
自動車部品やベアリング、工作機械などを手がける大手メーカーのジェイテクト<6473>は、2025年7月にニードルローラーベアリング(針状ころ軸受)の欧州事業をドイツの投資会社に譲渡する。
2024年8月に策定した中期経営計画(2025年3月期~2027年3月期)で掲げた「グローバル体制の再構築による経営、事業体制の強化」の方針に沿ったもので、欧州市場で事業の整理、統合を進め、黒字化を目指す。
ベアリングの光洋精工と工作機械の豊田工機が合併しジェイテクトとなった2006年以降の主なM&Aは5件で、事業譲渡は今回が初めてとなる。
同社では今後も各地域の市場環境に応じた最適な戦略と事業編成によって、体質改善を進めるとしており、さらなる子会社や事業の売却の可能性を示唆している。
ただ現中期経営計画では「既存事業の成長と新規事業の育成により新たな成長ステージへの変革を進める」とし、前中期経営計画(2022年3月期~2024年3月期)の2倍に当たる1100億円の成長投資資金を計上した。
M&Aを活用して事業を拡充してきた同社が次に繰り出す一手は、「売り」ではなく「買い」となる可能性は低くはなさそうだ。
80%を超える当期減益に
欧州事業については2024年8月の時点で、これまでの構造改革で2026年3月期に業績は底を打つとの見通しを明らかにしており、事業の整理、統合を進め、欧州黒字化に向けた計画を2025年3月期中に策定するとしていた。
欧州のニードルローラーベアリング事業の売却は、この黒字化に向けた計画の一環で、2025年2月に同事業を備忘価額(価値のない資産に付ける金額で、1円や10円などの少額の区切りのいい数字が用いられる)で譲渡し、2025年3月期に特別損失130億円を計上するとともに、当初予定していた2025年3月末の譲渡完了を7月に変更した。
特別損失の計上により2025年3月期の業績予想を修正しており、当期利益を当初より150億円少ない50億円(前年度比87.6%減)に引き下げた。
また同期の売上高は日本や中国、欧州で自動車市場が振るわないことなどから1兆8600億円(前年度比1.7%減)に、営業利益は550億円(同24.6%減)に留まる見込み。
ジェイテクト誕生以降のM&Aは、今回の事業譲渡以外はすべて買収案件。誕生3年後の2009年にニードル軸受関連製造技術の向上と北米、欧州、アジアでの生産、販売体制の確立を狙い、米国の大手ベアリングメーカーのザ・ティムケン・カンパニーからニードル軸受事業を取得。
その後はしばらくM&Aから離れ、8年後の2017年にインドの持ち分法適用関連会社で自動車のステアリング(操舵装置)関連部品を製造するSONA KOYO STEERING SYSTEMS(現 JTEKT INDIA)を子会社化。
さらに同年にはやはり持ち分法適用関連会社で、自動車の操舵装置を構成する部品の一つであるステアリングコラムを生産する富士機工(現 ジェイテクトコラムシステム)を子会社化した。
2020年には自動車の駆動輪の回転差を吸収する部品であるデファレンシャルギアを生産する豊精密工業(現 ジェイテクトギヤシステム)を子会社化し、ジェイテクトが手がける製品と合わせて駆動製品の事業基盤を強化した。

工作機械は堅調に推移
ジェイテクトは1921年に大阪府でベアリングの生産を始めた光洋精工社(1935年に光洋精工を設立)と、1941年に愛知県で金属工作機械の生産を目的に、トヨタ自動車から分離独立した豊田工機が合併してスタートした。
現在は自動車部門(電動パワーステアリング、油圧パワーステアリング、燃料電池自動車向け減圧弁など)、産機・軸受部門(ローラーベアリング、ボールベアリング、ベアリングユニットなど)、工作機械部門(研削盤、マシニングセンター、切削機、制御機器など)の3部門からなる。
直近の2025年3月期第3四半期では、自動車部門は日本や中国、欧州が振るわず、売上高は前年同期比2.4%減、部門利益は52.0%減となり、産機・軸受も日本や欧州が振るわず、売上高は2.7%減、部門利益は37.2%減となった。
一方、工作機械部門は堅調で、北米やアジア、中国を中心に売り上げが3.2%増加したほか、部門利益も為替の影響や原価低減の効果などで12.8%増加した。
欧州事業の業績が底を打ったあとは
現中期経営計画では2027年3月期に売上高2兆円(2024年3月期は1兆8915億400万円)を見込んでおり、この目標を実現するために既存事業の成長と新規事業の育成に取り組む。
既存事業への投資は3年間(2025年3月期~2027年3月期)で3450億円を見込んでおり、過去3年間(2022年3月期~2024年3月期)より490億円多く、新規事業などの成長投資は3年間で1100億円の計画で、過去3年間より550億円多い。
こうした状況を踏まえると、欧州事業の業績が底を打ったあとは積極策に転じる可能性は高そうだ。
文:M&A Online記者 松本亮一
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