
今や大型戦闘機からドローンまで、その技術力は「世界を一歩も二歩もリードしている」といわれる中国。先日、「空軍航空開放イベント&航空ショー」でお披露目された最新のステルス全翼無人機も世界に衝撃を与えている。
双発のジェットエンジンを搭載した“謎”の全翼無人機
極超音速ミサイルや弾道ミサイル、無人システムなど最新の装備を披露――北京で大規模に開かれた「抗日戦勝80周年」軍事パレード(9月3日)から、1カ月も経たないうちに「2025中国空軍航空開放イベント&航空ショー」が中国・吉林省長春で開かれた(9月19日~23日)。
空軍の八一飛行隊の展示飛行や戦闘機や空中給油機など地上装備も含めると100種類にも及ぶ兵器が登場、会場は熱気に包まれたという。ただ中でも西側の専門家の注目を集めたのは、双発のジェットエンジンを搭載した“謎”の全翼無人機の登場だった。
この中国のネット上で拡散した大型ドローンは、国営の中国科学院(CAS)のロゴが刻印され、開発段階の試験機に近いとされている。
CASは世界でも最大規模の科学研究機関で無人航空機や海上システム、センサーなどの先進技術を開発してきた部門を持ち、傘下に100以上のメーカーや組織を束ね、人民解放軍とも密接な関係を持っている。
全翼機のステルス設計の機体はなだらかで、センサーや通信アレイなどが入ると思われる中央部分は隆起している。胴体や翼の継ぎ目にはやや突起物やリベットなどの留め具が見られるものの、その左右には大型の給気口と排気口がレイアウトされ、全翼型の無人偵察・攻撃機を構成する。
中国では全翼機タイプは珍しいわけではない。確認されている開発中の無人機14のうち5つが全翼機だとされている。全翼機の特徴として、機体の操縦や安定性が難しいものの、それらをコンピューターで制御できれば、機体全体がレーダーの反射を防ぎステルス性に優れるという利点を持つ。
今回の北京の軍事パレードにも登場した無人偵察・攻撃機GJ-11(2010年代の開発時は「利剣」と呼ばれ、西側ではシャープ・スウォードと呼ばれた)も全翼機である。同じタイプとしては今年の5月には新疆ウイグル自治区の秘密試験基地でも、米国のステルス爆撃機B-2に似た大型全翼機が衛星画像によって捉えられている。
今回のCASの機体をいずれはGJ-12と呼ぶのかどうかは未定だが、これとそっくりの機体が2018年のシンガポール航空ショーで登場している。
この機体と一致すれば、中国は確実にスケジュールに従って黙々と軍事開発のロードマップを進めているということになる。筆者は2014年の中国珠海での航空ショーでステルス戦闘機J-31が初披露され飛行するのを見守ったが、約10年が経過した現在、J-35と名称を変え、第3の空母「福建」の電磁式カタパルトで運用されるステルス艦上戦闘機になるとは当時、想像がつかなかった。
その意味では2018年のシンガポールでのモックアップが実機として今回初登場したのも突然の出来事とは言えないのかもしれない。
無人兵器で中国に遅れをとったアメリカ
一方でアメリカの無人機開発状況はどうだろうか。米国は中国と同じく全翼機型ステルス無人機X-47「ペガサス」を2016年まで開発していた。だが、技術的問題と開発費や機体のコスト高によってこの計画を放棄し、現在では全翼機型の開発は行っていない。
その後、アメリカでは無人機の運用方法が二転三転し、現在では有人の戦闘機と随伴する半自律型のCCA(共同交戦航空機)プログラムが主流となった。言わば“無人の僚機”の開発を急いだ。
しかし、一朝一夕には開発が進まない。CCAの機体としてはようやく今年の8月にジェネラル・アトミクスの試作段階のYFQ-42Aが初飛行したばかりだ。もう1機のアンドゥリルのYFQ-44Aとともに年内の飛行テストが間に合うかどうかの段階で、2029年までの配備を目指し始めたところだ。
有人戦闘機に随伴するCCAならば、中国は前述の軍事パレードでもステルス戦闘機J-20とチーミングが可能なFH-97(飛鴻-97)系列や、他に少なくとも3種類の無人戦闘機を登場させているため、客観的にみてもアメリカより一歩先を進んでいるのではないか。
無人兵器に詳しい航空評論家の嶋田久典氏はこう指摘する。
「有人戦闘機とネットワークで繋がって飛行するCCAに対し、独立して飛行するドローンはさらに技術が要求されます。たとえて言うならば、狩りで主人となる人間が猟犬を鎖でつないでコントロールするか、猟犬から鎖を解放して野に放つような違いがある。
そもそも中国の無人機開発は倫理無用の開発スピードと中東からの実戦データのフィードバック、先進の暗号通信&電子戦能力で、大から小のドローンまで世界の最先端をいっているとはかねがね言われていました。
9月3日の軍事パレードではそれが一気に表面化した感じでアメリカに比べても中国が一歩、二歩リードしているでしょう。
同時に閲兵式の意味合いがあったのか、中国は空中戦力だけではなく陸海それぞれにも多種の無人機を繰り出しました。地上版は犬型ロボットから露宇戦争でも見られた小型6輪車などが登場、海はアメリカとの対決で穴となっている洋上監視能力を強化する無人水上艇、潜水艇を繰り出しています。
まさにアメリカが中国の台湾侵略を阻止するためにつくった『ヘルスケープ(地獄絵図)構想』の中国・無人兵器版ですね」
日本の無人機の運用・開発状況は?
では、我が国の無人機の運用・開発状況はどうなのか? 現在のところ国産によるCCAも単独無人機も開発できていない。防衛省としては英国、イタリアとの共同開発をしている第6世代戦闘機(GCAP)の配備がはじまる2035年までに随伴機として開発したいという、極めて遅い反応だ。
国産が不可能ならすぐにでも国外より調達・配備し、その技術や運用方法を学ぶべきだが、トルコやイスラエルなど無人機開発で先行している諸外国の現状レベルでの機体の選定でさえも遅れているのが現状だ。
一方で現場の航空自衛隊は、連日の中国からの無人機による我が国の防空識別圏侵入へのスクランブル任務で疲弊している。ようやく海上自衛隊と協力して米国製の無人機MQ-9リーパーで「監視活動」を始めるというが実効性があるかどうかは疑問だ。
また日豪協力拡大の一環として、オーストラリア空軍の多用途無人機MQ-28A「ゴーストバット」(ボーイングと主にCCAとして共同開発)の飛行試験に対し、来年度から隊員を派遣することが決まった。しかしこれもまた「悠長な計画」と言えるのではないだろうか。
無人機の世界でもステルス化が進み、まさに推力もプロペラからジェットエンジンへの高速化が進んでいる。AI技術の発達で有人随伴機から単独で攻撃も可能な無人ドローンへと世界が変わろうとしている時代だ。今回の中国のステルス全翼機の登場は、明らかに無人兵器の開発史の中でもエポックメイキングな出来事だと言わざるを得ないーー。
文/世良光弘