こんにちは、エキレビのロリコン担当たまごまごです。
「化物語」で一番好きなのは八九寺真宵です。

かみまみた!

さて、強烈に煮詰めたいい意味の中二病的な物語と、落語を彷彿とさせる語り口調が特徴の西尾維新の新作が出ました。
タイトルと表紙が最高に素晴らしいですね。
少女不十分
ぼくはもうこのべっぴんさんな少女を見た瞬間ワンクリックでしたよ。
黒髪にうつろな目、そしてしなやかな脚……。
おそらく繰り広げられるであろう不穏な匂いも大好物ですもの。
買った! 読んだ!

内容について早速触れていきたいのですが、その前に重要なこととして、作者西尾維新が今年で30歳になるということを触れて置かなければいけません。
1981年生まれ。若くして『クビキリサイクル』が大ヒット。現在まで恐ろしいスピードで執筆・刊行し、ヒットを飛ばしている作家です。
戯言シリーズ物語シリーズなど、シリーズ化された小説はバリバリ売れています。
ラノベのようでラノベじゃない、不思議なラインを走る作家さん。

ぼくも好きでちょくちょく読んでいる作家さんですが、ぼんやりとこんなことも思っていました。
「うまくなったなあ」と。
色々な思いです。文章や展開のエンタテインメント性は増し、安定してきているという意味で実に巧みになったと思います。と同時に、攻撃的で爆発するような小中学生男子の鬱屈や「俺って道外れてるんだよ」という思いを凝縮したような感覚は少し整理整頓されたなあ、とも。
そこにきて、まさに30歳の節目となる注目作『少女不十分』。

帯には「この本を書くのに、10年かかった。」と書かれています。
大げさだなあ、とも思いましたが、読み終わって感じました。
ああ、この作品は西尾維新という作家の10年間の集大成なんだと。

物語の主人公は作家の男性、三十路。
最初延々と自分語りが入るので、えっ、これ西尾維新の自伝?と思わされます。
しかし、作家の回想シーンに入ってからある程度読み進んだところで、とある度派手な事件が起きるので、それが本人ではないことがわかります。
何がどう度派手かは読んでみてください。
興味深いのは、この事件に対して主人公がさほど興味を示さないことです。普通の人間であれば洒落にならないくらい心に傷を負うであろうに、やけに冷静なんです。唐突に酷い事件が起きてるのに、淡々と描いているんだもんなあ。
それもそのはず、このあと起きる事件がどうしようもなく彼の人生と思考を狂わせていくからです。あるいは確認したに近いですかね。

主人公はもう一人の小学生の少女に監禁されるのです。

この物語はいわゆる「ストックホルム症候群もの」。正確には人質状態で犯人に情を寄せる時の用語なので違いますが、だいたいシチュエーションは似ていると思います。
まー、小学生の女の子のやることです、大の大人が力づくで逃げ出そうと思えばいくらでもできるような出来事なわけですよ。走って逃げるとかさあ。ねえ。

しかもこの少女、全然天才少女でもなんでもなくて、とにかく不器用で、監禁の仕方が雑。いくらでも脱出できるようなお粗末な方法で青年を閉じ込めます。
青年にいたってはケータイも持っているのでいつでも警察を呼べるし、時々少女は鍵をかけ忘れたりすらします。
少女も気が強い方ではなく、監禁している青年にどう話しかければいいかわからなくて挨拶をほそぼそとする程度。あ、それでも挨拶はするんだ? なんで?
監禁された青年が、食事がしたいと言ったらビニール袋に自分の給食を全部入れてくるという極端さ。あれ? 家族は?
身長も小さく、欠食児童で体は細く、心に何かが欠損している少女U。
誘拐犯はまったくもってなにもかもが不十分な少女なのです。

じゃあなぜ逃げないか?
少女に監禁されたかったから、………みたいなことを考えるのは僕だけで十分です。
この作品のテーマになってくるのは、道を外れた人間が、頭のおかしな人間が、人生がめちゃくちゃになっちゃった人間が幸せになれるかどうか。
モヤモヤと考えすぎてしまう神経質な主人公は、逃げない選択をすることで次の解答を模索し続けるのです。
30になった作家が20歳の時に体験したトラウマ的体験を執筆する、という形式で描かれているので、自分語りがものすごく多くて話の時系列が前後しまくります。自分語りの合間に物語が進むような感覚です。
この口調がインナーな、ストックホルム症候群的な心理描写にすごくよく似合うんです。

出てくるのは主人公と少女の二人だけ。恋愛とか性的要素はありません。
しかも少女の容姿描写は皆無。「育ちのいい子」、程度にしか描かれていません。表紙の絵がなかったら本当にその人の心に浮かんだ少女像をイメージするしかないでしょう。そして、それでいい。
極めて内にこもるような、欠落した青年と欠落した少女の物語。

ストーリーはとても読みやすいです。やっぱり少女って存在は非常にキャッチー。それも、男性目線から見た少女像ね。儚げな存在としての。
戯言シリーズ」的なミステリー要素もうまく盛り込んでおり、まさに原点回帰。エンタテインメントとして、鬱屈と思いの混沌を詰め込んだ作品として、十二分に読めます。
人が人生の節目の年に立ちあって自らをかえりみた時に、なぜ自分は今の人生を送っているのかを、フィクションの形式で、しかも心臓を鷲掴みにするような不器用な少女を通じて描いた作品です。

まったくもって、少女は不十分。
そして自分も不十分。
おそらく今までと違って、シリーズ化されずに一巻完結でしょう。
なるほど「この本を書くのに、10年かかった」という意味がわかりましたよ。
10年たった今こそ、書くべき作品だったんですね。
私小説的なのに少女メインってのが、さすが西尾維新。そこにシビれる憧れる。
帯には「原点回帰にして新境地」とありましたが、この作品西尾維新ファンならずとも是非読んでいただきたい一冊。

蛇足ですが、後半で自作をネタにした語りパートがあります。「言葉だけを頼りにかろうじて生きる少年と世界を支配する青い髪の天才少女の物語」など。
これものっすごい色々あるんですが、それぞれ何を書いているか分かるでしょうか。
全部分かったら大の西尾維新マニア!
(たまごまご)