「ここ数年でトータルで30人近くが離農」「補助金があってもハードルは高い」脱サラしたコメ農家(39)が語るコメ作りの現実と怒り「コメの高騰は完全に政府のミス」
「ここ数年でトータルで30人近くが離農」「補助金があってもハードルは高い」脱サラしたコメ農家(39)が語るコメ作りの現実と怒り「コメの高騰は完全に政府のミス」

農林水産省は3日、備蓄米放出に向けた15万トン分の初回入札を10~12日に実施すると発表した。備蓄米放出の背景には異常高値が続く米価がある。

価格がここまで高騰した理由をめぐる取材では、北関東の農業県・栃木でも貴重な証言を次々と得た。♯6の前半に続き、25歳で脱サラして専業のコメ農家に転身した岡田伸幸さん(39)に話を聞いた。 

「なりたい人はまだいます。でもハードルが高い」

コメ作りで累積1億円の借金を抱えるも、昨今はようやく少しずつ利益も出るようになったというコメ農家の岡田さん。彼に近況や、備蓄米放出について聞いてみた。

「単年のマイナス額も5万円とか10万円とかそのくらいで『惜しいっ』みたいな感じになってきて。米価に左右されるので毎年ではないですが直近ではなんとか年収400万円くらいになり、コメの価格が高騰した去年は600万円くらいまで増えました。やっぱり嬉しいですよ。

備蓄米が放出されたとしても今年に関しては、去年と同じくらいの価格で推移するのかなとは思っています。またいつ価格が落ちるのかわからないですが、今くらいの価格であればやっていけるんですけどね。

あと僕みたいに脱サラしてコメ農家をやりたいって人は想像以上に多いし、実際にやり始めている人も周囲にいます。40代で脱サラしてコメ農家を始めたものの『何をやっても黒字化できない』という相談も受けますし、『あなたのところで働いて、どうやって黒字化したのか体験してみたい』と来られた方もいました」

コメ農家を志望する他業種の若手も少なくないが、参入障壁も依然として高いという。

「過去最高にコメ農家は減少していると言われていますが、なりたい人はまだいます。でも、やっぱり色々ハードルが高いんですよ。農機具を購入するための補助金はあっても、さまざまな条件を課されます。

その中でも一番きついのが営業利益を黒字化しないといけないという条件でしょう。そのためには事業規模を大きくする方がいいけれど、そうすると今度は機械や人件費が増えていく。小規模で農地を持っていない場合、お金を払って田んぼを借りればまず利益は出ないと思います。

僕の周囲でも高齢者をはじめ、この数年でトータルで30人近くが離農されました。何とかコメ農家減少に歯止めをかけたいのですが」

「コメの価格が高騰しても続けていきたいという気もない」

参入障壁を引き下げ、コメ農家の成り手を増やすのは、いうまでもなく農業政策を担う国の仕事である。栃木県内の別のコメ農家の70代男性も、こう嘆く。

「ずっと建設業と兼業で農家をやってきたけど、もう何年かしたら辞めようかと思っています。セガレもやりたがりませんし、私もそれでいいと思っています。コメはJAに持って行っていますが儲かる儲からない以前の話ですからね。私の場合は1ヘクタールにも満たない小規模で、利益はまったく出ません。

何のためにやっているのかと聞かれれば、私が長男で父親が亡くなった時に誰も継ぎたがらず、仕方なく継いだという理由で今も続けています。高くコメが売れるのに越したことはないと思っていますが、そもそもコメの価格が高騰しても続けていきたいという気もないです。

もう15年以上やっていますよ。私が辞めたあとは、ここの田んぼを知り合いのコメ農家の人に見てもらうように頼んでいます。お金を払ってまで借りたいという田んぼでもないので、こちらから頼んで面倒見てもらう感じですよ。

近くに農地を拡大したいって人がいれば田んぼだけでなく畑も一緒に面倒見てもらうこともできるんですけどね。なかなか外から入ってきて借りたいなんて人はいませんから。かといって放置しておいたらすぐ草がボーボーになりますし、それは色んな人に迷惑かかっちゃいますから」

コメ農家の大半は高齢化し、疲弊している。主食の生産現場をここまで疲れさせ、“絶望工場”に貶めたのは誰なのか。栃木県内の別のコメ農家の男性にはその犯人の目星がとうについていた。

「コメ高騰なんて完全に政府の政策のミスだと思うよ。JAも農家から得たコメを右から左に動かしてそれで手数料得てるわけだけど、昔からの悪習もあるんだよね。

昔は各集落からJAに1人雇ってもらう習慣があったんだけどさ、そいつに『俺の顔立ててよ』なんて言われると、コメにしても野菜にしてもまったくJAに持って行かないってわけにもいかないでしょ。

コメ農家が越境して他のJAに持っていくことはできないけど、別の業者に持ち込んで100円でも200円でも高く売りたいって人はたくさんいると思うよ。だって、ただでさえ利益がないんだから。ただ、付き合いとかしがらみもまだあると言えばあるんだよな」

JA職員がコメを横流しした不祥事も…

JAに“人質”を取られてコメを上納する。そんな「悪習」も今や昔とこの男性は自嘲するが、昨年10月には「JAしおのや(塩野谷農業協同組合)」(栃木県さくら市)の職員がコメ2500キロを卸売業者に横流しして100万円を着服するという不祥事が発生している。

「あれはタイミングが悪かったな。ただコメの高騰が関係しているわけじゃないんだ。ちょうどライスセンター内の人事が変わったタイミングでさ、横流ししていた人も知っているんだけど、昔からやっていたんだよ。ライスセンターの長が気付いてその人を止めたんだけど、『大丈夫、大丈夫、いつものことだから』って強行したみたいね。コメ不足に関係なく毎年やっていたんでしょ。

おそらくだけど今年の新米に関しても去年と同様に不足が続くんじゃないかな。いよいよJAも今までのようにあぐらかいてるわけにはいかなくなってるんじゃないかね」

毎年コメを横流ししてこづかい稼ぎしていたとしたら、初犯でも決して許されることではない。

こんな犯罪が栃木県内の一農協にとどまらず、全国で「いつものことだから」と常態化していたらとゾッとするが、案外「消えた21万トン」の源流はこのあたりに潜んでいるのかもしれない。

※「集英社オンライン」では、今回の記事に関連した情報を募集しています。下記のメールアドレスかX(旧Twitter)まで情報をお寄せください。

メールアドレス:

shueisha.online.news@gmail.com

X(旧Twitter)

@shuon_news 

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

編集部おすすめ