この先、日本に“ニュートヨタ”は生まれるのだろうか? 思想家で投資家の山口揚平氏は、元プロサッカー選手の中田英寿さんの言葉を引用しながら、「イーロン・マスクを生み出すことのできたこの世界”の新しい仕組みを考えることのほうが本当は大事」と言います。本稿では、山口氏の著書『3つの世界 キャピタリズム、ヴァーチャリズム、シェアリズムで賢く生き抜くための生存戦略』(プレジデント社)より一部抜粋して、新しい世界の仕組みについて解説します。

キャピタリズムで生き残る2つの分野

果たして「ニュートヨタ」は生まれるか

過去の著書で、「企業は価値を創造するコミュニティ」だと書いたことがある。すなわち、企業には、それぞれに掲げる価値観が定まっており、その価値の創造にコミットできているかどうかが重要なのである。トヨタが自動車で日本の産業を牽引してきたように、今後は“ニュートヨタ”が生まれるのかどうかが日本にとっては最重要課題となる。

日本を代表する企業の創業は、いずれも100~200年ほど前だ。そもそもトヨタも、創業当時は一つのベンチャー企業に過ぎなかった。もし今後、次のトヨタとなるような企業が出てこなければ、日本の未来の雲行きは怪しい。

現在でも、若者たちに「プログラミングをやれ」、あるいは「英語をやれ」といったアドバイスが投げかけられることがある。

ただ、それがいつ何の役に立つのかわからないのが実情だろう。むしろ、より大局的な視点から、集約される産業で自分がコミットすべき分野を戦略的に選ぶことこそ、キャリアを考えるうえでは重要である。

イーロン・マスクはなぜ偉業を達成できるのか

元プロサッカー選手の中田英寿さんがテレビの取材で、「僕がすごいんじゃない、サッカーが偉大なんです」と答えているのを聞いて、「そうだよな」と思ったことがある。

サッカーは、ボールと空間さえあれば誰でも、どこでもできる意味で貧富の差を問わない。もっとも敷居の低いスポーツであり、それゆえに世界最大の競技人口を抱え、大きなマーケットを形成できる。サッカーは偉大である。

同じように、“リアルアイアンマン”として人気絶頂のイーロン・マスクは起業家のヒーローだ。けれど、単に彼を追いかけるのではなく、“イーロン・マスクを生み出すことのできたこの世界”の新しい仕組みを考えることのほうが本当は大事だ。

彼はPayPalをeBayに売却した資金1億8000万ドル(約200億円)を元手にスペースX(宇宙ロケット)を起業し、テスラ・モーターズ(電気自動車)にも出資。すぐにCEOに就任する。さらにソーラーシティ(太陽光発電)を立ち上げ、800マイル毎時(1300km/h)の輸送機関ハイパーループ(真空チューブ鉄道)構想を発表。ブレイン・マシン・インターフェース(脳と機械を直接つなぐ技術)のニューラリンクも創業している。

スペースXは衛星通信サービス「スターリンク」も手がけている。空が開けた場所ならどこでもインターネットが利用でき、光回線や携帯電話の電波が届かないエリアでもネットに接続できる革新性がある。

一人の人間が人類レベルの偉業を複数成し遂げられるこの世界の仕組みは、一体何なのか。

その答えは、最高の技術知見へのアクセス可能性と、圧倒的な資本調達の可能性にある。

起業家の役割を大雑把に挙げるなら、全体構想とモジュール分解に集約される。きっとイーロン・マスクは、「この世のあらゆるモジュール分解された資源を調達し得ること」を疑っていない。

だからこそ、自身はひたすら構想とそれを実現するための知識に集中し、構想化された方程式が現実世界で機能するかどうかをひたすら検証し続ける。そして、資本集約するための技術と信用を保持するといったことだ。

我々は通常、リソースベースで物事を考えてしまう。だがこれは、分業とネットワークが十分でなかった20世紀の発想だ。今や、世界はあらゆる分業と資源の調達を可能にする。

新しい物事の実現に必要なのは、構想と信用と公共精神に過ぎないのだ。

それが今の世界の仕組みである。

山口 揚平

ブルー・マーリン・パートナーズ株式会社

代表取締役