
9月4日午前9時、全国のすき家で牛丼の価格が一斉に引き下げられた。並盛はこれまでの480円から450円に、ミニは430円から390円に、大盛・特盛も30円ずつ値下げ。
業界最安値となった「すき家」の牛丼
食材やエネルギー価格の高騰、円安などの影響で外食業界はこの数年、相次ぐ値上げラッシュが続いてきた。そんな中での“値下げ”のニュースに、SNSでは「久しぶりに値下げのニュースを見た」「ありがたすぎる!」と驚きと喜びの声があふれた。
一方で、あまりにも時代に逆行したこの施策には、疑問や懸念の声も上がることになった。
「米も牛肉も値上がりしているのにどうやって価格下げたんだろう?」
「この時世に値下げは嬉しすぎるけど、値下げの根拠って言うのかな、少し気になるね。どこ削ったんだろうか」
「無理な値下げの裏で誰かが泣いてるんじゃないかと考えてしまう」
今回の値下げで、牛丼並盛450円となったすき家は、主要チェーンの中で最安値になった。以下は現在の各社価格の比較だ(すべて店内飲食・税込)。
すき家:並盛 450円/大盛 650円
吉野家:並盛 498円/大盛 740円
松屋:並盛 460円/大盛 680円
価格の変遷を振り返ると、牛丼チェーンの値動きの激しさがよくわかる。すき家が2009年末から280円という低価格を打ち出すと、吉野家・松屋もそれに続き、一時は大手牛丼チェーン3店がすべて280円で並ぶ時期もあった。
その後、2014年の消費税増税のタイミングで吉野家、松屋は値上げをしたが、すき家は逆に270円に値下げして業界最安値を狙うという大胆な動きもあった。
しかし以降は値上げ傾向が続き、2015年に350円、2021年12月に400円、2024年4月には430円、さらに11月には450円へ。そこから2025年3月に再び480円へ値上げされていた。今回の450円は昨年11月水準への“戻し”とも言える。
過去には最安値で競っていた牛丼チェーンだが、その時期は終わり、今はそれぞれが個性豊かなメニューを作って差別化を図る方向性で競い、値段での争いは落ち着いていた。
なぜ今、値下げが可能だったのか。すき家を展開するゼンショーホールディングス広報の担当者は、メール取材に次のように答えた。
ネズミ混入騒動から半年
「今回の価格改定は、名目賃金の上昇が見られる一方、物価高により実質賃金の上昇は依然として限定的な経済環境の中、すき家の牛丼を多くのお客様により手頃な価格でお楽しみいただきたいという想いから実施しました。一方で、技術革新などによる生産性向上を行ない、労働生産性の高いビジネスモデルをより強固なものにしていきます」
さらに、現場で働く人の待遇についても明言する。
「すき家を傘下にもつゼンショーホールディングスは、2030年までの継続的な賃上げを行うことを2011年に労使間で合意しています。今回の値下げにあたっても、賃上げを継続する方針に変更はありません」
「値下げの裏で現場が苦しくなるのでは」という懸念に対して、あくまで生産性向上によってコストを吸収し、賃上げを守るという姿勢を打ち出している。
もうひとつ気になるのは、価格を下げても「品質が落ちないのか」という点だ。昨今の値段上昇で特に注目されているのは米の価格高騰。数年前の倍以上の値段になる中で、すき家は国産米の使用を徹底。
「日本のお客様の国産米に対する支持やニーズは大きいため、それに応えるべくゼンショーグループの国内全業態において国産米を使用しています」との理由で、米の価格高騰が続いても、国産米の使用を続ける方針であることがわかった。
今年3月には、みそ汁に異物(ネズミ)が混入する騒動を受け、すき家は清掃作業や衛生面の対策をとるために4日間全店休業という異例の対応をとった。
今回の値下げは、そうした一連の改善施策とあわせて、再び「行きたくなるすき家」へイメージを立て直す狙いも感じられる。
30円の値下げにどれほどの効果があるのかは未知数だが、大手チェーンで最安値というインパクトは確かに強い。今回の値下げが再び“牛丼戦争”の火ぶたを切るのか、それともさらなる差別化が進むきっかけとなるのか。他チェーンの動きにも注目が集まる。
取材・文/集英社オンライン編集部