作家・漫画評論家で、日本共産党福岡県委員会により除籍された職員である神谷貴行氏が、同委員会に未払い残業代の支払いを求めた訴訟で、福岡地裁は6月22日、被告の県委員会が原告の請求を全面的に受け入れる「認諾」の電子調書を作成。判決に至ることなく、原告の"完全勝利"で裁判は終わった。

「請求の認諾」とは、被告が原告の法的請求を全面的に受け入れる訴訟上の行為であり、電子調書が作成されファイルに記録されることにより、請求認容(原告全面勝訴・被告全面敗訴)の確定判決と同一の効力を持つ(民事訴訟法266条・267条)。
原告代理人の平裕介弁護士は「請求の認諾は、(被告を全面敗訴させるものであり、被告側代理人弁護士にとって)法律家としては"禁じ手"だ」と評した。
原告側は7月3日、都内で報告集会を開催。神谷氏は「党職員が労働基準法上の『労働者』(同法9条)であると裁判上正式に認められたのは、共産党104年の歴史で初」と指摘し「はっきりと赤旗で報じるとともに、党大会でも周知議論するなどまじめな対応をとってほしい」と述べた。

「ブラック企業であればあるほど…」

神谷氏は1988年に日本共産党へ入党し、2006年から同党職員として勤務しながら福岡市議団事務局長などの役職を歴任していたが、2024年8月、県委員会は神谷氏の除籍を決定し、党職員としても解雇され、地位を失った。
神谷氏は一連の処分を不当として、党員の地位および雇用契約上の権利を有する地位の確認と、パワハラによる損害賠償を求める訴訟を2024年11月12日に提起。その後、未払い残業代の支払いを求める本件訴訟を2025年5月21日に提起していた。
請求したのは、2021年11月30日から2023年5月30日までの宿直残業代237万8934円などだ。認諾調書などによれば、県委員会では専従者に週1回程度の宿直が強制的に割り振られ、勤務は午後6時から翌日午前9時半まで、2名体制で行われていた。
原告側によると、県委員会にはタイムカードや勤怠管理システムなどがなかったものの、神谷氏が几帳面に手帳へ記録を残していたため、労働時間の計算が可能になったという。
原告代理人の松尾浩順弁護士は、労働時間の管理について次のように述べた。
「本来であれば、労働時間を記録するのは使用者の側です。しかし、ブラック企業であればあるほどこの勤務時間を管理していないケースがあります」(松尾弁護士)
その後、原告側は訴えを変更して請求額を一部引き下げ、遅延損害金(年14.6%)を含めた約300万円が6月末までに支払われた。

「党の内外で主張に食い違い」

神谷氏は会見で、党の説明との矛盾を問題視した。
「党は、職員の労働があたかも"自主的な活動"であり、党が労基法を守るのは"自主的な善意"であるかのように社会に説明しています。
しかし裁判では、党の職員は労働者であるとしっかり認めており、事業主として労基法を守る法律上の義務があるはずです。
わざとわかりづらく説明するのではなく、はっきりと党員の労働者性を認め赤旗で報じるべきです」(神谷氏)
加えて、神谷氏は共産党が「労働者階級の党」を掲げ、「サービス残業をなくすために実労働時間を正しく把握すべき」と主張してきたことなどから「党の主張と党内での運用が食い違っている」と指摘。
県委員会は、請求可能日から3年を過ぎた分について「消滅時効の援用」(一定期間の経過を理由に支払い義務の消滅を主張すること)を行った。
これにより、神谷氏は一部の請求を断念したが、これについても「労働問題で時効3年はおかしいと、共産党の議員は国会で追及してきたはずだ」と語った。
平弁護士も「森友問題をめぐる赤木雅子さんの国家賠償訴訟では、国が請求を認諾したが、赤旗ではこの件について『真相究明が封じられた』と批判的に取り上げてきたはずで、自らが認諾することはこの主張と矛盾するものであり、ありえない」と過去の党の主張との食い違いを主張。
そのうえで、本件について「歴史的な訴訟であり、無署名論文でもいいので赤旗に載せて論じるべきだ」と述べた。
また、松尾弁護士は「党職員が実質的に労働者だとなれば、地区の役員であっても労働者になり得るケースは多いのではないか」と述べ、今後神谷氏以外の党職員にも波及しうるとした。

労働者性の認定「パワハラ訴訟でも武器に」

神谷氏らは今回の請求認諾が、上述の除籍・解雇とパワーハラスメントに関する損害賠償請求の裁判にも影響すると見ている。
「労働者であることが認定された。"政党内部は特殊な世界だ"という党側のロジックが使えなくなり、これまでの労働者に関する判例が使えるようになる。武器を得たのだと思う」(神谷氏)
平弁護士は、党内のパワハラ問題について「神谷さんが受けた『査問』などの行為は、組織的に、集団で本人を自殺に追い込む行為であり、宝塚歌劇団の事件(※)と何が違うのか」と指摘。

※宝塚歌劇団の劇団員の女性が2023年に死亡した事件。同歌劇団は上級生らによるパワハラを認め謝罪した。
「パワハラ訴訟では、(原告の請求を全面的に認める)認諾はありえないと思う」とも語った。
報告集会には、神谷氏と同じく、除名処分をめぐって党と係争中の松竹伸幸氏も出席。松竹氏は「この裁判での勝利を力にして、党職員の労働条件を良くしていってほしい」と述べ、「党内に労働組合を結成し、中央委員会に団体交渉を申し入れるべき」と提起した。
神谷氏は結びに、専従職員の在り方を党内で議論し、国民にも説明するよう求めた。
「時代に合わせて、共産党をどういう党にしていくべきか話し合っていかなければならない。そのためにも、党中央には赤旗で報じるとともに、党大会でも周知議論するなど、まじめな対応をとってほしいです」


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