「月1時間残業」で労基法違反の疑い 背景に‟労使協定の無効”…大阪の事業所が書類送検
今年2月、労働者に「月1時間」の残業をさせたとして、大阪南労働基準監督署は大阪市の訪問介護事業運営会社と幹部らを労働基準法違反の疑いで大阪地検に書類送検した。
なぜ、たった「月1時間」の残業が違法行為だと指摘されたのだろうか。

36協定なければ「残業1秒」でも違法の可能性

その答えは、同社が「有効な労使協定がないまま」、従業員に残業をさせたためだ。
労働基準法では、1日8時間、週40時間の法定労働時間を超えて働かせることを原則禁止している(労働基準法32条)。
そのため会社は従業員に残業をさせる場合、労使間で時間外労働に関する取り決め、いわゆる「36(サブロク)協定」を結ぶ必要がある。
協定を結ぶ際、労働者側の代表として、過半数で組織する労働組合がない会社では、全労働者(正社員、パート、アルバイトを含む)の過半数を代表する「過半数代表者」を選出しなければならない。
過半数代表者は労使協定(36協定など)の締結のほか、就業規則の作成・変更時の意見聴取を行う役割などを担う。
本件では、この「過半数代表者」が適切に選出されていなかったために、36協定そのものが無効と判断され、残業が違法行為に当たるとして送検された。
労働問題に多く対応する松井剛弁護士は、「悪質な残業代未払いでも捜査されないケースもある中で、36協定が締結されていないことで送検というのは非常に驚きです」と率直に述べつつ、「とはいえ法的には、『有効な36協定が結ばれていない=残業をさせてはいけない』という建付けです。有効でない36協定の下で残業をさせたわけですから、会社や幹部らには労働基準法違反として6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金という刑事罰が科される可能性があります」と説明する。

事業所の‟3割”で代表者が適切に選ばれていない?

一方で、厚生労働省によると、「過半数労働組合がある」「過半数代表者の選出がある」事業所は59.0%に留まることがわかっている。
「過半数代表者の選出がない」と回答した事業所は27.8%で、「不明」10.4%、「無回答」2.8%とあわせると4割に上る。
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このうち「過半数代表者を選出しなかった理由」については、57.6%の事業所が「手続きが発生しなかったから」と回答している。
36協定は毎年の見直し・更新と労基署への届け出が求められるが、こうした「過半数代表者の選出がない」事業所は違法のリスクがあるのだろうか。
松井弁護士は「『すべて労基法のルールの範囲内で従業員を働かせる』ということであれば、違法のリスクはないことになる」として、次のように説明する。

「たとえば、従業員を絶対に1日8時間以上働かせないという場合には、36協定を結ぶ必要はありません。また、同居の親族のみを使用する会社には労基法自体が適用されませんから、この統計にはそうした事業所も含まれているのではないでしょうか」
しかし、会社側にとって現実的に「すべて労基法のルールの範囲内で従業員を働かせる」ことは、「簡単ではない」と松井弁護士は続ける。
「所定労働時間が7時間半などの会社であれば、30分程度の残業は法定労働時間(8時間)の枠内ですが、所定労働時間が8時間の会社であれば、1分たりとも残業させられません。
『定時だから帰って』と使用者が言ったとしても、『このメールだけ送ったら』と従業員が2~3分残業してしまえば、違法になる可能性があります。
企業側の視点で言えば、所定労働時間が8時間の会社では、少しでも残業の可能性があるなら、正しく代表者を選出し協定を結んでおくべきだと思います」(松井弁護士)
なお、過半数代表者は「労使協定締結をする者を選出することを明らかにした上で、投票・挙手等の方法」で‟民主的”に選出する必要がある。管理監督者は過半数代表者になることはできない。
たとえば、役員を含めた全従業員によって構成される親睦団体から選出された者について、過半数代表者の適格性がないとして、「36協定の有効性」それ自体が否定された例もある(最高裁平成13(2001)年6月22日判決(トーコロ事件))。
自分の働く会社が正しく過半数代表者を選出し、適切に36協定を締結しているのか。職場環境を守るために一度調べてみるのもよいのではないだろうか。


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