
昨日作った残り物を温め直して食べるというよくある行為に、命を脅かす危険が潜んでいるという。今まで法医学者として5000体以上の遺体を検死・解剖してきた「死因のプロ」が語る、日常に潜むまさかの死因とはいったい……。
『こんなことで、死にたくなかった 法医学者だけが知っている高齢者の「意外な死因」』(三笠書房)より、一部を抜粋・再構成してお届けする。
一般家庭でも起こる可能性がある「食中毒」
高齢者にとって「食中毒」は、死の危険性が高い病気です。
食中毒は、微生物や毒物が入った飲食物を口にすることで起こります。飲食店で発生した食中毒が定期的にニュースで報じられますが、その原因は「黄色ブドウ球菌」「サルモネラ菌」「カンピロバクター」などの微生物によるものです。
なかでも、病原性大腸菌と呼ばれる「腸管出血性大腸菌」による食中毒は、腎不全を併発して死ぬこともあります。2012年から日本国内で牛レバーの生食が禁止されたのは、これが原因です。
いずれの食中毒も、不衛生な環境や調理法によって発生することが多いのですが、実は、一般家庭でも食中毒が起こる可能性があるのです。
カレーやシチューなどスープ状の煮こみ料理を作ったとき、一度では食べ切れないこともあるでしょう。
その際、余った分を冷蔵庫に鍋ごと入れていませんか? そして翌日、冷蔵庫から出してそのまま温め直し、「2日目のカレー」として食べていませんか?
この保存方法と再調理法は、食中毒を引き起こすことがあります。
脱水症状などから致命的な結果につながることもある
再度火にかけることで消毒作用が働くと思うかもしれません。しかし、食中毒を引き起こす「ウェルシュ菌」という細菌は、火にかけても死滅しないのです。
細菌の中には、増殖するのに不適切な環境になると、「芽胞」というサナギのような状態になる性質を持つものがあります。
芽胞は、温度などの物理的刺激に対して耐久性が高く、増殖できる環境になるまでジッと息を潜めています。そして、いざ増殖に適した環境になると、芽胞から「発芽」してみるみる増えていくのです。
このような性質を持つ細菌の代表としては「ウェルシュ菌」のほかに、「ボツリヌス菌」や「破傷風菌」が有名です。
これらに共通しているのは、酸素の存在するところでは増殖せず芽胞となり、酸素の存在しないところで増殖して人に害を及ぼすこと。そして、いずれの細菌も、増殖する際に人体に有害な毒素を遊離するのです。
「ウェルシュ菌」は、普段は土や水の中、動物の腸の中など、自然界に幅広く生息している細菌で、特に牛や鶏、魚が持っています。たとえ芽胞状態の「ウェルシュ菌」を持った肉や魚を使っても、煮こみ料理は作る際によくかき混ぜるので、その日のうちに食べきるのであれば特に問題はありません。
ところが、余らせたものをそのまま保存すると、スープの中には酸素が存在しないので発芽して増殖し、その際に「エンテロトキシン」という毒素を遊離します。
そのため、翌日に食べると食中毒を引き起こす可能性があるのです。
体調に万全な若い世代の人であっても、腹痛や嘔吐、下痢症状を引き起こします。高齢者であれば脱水症状などから致命的な結果につながることもあるので、十分な注意が必要だということを覚えておきましょう。
※このような危険を避けるには……
・肉や魚が触れた調理器具はこまめに洗浄する。
・一回で食べ切れる量だけ調理し、スープ状の料理は小分けにして保存する。
・保存したものを再調理する際は、空気が入るようによく混ぜる。
文/高木徹也
『こんなことで、死にたくなかった 法医学者だけが知っている高齢者の「意外な死因」』(三笠書房)
高木 徹也
◎発売2週間でたちまち重版!
◎高齢者の「あっ、死ぬかも」から命を守る本
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大人気ドラマ『ガリレオ』シリーズを監修し、
5000体以上を検死・解剖してきた法医学者が、
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