「キルラキル」が好評放送中のアニメスタジオ、トリガーの代表取締役を務める大塚雅彦へのインタビュー後編です(前編はコチラ)。

トリガーの看板作品を作るべく、アニメミライに参加

───トリガーを設立して今石監督の「キルラキル」が放送されるまでの間に、吉成曜監督の「リトルウィッチアカデミア」(以下、「リトルウィッチ」)が2013年3月公開されましたね。

大塚 本当は「キルラキル」をもう少し早い時期に放送したかったんですが、「ブラック★ロックシューター」で準備が一旦ストップしてしまい、スタジオを維持するため穴埋めに何か仕事を入れないといけなかったんです。あと、TVシリーズやる前に何か看板になる作品がほしかった。そのときに文化庁の若手アニメーター育成のための「アニメミライ」というプロジェクトで企画を募集していると聞いたんです。資金を出してもらって30分の作品を作るんですが、これならそのふたつの要件を満たすのに丁度いいと思いました。若手育成もやりたいし。でも今石くんは新作の準備をしているから無理だし、だったら吉成(曜)くんしかいないと思ってオファーしました。

───大塚さんと吉成さんで企画を考えたんでしょうか。
大塚 原案は監督からですね。4社という枠が決まっているコンペ形式で、実際受注出来るかは分からなかったんですが、吉成くんがやるんならいけるだろうって思っていました。吉成くんは「天元突破グレンラガン」でメカデザインを担当したりとかメカやアクションのイメージが強いんですが、彼の描くキャラも魅力的だと思っていたし。この機会にキャラクターメインの仕事をやってみたらという話をしました。そして吉成くんが考えてきた企画が「リトルウィッチ」ともう1つ別の方向性のものがあったんです。
最終的には、若手を育成するためのプロジェクトだし、学校に通う主人公たちが苦労しながらも夢をもって何かをやっていこうっていう姿が、若いアニメーターたち自身も感情移入できるんじゃないかということで「リトルウィッチ」を選んだんです。

映画公開後、パッケージ販売前に全編を無料公開

───映画は2013年3月に18館で公開されましたが、その約1カ月後にはyou tubeで全編を無料公開しましたよね。
大塚 映画館に来ていただいたお客さんには評価していただいたんですけど、いかんせん映画館まで来てくれるお客さんが少なかった。積極的なアニメファンにしか届いていなかった感じですね。ただ、作品自体にはもっと一般性があると思っていて、それなら目に触れる機会を多くするしかないと。そこで、you tubeで公開しようとなって、それなら海外の人も観てくれるかもしれないしと思って字幕をつけて公開したんです。

───たとえば、全編ではなくて途中までにするという選択肢は?
大塚 だって最後まで観られないと嫌じゃないですか(笑)。これは作品に自信があったからっていうのもありますが。さらに今後も展開していくならば作品を多くの人が知ってくれるほうが良いということもあったんで。
───今後の展開と言いますと、「リトルウィッチ」の続編は製作が決定しているわけですし、最初から続編の構想はあったんですか?
大塚 当初からいずれはテレビシリーズをやりたいとは思っていたんですが、そこまで一気に大きくするのは難しい。でも、もう1本ぐらいなら何千万かの資金があれば作れると思ったんです。幸いお金のメドはついたので監督に話したら「じゃあやりましょう」となりました。


クラウドファンディングで資金を募るという挑戦

───その続編ですが、米国のクラウドファンディングサイト「キックスターター」で尺を15分延長する資金を募集しましたよね。
大塚 お金のメドがついたとはいえ、一作目ほどの予算ではなかったんです。あと、一作目を作ったときの印象としてもう少し尺がほしいっていうのもあって。お金がないのに尺をのばすと、作画の密度が薄くなるとか中身に影響するので、質を下げずにやるには、もうちょっと資金を調達したいと思っていたんですよね。実はYouTubeに本編を公開していたときに、海外の方のコメントが多かったんですが、実はその中に「キックスターターやらないの?」みたいなことが結構書かれていたんです。
───なんと、作品のコメント欄で「キックスターター」を知って調べたと!
大塚 そうなんです。
「キックスターター」はアメリカのクラウドファンディングで、それを使えば作品の制作費の一部を補填することもできそうだと。まさにトリガーを作ったときに、こういう新しい事をやれるスタジオにしたいって思っていたわけですから。おもしろいからすぐにやってみようと思ったんです。ちょうど夏にアメリカのイベントに行く予定があったので、どうせならそこで発表するのがいいだろうと。そこからバタバタと関係各所にもご協力していただいて1、2カ月で準備をしました。
───最初の目標は15万ドルでした。

大塚 正直なことを言うと、目標は20万ドルだったんです。なぜかというと、湯浅監督の「キックハート」や「イヴの時間」の英語版制作プロジェクトが20万ドルに届いていたんですよ。だからそこはいきたいって思ったんですが、達成しないと集まったお金をもえらないので、ちょっと下げたんです。
───結果、5時間ぐらいで達成しましたが、スタッフはどんな感じでした?
大塚 ちょっとビックリしました。冗談で「すごい金額になったらどうする?」とか言っていましたが、でも「目標は15万ドルにしよう」とかいって、結構びびっていたわけですよね(笑)。だから実際の伸びはこちらがリアル想像していたよりも遥かによかったわけです。初期の目標に達した時に追加で設定するストレッチゴールもぼんやりとは考えてはいたんですが、実際の動きが早すぎて!急遽、話し合って追加の特典を決めたりしました。
───そして最終的に集まった資金は6000万円でした!予定していた使い道が変わったりとかします?
大塚 いやいや。実はお礼として送るグッズのことも考えないといけないですし、全部を制作費につぎ込めるわけでもないんですよ。手数料も取られますし、意外とシビアにやらないといけないんです。

アメリカと日本で感覚の違いを生む「チップ」の文化

───参加人数は約8000人です。どんな人が多かったんですか?
大塚 性別は男性が多いですね。あと、9割の人が北米です。
───あれっ、日本人は少ないんですね。
大塚 日本からだとハードルがありますよ。amazon.comのアカウントを持っていないと参加できないのと、文化的に日本人が受け入れてくれるかも心配でした。アメリカは自分がいいと思ったものに対してお金を払う“チップ”が根づいていますから。「リトルウィッチ」を無料で公開したときに「無料で観させてもらって申し訳ないから還元したい」っていうコメントがあったんですよ。
───なるほど。チップの文化ですね。
大塚 アメリカはサービスへの対価としてお金を払うのは当然っていう文化がありますね。だから「リトルウィッチ」だけじゃなくて、日本のアニメに楽しませてもらったお礼っていうのも幾分かあると思うんですよね。それを我々がもらっちゃったっていう(笑)。ちょっと申し訳ないけど、早くやった特権だとはと思うんで。だからウチがまた同じようなことをやっても、この勢いで集まるか分からないですよね。
───「リトルウィッチ」がアメリカで受け入れられやすかったっていうのもある気がします。例えば「ハリー・ポッター」の世界観っぽいとか。
大塚 それはあると思います。吉成自身も海外のアーティストが好きだったりするので、そういう影響がちょっと入っていると思うんですね。それが向こうのファンには馴染みがあるものに見えると思うんで、それはたしかに良かったんだろうなって。

アニメファンを増やすために海外へも目を向ける

───「リトルウィッチ」のブルーレイも6カ国語字幕で、やはり海外進出を見据えた動きですか?
大塚 日本国内でもアニメが好きでソフトも買うし、キャラクター商品も買う人って一部ですよね。日本中の人がアニメ好きにはならないし、しかも趣味の多様性が広がっていて、いっぱいある娯楽の中からアニメを選ぶパーセンテージは下がりますよね。だったらやっぱり日本だけじゃなくて、海外にも届けたいと思うんです。例えばアニメにお金を払ってもいいと思う人の割合が全体の1割くらい。そんなにはいないでしょうけど、仮にいたとして、日本全体の1割と世界の1割だと全然ケタが違いますから。インターネットで作品を観てもらうことは直接大きなセールスには結びつかないからあまり意味がないようにも思えますけど、世界中で日本とほぼ同じタイミングで作品が観られるって、やはりすごいことだと思うんですよね。
───日本のアニメを観るチャンスが増えますよね。
大塚 実際にお客さんが字幕をつけて勝手に海外で流れている状況とかあって、ビジネス的に考えると海賊版みたいなものなんで、よくないかもしれないけど、潜在的なファンは増えているんです。海外でアニメが好きって喜んでくれている人たちって、いま10代とかの若い子が中心で、当然そんなにお金をもっていない。ソフトを買いたくても買えないからインターネットで観ているみたいですが、そこは「観てくれている」ってことが重要だと思うんですよ。日本でも昔のアニメを大人になってからボックスで買うように、大人になってもアニメを好きでいてくれれば、お金を使ってくれることもあると思うんです。つまり、日本のアニメ自体を好きになってくれる人を国内外に増やすことがまず大事だと思うんです。
───それだったらガイナックスにいてもできたような気がします。大きな会社だし、発信力というかインパクトがありますよね。
大塚 ガイナックスのいいところは、いいだしっぺが責任を取るなら何でもやらせてもらえるんです。逆にいろんなことをやりたいってなると、全部自分でやらなきゃいけない。そうなると手が回らなくなりますから、他の部署に一緒にやろうっていうと、採算が取れるのかっていう話になりがちで。採算性がないと会社としては成り立たないので、当然のことなんですけど。
───会社組織の中にいるのに自分で何でもやるなら独立してやっても一緒ですね。
大塚 そうですね。もう少し身軽になって動きやすくしたかったっていう思いがあったんです。

トリガーの新たな試みとこれからの挑戦

───新たな試みとして、ウェブアニメ「インフェルノコップ」もありますね。
大塚 ウチのスタッフはがんばりすぎるきらいがあったんで、そういうのも一回リセットしたくて。この話をもらったときに、予算が本当に少なかったんですが、ネットで配信というおもしろさもあるし、逆にこれだけしか予算がないという制約の中で作れるかどうかっていうのを試したかったんです。
───全12話ありますが、パッケージにする計画はありますか?
大塚 2年間はYouTubeのみの公開なので、いまはできないんですよ。公開しているものとは別のエピソードやスピンオフとかを作ってパッケージにするっていうのはアリなんですけど、いまは当然そんな余裕がないんで。ただ、機会があればやってみたいとは思います。
───今後、トリガーならびに大塚さんは何をやっていくのでしょう?
大塚 まず「キルラキル」をどう売っていくかというのが当面の課題ですが。「キルラキル」の後の作品の準備ももちろん進めています。まだタイトルとか具体的なことは言えませんが。まずは「キルラキル」を是非楽しんで下さい!
(小林美姫)