン「コミナティ筋注」の2回目接種を受け、翌28日に心肺停止により死亡した。
男性Bさん(享年28)は2021年11月11日に同ワクチンの2回目接種を受け、5日後の16日に急性うっ血性心不全で死亡した。Bさんは接種直前に勤務先で受けた健康診断では、「総合判定A・全項目異常なし」と診断されていたという。
Aさん、Bさんともに、すでに「予防接種健康被害救済制度」の認定を受けている。
原告側は、過去に種痘などの強制予防接種によって重篤な後遺障害を負った原告らが国を訴えた裁判(東京高裁平成4年(1992年)12月18日判決)で示された、予防接種と健康被害との因果関係を認めるための「4要件」も満たしているとした。
この要件とは、①接種の翌日に亡くなるなどの「時間的・空間的な密接性」、②持病がないなど他に死因が見当たらない「他原因の不存在」、③症状の重さ、④医学的なメカニズムが認められることを指す。
2021年の死亡から今回の提訴までに時間を要した理由については、原告らが「予防接種健康被害救済制度」の認定に尽力していたことや、「提訴することについて、逡巡(しゅんじゅん)があったと見受けられる」と志摩弁護士は説明した。
同原告代理人の中村友香弁護士は、「健康だった原告らの息子さんが短期間で命を落とした。その原因が社会に十分に知られていない。悲しみや憤り、親としての無力さを抱えていらっしゃる。本訴がどのような答えとなるか分からないが、一つの答えが出せればいい」と、遺族の心情を代弁した。
原告側が不信を抱いているのは、国が若者の心臓障害リスクを把握しながら、規制に動かなかった点だ。先述したように2021年7月の厚労省の副反応検討部会では、すでにリスクが報告されていたとされるが、国がファイザーに対し添付文書の改訂を指示し「重大な副反応」として注意喚起を行ったのは、その5か月後の12月だった。
会見の最後に志摩弁護士は「リスクについての報告が事実上放置されていた背景に何があったのか。裁判を通じて事実を明らかにしたい。司法の判断を仰ぎたい」と語った。
■榎園哲哉
1965年鹿児島県鹿児島市生まれ。私立大学を中退後、中央大学法学部通信教育課程を6年かけ卒業。東京タイムズ社、鹿児島新報社東京支社などでの勤務を経てフリーランスの編集記者・ライターとして独立。

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