【ライブレポート】3日間で100曲披露 忘れらんねえよ全曲LIVE最終公演
忘れらんねえよ『全曲LIVE〜忘れらんねえよの曲ぜんぶやる〜』2024年5月3日下北沢 近道 (Photo:岩佐篤樹)

忘れらんねえよが2024年のゴールデンウィークの3日間(4月28日、5月1日、5月3日)、既存97曲と新曲3曲のトータル100曲をやり切る「全曲LIVE~忘れらんねえよの曲ぜんぶやる~」を開催した。ここでは最終日の下北沢・近道の模様をレポートする。



そもそも「CからはじまるABC」「この高鳴りをなんと呼ぶ」「俺よ届け」がそれぞれYouTubeで100万回再生を突破したことを記念し、「この高鳴りをなんと呼ぶ」を約9時間の生配信中に100回歌唱するなど「100」にまつわるトライを積み重ねてきた柴田隆浩(Vo&Gt)。今回の100曲ライブは所属事務所のマネージャーの提案だったそうだが、シンプルに考えてしばらくライブで披露していない曲の復習、バンドでの練習はもとより、今となっては思い出したくない精神状態がフラッシュバックする時期の曲もあるだろう。単に体力の限界に挑戦する企画ではないのだ。ということは今の柴田はすべてを受け入れ俯瞰する精神状態にあるのかもしれない。



【ライブレポート】3日間で100曲披露 忘れらんねえよ全曲LIVE最終公演

柴田がギターを掲げるデザインのグッズTシャツを着込んだ人もかなりいて、しかも年齢層も厚いコアなファンが続々とフロアを埋めていく。各々の期待感で空気が満たされたところに、サポートメンバーのイガラシ(Ba / ヒトリエ)、ロマンチック☆安田(Gt / 爆弾ジョニー)、タイチサンダー(Ds / 爆弾ジョニー)が脱力した「ワタリドリ」([Alexandros])を鳴らし、スタッフに担がれた柴田がフロアからプロレス入場。

お馴染みの光景だが、いきなりテンション爆上がりである。



「始めましょうか、全曲ライブ最終日」と、覚悟の決まった第一声から比較的近作と言っていいであろう『週刊青春』から「君は電話に一切出ない」でロケットスタート。歌詞の一部を「お前らのことが好きだ」にアレンジして、その一体感ごと「僕らチェンジザワールド」に突入、「セイエス!」のシンガロングも勢い大きくなる。続く「YouTuberになればモテると聞いた」と、いわば一貫した非モテの表現と時代ごとのモチーフの変化を感じる。最初のMCでは初日にMCの時間配分を見誤り3時間超過したそうで、「あまり長くなるとスタッフが来なくなるからチャチャっとやります」と柴田。事実だけにより笑えてしまう。



【ライブレポート】3日間で100曲披露 忘れらんねえよ全曲LIVE最終公演

ロマンチック☆安田(Gt / 爆弾ジョニー)

リリース時期は様々だが、共通するテーマごとのセクションで畳み掛けるセットリストは感情移入を促す。バンドマンのロマンが横溢する「今夜いますぐに」を発端に、「夜間飛行」のタイトルコールに上がる歓声の大きさに意図を汲んだファンとの気持ちの交信が見えないけれど、確かな絆を浮かび上がらせる。安田が空間的な音色を放ち、柴田がとつとつと言葉を重ねていく「東京」も素晴らしい。柴田曰く一回しか出せない“東京”というカードを切ったにも関わらず代表曲にはなっていないと自虐する。でも眼前のファンが今聴いてくれていることがうれしいのだと言う。いや、まだ可能性は大いに感じる名曲だと思うのだが。



続いて今も昔も小さい自分を思わず笑ってしまうような曲の連投は「これだから最近の若者は最高なんだ」、「いやがらせのうた」と、最新作『いまも忘れらんねえよ。』から披露し、不思議と悟ったような、痩せ我慢のような歌詞が刺さる初期の名曲「パンクロッカーなんだよ」に時間を超えて接続する。マイクの音が割れるほど切実に絶唱する柴田は歌い終えると「ありがとう、俺!」と言い放った。自分が作ったものが未来の自分を救うのだ。



【ライブレポート】3日間で100曲披露 忘れらんねえよ全曲LIVE最終公演

忘れらんねえよ 柴田隆浩(Vo&Gt)

感動的なムードを転換するように菅田将暉の新作に自分の提供曲はないという確認?を挟み、GWど真ん中に結集するファンに「予定はねえのかー?」とうれしそうに聞き、同胞感を盛り上げる。いや、ライブハウスまで足を運ぶだけで十分アクティブじゃないかと祝うように次なるレパートリーは「踊れ引きこもり」。

そしてタイチがクラッシュの「トミー・ガン」めいたドラミングで(曲自体の構成もクラッシュぽいが)「時間がないっす」に突入。タイトル通り、超ショートチューンなのも小気味いい。そして「バンドやろうぜ」のタイトルコールにはひときわ大きな歓声が上がる。めちゃくちゃ策を練って、それでも突き抜けられなかった時期の柴田の苦悩もないまぜになって昇華されるような、心の真ん中にあるようなこの曲に、今も感情移入してしまう。大袈裟なMCではなく、曲を積み上げることでしか伝わり得ない、このライブの手法が光る。



【ライブレポート】3日間で100曲披露 忘れらんねえよ全曲LIVE最終公演

タイチサンダー(Ds / 爆弾ジョニー)

メンバーが袖にはけ、柴田が弾き語りで披露するのはボツCDからの「俺は金を借りていないような気がする」というレア選曲。

そのボツCDを所有しているファンが挙手したことで、ちょっと羨望と尊敬の眼差し?が向けられていたフシも。別の曲が合体したキメラ的ナンバーだと柴田が言う通り、ダントツでシュールな曲だった。



再登場したメンバーを紹介しつついじり(安田のジャケット姿を「ひとりだけビルボードのままのやつがいる」とか)、100曲ライブの実施に際し、「自分の曲ってほんとに変わってないんだな」と気づいたと話す柴田。受け入れるしかないと言うより、今は楽しそうだ。



【ライブレポート】3日間で100曲披露 忘れらんねえよ全曲LIVE最終公演

柴田は変わらないと言いつつ、曲のテーマが恋愛、人生の野望とかバンドをやることであったりと、いずれも言葉を濁せないものだけに曲がヒリヒリしたものになるのは当然で、絶対自分を偽れない人と対峙する状況に震える「いいひとどまり」と「プロポーズ」。そして歌詞の一部を「ゴールデンウィークなんてただの平日だろ」とアレンジして届けた「俺たちの日々」の、世間一般に背を向けることを決めた自分だけの戦いの意思に会場全体が溢れる感情を声や拍手に託していた。



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ほぼ折り返し地点で、柴田は次の曲を「この曲を出したらある人に怒られると思ったら、ライブに呼んでくれたり、自分たちのツアーに出てくれたり。バンドやってて良かったな」と、類は友を呼ぶじゃないが、神聖かまってちゃんと結果的に交流するきっかけになった「青年かまってちゃん」の愛の盲目、さらにグッとグランジなライブアレンジになり、妄想の1ミリの可能性がヒリヒリと刺さる「絶対ないとは言い切れない」と続く。堀北真希の吐いた息が今この空気かどうかは知らないが、ギターを持って鳴らすことで世界を変える歌にならないとは言えない。絶妙な対照に柴田のスキルを見る。



【ライブレポート】3日間で100曲披露 忘れらんねえよ全曲LIVE最終公演

そのタイミングのMCで、柴田は今回の100曲ライブで改めて「全部同じこと言ってる」ことに気づいたと言った。「だから変わりません!」と続けた口調には自嘲も誇りもなく、ごくフラットに聞こえたのだ。それが15年続けてきた現在地ということなんだろう。続いて最近のナンバーである「悲しみよ歌になれ」が披露されたことで、MCの意味がさらに沁みた。歌詞通り、まさに泣き叫ぶように「生きていて良かったと泣ける日が」と歌い、ダメになりそうな夜にいる人を全力で肯定する「世界であんたはいちばん綺麗だ」でも絶唱を聴かせた。体力は全然ありそうだったが、歌うことが脳を恐ろしく揺らしているのは想像に難くない。ここまでギチギチに詰め込んで20曲。脳が酸欠になりそうだ。なのにである。「どんどん暗い沼に降りて行きましょう」と、猛烈な自己嫌悪が暴発するヘヴィチューン「ここじゃないけどいまなんだ」も渾身の絶唱。



【ライブレポート】3日間で100曲披露 忘れらんねえよ全曲LIVE最終公演

忘れに対する圧倒的な信頼の理由でもあるヘヴィネスから打って変わって、馬鹿馬鹿しさが加速する「風に吹かれて(毛が)」、忘れ流ミクスチャーでセルフラブの真髄をいく「俺を守りたい」、揃ってヘドバンするフロアのエネルギーに押される「あの子に俺が分かってたまるか」、を連投。この日何度目かの「サイコー!」が思わずこぼれた後の「うつくしいひと」の真っ直ぐさはまさに美しい以外の言葉がなかった。



【ライブレポート】3日間で100曲披露 忘れらんねえよ全曲LIVE最終公演

「残り8曲です。100曲しっかり練習してさ、聴きたくない曲もあるかと思ったけどそんなことないな」という柴田の感想に同意するフロア。そして「初日、2日目見た人はわかると思うけど、ここからエモいことになるんですよ」と、未演奏曲の濃さにステージ上もフロアもマグマが蠢くような期待感。明確に残りのレパートリーを把握しているファンも多いようで、爆発の準備万端なんである。柴田もすごいがファンもすごい。



「すべての始まり」と曲振りをしてからの「音楽と人」、ハードコアパンクバンドばりの盛り上がりを見せる怒涛の2ビートナンバー「この街には君がいない」、そして「サンキューアイラブユー世界」では「お前らのことだからな!」と叫ぶ柴田。バンドをやること、もっと言えば生きるモチベーションに関わるレパートリーが続く。



【ライブレポート】3日間で100曲披露 忘れらんねえよ全曲LIVE最終公演

イガラシ(Ba / ヒトリエ)

長いMCはほぼないままに95曲目を迎えたところで、柴田は「エモいMCやると思うんですけど言葉じゃダメなんだよね。歌なんですよ。歌えば救われる気がする」と、モチベーションとは?を歌にしたような「この高鳴りをなんと呼ぶ」を絶唱。曲中にメンバー紹介をしたものの「俺、ベースのイガラシ紹介したっけ? 記憶喪失になってきた」と柴田。気力を体が覆しているのだろう。終盤の数曲はもはや気力勝負。ファンも吐露するように「明日とかどうでもいい」とシンガロングする同名曲。1stシングル「CからはじまるABC」と、代表曲で畳み掛ける。確かにもはやエモいMCは不要だ。本編ラストかつ98曲目はバンド名を冠した始まりの歌「忘れらんねえよ」をセット。ファンが灯すスマホのバックライトだけで十分明るいことが、なんだか比喩的で美しかった。



【ライブレポート】3日間で100曲披露 忘れらんねえよ全曲LIVE最終公演

程なくアンコールで戻ってきた4人が鳴らしたのは現在の最新作からミディアムのピアノナンバー「知ってら」だった。楽しい時や幸せな時はいつか終わってしまうことを知っているーー100曲を完走する直前にしっかり切なくなってしまった。そしてラストは「そっか、自由か。」曲の終わりに柴田が発した「お前ら全員、幸せになれ!」、その言葉が今の忘れらんねえよを象徴しているようだった。



【ライブレポート】3日間で100曲披露 忘れらんねえよ全曲LIVE最終公演

100曲完走のフィジカルなエネルギーはもとより、自分の作った曲すべてと向き合うエネルギーを想像すると目眩がする。この3日間が次の忘れらんねえよにきっと繋がっていくのだろう。



【ライブレポート】3日間で100曲披露 忘れらんねえよ全曲LIVE最終公演

Text:石角友香 Photo:岩佐篤樹



<公演情報>
『全曲LIVE~忘れらんねえよの曲ぜんぶやる~』



セットリスト

■Day1 2024年4月28日下北沢 近道
M1. ドストエフスキーを読んだと嘘をついた
M2. 僕らパンクロックで生きていくんだ
M3. おつかれダーリン
M4. 夢に出てくんな
M5. いいから早よ布団から出て働け俺
M6. 氏ね氏ね氏ね
M7. 喝采
M8. あいつロングシュート決めて
M9. 歌詞書けなすぎて、朝
M10. 美しいよ
M11. 俺の中のドラゴン
M12. 体内ラブ~大腸と小腸の恋~
M13. 紙がない
M14. Happy birthday! とはいえ俺は誕生会に呼ばれていない
M15. 犬人間
M16. お前の話は聞いていない
M17. ゾンビブルース
M18. 俺にやさしく
M19. 君は乾杯のとき俺とだけグラスを合わせなかった
M20. 寝てらんねえよ
M21. ばかもののすべて
M22. 7.1oz
M23. 愛の無能
M24. 花火
M25. おしぼりを巻き寿司のイメージで食った
M26. バレーコードは握れない
M27. 犬にしてくれ
M28. 戦う時はひとりだ
M29. 別れの歌
M30. 君の音
M31. 俺よ届け
M32. 元カレ応援歌
M33. 北極星



■Day2 2024年5月1日下北沢 CLUB QUE
M34. いいから
M35. 明日晴れるといいな
M36. 喜ばせたいんです
M37. あんたなんだ
M38. ロックンロール体操
M39. 中年かまってちゃん
M40. 運動ができない君へ
M41. マイナビバイトの歌 2017
M42. だんだんどんどん
M43. 2時間なんもしなかった
M44. そんなに大きな声で泣いてなんだか僕も悲しいじゃないか
M45. 戦って勝ってこい
M46. ZERO
M47. みんなもともと精子
M48. アワナビーゼー
M49. あなたの背後に立っていた
M50. ブログを覗き見る
M51. 眠れぬ夜は君の名をググるよ
M52. 月に変わってお仕置きしてくれないか
M53. バンドワゴン
M54. ありのままで受験したら落ちた
M55. 慶応ボーイになりたい
M56. ピンクのアフロにカザールかけて
M57. タイトルコールを見てた
M58. なつみ
M59. ばかばっか
M60. スマートなんかなりたくない
M61. ハナノユメ
M62. アイラブ言う
M63. だっせー恋ばっかしやがって
M64. 新・俺よ届け
M65. まだ知らない世界
M66. いんきゃでわるいんきゃ



■Day3 2024年5月3日下北沢 近道
M67. 君は電話に一切出ない
M68. 僕らチェンジザワールド
M69. YouTuberになればモテると聞いた
M70. 今夜いますぐに
M71. 夜間飛行
M72. 東京
M73. これだから最近の若者は最高なんだ
M74. いやがらせのうた
M75. パンクロッカーなんだよ
M76. 踊れ引きこもり
M77. 時間がないっす
M78. バンドやろうぜ
M79. 俺は金を借りてないような気がする
M80. いいひとどまり
M81. プロポーズ
M82. 俺たちの日々
M83. 青年かまってちゃん
M84. 絶対ないとは言い切れない
M85. 悲しみよ歌になれ
M86. 世界であんたはいちばん綺麗だ
M87. ここじゃないけどいまなんだ
M88. 風に吹かれて(毛が)
M89. 俺を守りたい
M90. あの子に俺が分かってたまるか
M91. うつくしいひと
M92. 音楽と人
M93. この街には君がいない
M94. サンキューアイラブユー世界
M95. この高鳴りをなんと呼ぶ
M96. 明日とかどうでもいい
M97. CからはじまるABC
M98. 忘れらんねえよ
M99. 知ってら
M100. そっか、自由か。



<ライブ情報>
忘れらんねえよ『酒クズとツレ伝。』



6月1日(土) F.A.D YOKOHAMA
6月8日(土) 名古屋 CLUB UPSET
6月9日(日) 千葉 LOOK
6月30日(日) 仙台enn 2nd
※全公演PK shampooとのツーマン



忘れらんねえよ ツレ伝ツアー『夏の死闘』篇



7月17日(水) 水戸LIGHT HOUSE
7月18日(木) HEVEN'S ROCK宇都宮
7月21日(日) 梅田Shangri-La
7月23日(火) 渋谷CLUB QUATTRO



チケットはこちら:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2450749(https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2450749&afid=P66)



オフィシャルサイト:
https://www.office-augusta.com/wasureranneyo/