茨城県大洗が今、戦車で染まっています。

これはアニメ「ガールズアンドパンツァー」(以下ガルパン)の舞台が大洗の女子高校だから。

アニメの舞台になった地域は「聖地」と呼ばれ、多くのファンが訪れることがここしばらく増えています。
例えば『あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない』の秩父、『サマーウォーズ』の上田、『けいおん!』の豊郷など。一番の成功例は『らき☆すた』の鷲宮でしょう。

興味があったのでさっそくぼくもゴールデンウィーク中に訪れたのですが、……すごい人だった!
震災後の風評被害で大変だった地域ですが、そんなことは微塵も感じさせないほど、一般客とアニメファンでごったがえし、道路もろくに走れないレベルでした。
同人誌イベントも同日にあったとはいえ、そちらは行列になっていることを考えると「聖地巡礼」で街中人だらけ、という状態。
確かにアニメは大成功でしたが、なぜこんなにも大洗はファンを多く集め続けているのだろうか?

まず、前提として「聖地」として大洗は異例なのを書いておきます。

大洗はガルパンの主人公達の学校の名前にも冠されていますから、密着度は高いです。しかし、劇中にはほんの少ししか出ていません。
というのも、彼女たちの学校は「学園艦」と呼ばれる船の上にあって大洗の町にはなく、試合自体も別の地域をやっているから。
『らき☆すた』がキャラクターの住んでいる地元だから盛り上がる、というのはわかりますが、ほとんど出ていない町がここまで盛り上がるのは異常なんです。

ではこの町はなぜここまでファンで盛り上がっているのか。
それは、「街なかかくれんぼ」に参加してみるとわかります。

キャラクターの立て看板が町中に配置されていて、それを見つけてみよう、というこの試み。スタンプラリーと一緒に行われています。
スタンプラリーは8箇所なんですが、この立て看板、なんと54枚 多いよ!
ここがポイントです。ガルパンはキャラがとにかく多い。戦車に3から6人乗っていて、それが何台もあれば、そりゃ多いですよね。すべてのキャラクターに個性があり、完全なモブキャラはほとんどいません。


自分もほぼすべて回って歩いたのですが、配置されているキャラクターと店舗に密接なつながりがある。
たとえば秋山優花里というキャラの父は床屋なので、床屋の前にちゃんと置かれています。自動車部の子達は金物屋などに置かれています。串かつを食べるももがーちゃんは肉屋に配置されています。
そりゃ50人以上全部覚えてる人ばっかりじゃないわけですよ。でも歩いてまわれば、お店の性質からキャラがわかる配置になっているんです。


メインになる有名なキャラクター達は、人の密集する場所や名産品のある位置に置かれています。
たとえば華さんという優秀な砲手がいるんですが、この子は大洗名物みつだんごの店に置かれています。
地元の人も並んで買うこのお店の前に来たら、そりゃ買っちゃいます。甘さひかえめでモチモチ。おいしかったです。
大人気キャラの秋山優花里は、これまた名物の手作りべっこうアメの店に立っています。

キャラに頼るだけでなく、ちゃんと町の名産品を出して、活性化につなげている。次来るときはガルパン目当てだけではなく、べっこうあめとみつだんご目当てになるでしょう。

立て看板をたどると、実はちゃんとルートが作中に出てきた部分を追っていけるようになっています。
聖グロリアーナというイギリス風の学校との対決。狭い路地をぬけ、時に旅館に突っ込んだりしながら大洗の町で戦車道戦を行うんですが、その名所を立て看板を追えばわかるようになっています。
ちなみに突っ込んだ旅館は、一階にダージリンさんというこれまた人気のキャラが立て看板として立っており、そこにはティーセットと椅子とテーブル。
ノリノリです。

大洗のメインの広い通りも作中に出てきますが、そちらは必然的に通るので、立て看板は裏の商店街にぎっちり並べられています。
自分が一番驚いたのは、冷泉麻子というキャラのおばあちゃんの立て看板が、シャッターがおりたお店なのかなんなのかわからない、商店らしきところに立っていたこと。
はて?と思って写真を撮っていたら、中から本物のおじいちゃんとおばあちゃんが出てきて、おはぎの販売をしてくれるじゃないですか。手作りの。
これ、作中で「おばあがおはぎを作った」というほんのちょっとのシーンからのネタ。やられた! 細かいよ! 買いました。手作りおはぎ美味しかった……。

加えて、自作のポスター類が非常に多い。
駅構内には「祝 全国大会優勝 県立大洗女子学園」と、アニメ内の出来事を事実のように祝っています。
それにあわせて、優勝祝いの手ぬぐいまで売っています。これはうまいね! お祝いごとはしたくなるものだよ。
お花屋さんでは、母の日の前だったので、華さんが生花の家元というのを生かして、全国に花を発送するというサービスも。
思わずほーと言ってしまったのが、その花屋ではメインキャラの好きな花にPOPを付けて販売していたこと。
確かに作中では出ていましたが、これは相当よく調べていないとできません。

作中でショッピングモールに行くシーンもあるのですが、そこも色々工夫を凝らしていました。
普通の家族連れも多いので、あからさまなガルパン推しはしていません。ところがちょっと歩いて回ると「戦車クレープ」と「干し芋クレープ」なんてものが。
なんで干し芋かというと、大洗女子の生徒会長杏が干し芋大好きだから+この地域の特産品だから。にしてもまさかの組み合わせです。
戦車クレープは普通のクレープですが、盛り付けにキャタピラ型いちごと主砲ポッキーが載せられていて、かわいい。かわいい。
これこれ、こういうの求めてたんですよ。

その他にもおもちゃやさん(立て看板はバレー部佐々木さん)では戦車のプラモデルの予約を募っていますし、衣料品店(立て看板はアンチョビ)では「大洗女子学園指定店」の看板があったり、お茶屋さん(立て看板はアッサム)は日本茶専門店ですが、アッサムティーを扱っていたり。
審査員の子の立て看板の店では、ガルパンファンが町を巡る時のマナーが書かれており、いたれりつくせりにもほどがある。
自分もあまりにも面白くて写真を撮って回りましたので載せておきます。
テンション高すぎるのは、あれです、ファンが浮かれてるってことで……。
大洗ガルパンPOPめぐりレポ - Togetter

写真を撮りながら、「POPのあるお店は、写真を撮ってもいいです、という公の許可証」になっていることに、驚きました。
民家は撮らない。その他の場所は撮影の許可をとる。これが聖地巡礼の基本です。
これを、プラス方向で最初からよいところをオープンにすることで、守らせてしまう。
考えた人、やり手だ。

そもそも、大洗の人全員がアニメを見てるわけなんて当然ないですし、店の前になんかよくわからん立て看板たてて写真撮られるって、拒絶反応あってもおかしくない。
地元の特性をキャラクターに落とし込んでいるのを見て、これは誰かブレインとして研究している人がいる、と感じました。
調べた所、大洗のとんかつレストラン、クックファンさん達を始めとした商工会で動いていることがわかりました。
『でこっぱち店主の日記』とんかつレストランクックファン
まず商店街で、OKしてくれるお店に「自分のところに置かれるキャラがどんなものか」をしっかり周知している。とある店舗でそのキャラ解説表が見られました。A4びっちり、キャラの特徴や解説が書かれていました。
加えて、立て看板を立てる時の注意、観光客(ファン)への注意事項なども別の紙にまとめられていました。こうやって商店街の意識統一が行われています。
プラスアルファとして、それぞれのお店が自分たちでガルパンについて調べ、色々なものでファンが喜ぶようなものを作って売って、もてなしています。
グッズではないです。花だったり食べ物だったりお酒だったり。そして何より、安い。観光地価格じゃない。地元価格です。

他に成功しているアニメと密着した町にも通じることですが、商店街の人と声を出してやりとりをし、手渡しでものを買い、雑談で笑う、という基本が非常にしっかりしています。
面白い企画の一つが、大洗ホテルの名刺交換。
操縦士の冷泉麻子がいて、7時から起こされて働かされて(POPが立って)います。
この売店で、自分の名刺を出したら、なんと冷泉麻子の名刺がもらえる。
これ勇気いりますよ。仕事でもなかなか名刺交換なんてしないものです。でも来たからにはほしいじゃないですか。
普段やらないようなことを、声を出して触れ合う体験を、意図的に盛り込み、アトラクション化しているのです。

ガルパンが大洗にもたらしてくれたもの - 大洗ホテル スタッフblog
ぐるりと回って感じたのは、商店街が「特別なお客さん」という扱いをしていない。「うちは被災地だから」という言い訳は一切していない。
ファンと地元が、仲間だという意識が非常に高い。
とにかく面白いことをやろう、という熱い思いがあり、ガルパンを見に行ったつもりが「大洗面白いじゃん」になってしまう。

OVA化、映画化も決まったガルパン。おそらく大洗もまだまだ盛り上がるはず。映画化決定おめでとうの手書きポスターも数多く貼られていました。
立て看板掲示も評判がよかったため、掲示期間延長されたようです。
たかが立て看板。されど立て看板。都内からだと日帰りもできますので、是非行ってみてください。想像以上に熱いですよ。
ちなみにかくれんぼは難易度が非常に高いので、事前にこちらからマップをダウンロードして印刷しておくことをオススメします。
一年生の人気キャラ丸山ちゃんが超絶難易度で、普通に歩いていてもまず見つかりません。それもまた、面白いんだよなー。

個人的にオススメのおみやげは、地酒の「撃破率120%」です。
酒店ほか、駅、地元コンビニでも買えます。良いネーミングだ。

(たまごまご)