近年、若手を中心とした会社員の間で「静かな退職」という考え方が注目されている。
静かな退職(クワイエット・クイッティング)とは、従来の熱心な勤務姿勢を捨て、自分の職務に対して最低限の責任だけを果たすという働き方のこと。

背景には「業務による過度なストレスを避けたい」という意識や、職場環境・企業文化への不満の高まりがあるとされ、私生活や心身の健康を守るため、仕事との距離感を見直す動きとして広がっている。
一方で、静かな退職には、職場内のコミュニケーションやチームワークの低下を招くリスクがあるとも指摘されている。必要最低限の業務しかこなさない従業員が増えることで、周囲の社員に業務負担が偏り、不公平感や不満が生じやすくなるためだ。
静かな退職を行っている当人は「自分の職務に対して最低限の責任だけを果たす」という意識を抱いているとしても、実際には「勤務態度が悪い」「業務への意欲がない」と上司や会社から判断されるリスクはないだろうか。

評価・給与の低下や懲戒のリスクに注意

労働問題に詳しい雨宮知希弁護士によると、静かな退職を実施する会社員は、成績評価に影響が出て給料が下がる可能性について注意すべきであるという。
「ほとんどの会社では成果・プロセスで従業員の評価を行うため、『最低限の業務のみ』を徹底すると評価が低くなり、昇給停止・賞与減額・昇進見送りなどにつながる可能性は十分あります。
特に日本企業では『協調性』や『周囲への配慮』も評価対象になりやすいため、本人の意図以上にネガティブに解釈されることがあります」(雨宮弁護士)
また、単に「最低限の業務しか行わない」というだけであれば、通常はただちに懲戒処分の対象になることはない。ただし、明確な業務命令を無視・拒否する、業務遅延や成果物のクオリティ低下が顕著である場合などには「業務命令違反」や「職務専念義務違反」として、懲戒の対象になり得る。
さらに、本人は「適正な範囲で、自分の負担を減らしながら業務している」という認識であっても、実際にはチームメンバーなど他の社員に業務のしわ寄せが及んでいる可能性がある。
この場合、組織全体で見れば、チームのパフォーマンス低下や労働者の不満増加という問題につながるため、人事評価の低下や配置転換の対象になる可能性がある。
また、負担の減らし方が「サボり」といえるほどひどい場合には、業務命令違反・職務専念義務違反に問われ得る点にも注意が必要だ。
懲戒の対象となった場合、具体的には、まずは注意や戒告が行われることになる。それでも勤務態度を改めない場合には減給のリスクがあり、最終的には解雇に至るおそれがある。

「静かな退職」を続けるためのポイントは?

それでは、「静かな退職」を実施し続けたい会社員は、評価が低下して給与が下がったり懲戒処分を受けたりするリスクを回避するために、どのような点に注意すればいいのだろうか。
雨宮弁護士によると、まず、「これだけの仕事をこなしていればいいだろう」と自分の主観で判断しないことが重要だ。上司などに確認しながら、会社員としてクリアすべき業務量や責任の最低ラインを客観的に明確化しておこう。
また、上司や会社からの業務命令には適切に従う必要がある。成果物の納期や品質、目標の達成率なども維持することが望ましい。さらに、周囲の社員への影響をコントロールするため、引き継ぎや情報共有などは手を抜かずに行おう。
さらに、もし会社ともめてトラブルになった場合に備えて、自らの業務内容や達成状況を記録化しておくことも有用である。
とはいえ、会社側としては、社員が「静かな退職」を実施して本来の能力に見合わない低い成果しか出さなくなること、またチームワークが下がったり他の社員の間にも不満が広がったりすることは、避けたい事態であるはずだ。
社員がモチベーションを失って「静かな退職」を実施する背景には、過重労働や評価の不透明さといった問題を放置した会社側にも責任があると自覚して、評価制度の見直しや職場環境の改善に取り組むべきだろう。


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