『キルラキル』8話は「第一回 壊惨総戦挙」の話!……と見せかけて、蟇郡の変態性溢れる回でした。
ぶっちゃけ総戦挙、なんにもやってない。

ってか、マコが「老け顔のヘンタイ」っていうんだよ! マコ認定ってすごくないですか、蟇郡。

●全てを「着る」皐月様
まず、皐月様の信念を見なおしてみます。

蟇郡が皐月様と出会った、最初の時の回想シーンの、中1の皐月様、
……すっげえかわいかったですね。
にしても、こんなにかっこよく親の力を利用する人、そうそういないです。

我を通すため親の力を借りるというのは、恥ずかしいことです、一般的には。
自分の力でやれ、って言われるよね。

ところが、皐月様はこう言います。

「親の力他の力、全てを利用する。だが使うのは私だ。すべての力を呑み込んで、私自身の力とする。それが覚悟の違いだ」

もう、ずるいとかずるくないのステージじゃないんですよ。
たとえば自分の意志を通すために犯罪を犯さないといけないとしたら。
『ダークナイト』のバットマンみたいなシチュがあったとしたら。
流子なら「気に食わねえ」って言うでしょう。一話でバイク盗んだ時律儀だったように。
しかし皐月様は、犯罪とか恥じらいとかは一切考えずに、即時犯罪に手を染める気がします。

皐月様は、人情的部分を全部乗り越えています。
何もかもかなぐり捨てるだけの「覚悟」を持つことが、力。

これが自分の意志で「着る」ことだ、という皐月様の理論です。

回想シーンの中学生チンピラの発言がポイント。
「人間だから地位とか権力の怖さがわかるんじゃないか」
そうだよ、その通りですよ。
そして、これが「着られる」側の視野なんです。

●「無秩序」という休息
そんな皐月様が、せっかく作った秩序を壊し、支配を止めて、ぶっ壊しちゃいました。

一話では極制服を盗んだ無印生徒がボコられていました。
それが極制服支配のルール。
ところが今回は力ずくで奪い取れる。
秩序を壊すので、解散ではなく「壊惨」が正しい。
めちゃくちゃに見えますが「お前たちがお前たちで選ぶ」、つまり「着られる」んじゃなくて「着る」なので、今までの考え方から実はブレていません。

皐月様が、一週間バリアを張って引きこもるのも面白い。
彼女の姿は、この世界では「絶対的な支配」の権化です。
つまり彼女が見えている状態では、どううやっても「完全な無秩序」は生まれない。
その「完全な無秩序」を作るため、皐月様の存在を意識させることを遮断しました。
例えば「やみいしゃ」「やみ石油」の「やみ」が「完全な秩序外」の表現になっているのと同じ。猿投山が負けたらばっさり切り捨てられたのとも同じ。皐月様には、常に線引が必要なんです。
ある意味そうすること自体が、秩序です。


三つ星にとって無秩序は、「休息」になっています。
「秩序を保つ」というのは大変労力のいること。
蟇郡の公務とかすごいよね。朝早く学校に行き、四六時中見張り……大変なことですよ。
皐月様が、ことあるごとに後光背負って現れるのも、彼女が常に「秩序の頂点」として君臨し、見張り続けているからです。
7話のマコの部長会議の様子が、忙しさの一部が見えます。

「秩序を保って支配する公務」には、休息がありません。
蛇崩は「久しぶりに羽が伸ばせる」、蟇郡は「自分のための時間」と言っています。
今回の無秩序は初の休息なのです。第一回ですしね、お疲れ様です。

●足るを知る
総戦挙が「休息」だ、というのは、無星も同じでした。
マコの台詞が興味深い。
「どうせ無星だもん。失うものはないもん。むしろ一週間学校休みでラッキーって感じよ。私たちは決戦闘兵は外野で応援してるから、頑張ってね!」
この台詞に、作品のテーマである「着るか」「着られるか」が見え隠れします。

まず、マコの言う「失うもの」ってなんだろう?

一つは「極制服」。力そのものです。
7話で無星から一つ星・二つ星と一気に生活が変わった満艦飾家の様子が描かれました。
一つ星の生徒は、快適で文化的な生活を送っています。今回の総戦挙で負けたら、それは一つ星の生活を失うことを意味しています。
同時に、勝てば大逆転のチャンスでもある。
総戦挙中、一つ星生徒が二つ星生徒らしきキャラを倒すシーンもあります。みんな必死。
そういえば7話で流子にほとんど潰されちゃって、二つ星少ないはず。これが狙いだったんですか皐月様!
しかし、マコは「極制服で得られるものは何もなかった」のを、7話で理解しています。

もう一つは「秩序の中の自分の位置」です。
一つ星の生活を維持するためには、再構成された時再び、一つ星というシステムの中の一員にならねばなりません。
秩序の中に居続けるというのは、大変労力を要するものです。マコも部長として大変ハードな生活を送りました。
でもそのシステムに見合っただけの見返りとして、お金と権力が手に入るわけですが。

満艦飾薔薇蔵「目先の欲であくせくしても仕方ないのはこの間の件でよーくわかったからな」
システムに組み込まれるというのは、「着られる」ということ。
自ら「着る」には、そのくらいに自分が成長する(例:流子・皐月様)か、自分の生活の「足るを知る」か(例:マコ)です。

一度辛い思いをして、自分が「家族といたい」「学校に行きたい」「流子が好き」というシンプルな思いで生きていることを再確認した彼女。
今はもう、完全にシステムの外にいます。
「第一回 壊惨総戦挙」という大イベントが今回あえてほとんど描かれないのは、マコと流子視点、システム外だから。

マコ「ねえ、流子ちゃん。今は私たちがいるよ。流子ちゃん一人じゃないよ。鮮血ちゃんだけじゃない。私も、私の家族も、みんな流子ちゃんのこと大好きだよ」
家族のことを毎回必ず台詞に入れてきますね、マコ。
加えて、鮮血は「流子の家族」。だからマコは意識して、いつも必ず台詞に入ります。
マコはあんまり深いこと考えないでしゃべるシーン多いですが、家族については必ず何かを考えてしゃべります。

●蟇郡とマコの価値観
会話といえば、蟇郡とマコの関係が気になります。
マコの話って、流子以外ほとんど聞かない。
というか、この学校で会話が成立すること自体、そんな多くない。みんな敵同士だからか、会話という行動をしない。
ところが、マコの話を蟇郡はきちんと聞くんです。

マコの台詞は意味があるのか無いのかわからないものが多いです。
流子はそこからヒントをもらったり、自分を見直したりします。
蟇郡もまた、彼女の言葉を聞いて、彼なりの解釈で聞き入れるのが大変興味深い。

マコ「私の人生信号は、いっつも黄色だよ!」
蟇郡「一生注意か……それも真理だ」

すごい、会話成立している上に、なんだかえらく意味深じゃあないか。
蟇郡は、4話でも彼女の意見を、聞き入れていました。
実際マコは考えて話しているのかどうかは、全く不明です。
ただ、マコの台詞ってどう受け取ろうとするかの姿勢で、見え方が大きく変わります。

流子はわりと直情的で、信念はあんまりない。
マコのブレない台詞を聞くことで、自分がどうしたかったのかいつも気づきます。
一方蟇郡は、信念は非常にしっかりしている。
マコの胸を張った発言で、自らを見つめなおします。

もっとも、マコが言う「黄色」に意味はあんまないんじゃないかなあ。
脚本的にはもちろんあるでしょうけど、彼女自身は適当に言ってそう。しかし黄色は真理だなあ。
蟇郡とマコの絡みは今後楽しみです。次回蟇郡が退場しなければですが。

●父さんの惨劇の謎
流子が過去を一通り語っているので、まとめておきます。

・母さんは流子を産んですぐ死んでいる。父さんとは小学校から離れて寮ぐらし。
・流子の前髪の赤いのは、子供の時から。
・「話がある」と連絡があって帰ってきてから、父さんは見つけた瞬間に刺されている。
・流子の父さんの見た目は、ヒゲ・眼帯・猫背・ネズミを飼っている、という証言のまま。
・ハサミで刺したシーンはない。
・「お前が平穏な人生を送りたければ黙って去れ」という父さん。
・この時すでに纏博士は、戦いの渦中にいる。
・「過酷な運命が待つ」と流子に言っている。
・「伝えなければいけないことはもっとある」だが流子が先走ったため、内容が不明。
・ハサミの片方を持って逃げた相手はシルエットしか見えていない。屋敷が爆発した理由も謎。
・お父さんが実際に死んだシーンはない。
・地下は現在、誰かによってすべて片付けられている。

流子は、父さんがなにをしていたのか、なぜ殺されたのかなどを真剣に調べるために、今戦っています。
ところがこうしてまとめてみると、どうも疑問が多すぎる。

まず父さんは流子を、「戦わせたい」のか「平穏に暮らしてもらいたい」のかがわからない。
「オレの代わりに戦ってくれるなら」と言っている時点で、すでに纏博士は戦っています。おそらく「ヌーディストビーチ」と一緒にでしょう。
五話の会話では、「神衣をもって鬼龍院の野望を阻む」のが、纏博士の意志です。
これが「意志」なのか「遺志」なのかで随分意味が変わってきますが……。

ではここになぜ流子を巻き込んだのか。博士は神衣を着せたかったのか、そうではないのか。
3話で美木杉に渡した手紙の「森の中の枯れ葉と同じ」の意味が気になってきます。自分が死んだら「あれを娘に」とは言っています。
「このハサミを持てば、必ずオレを殺した相手にたどり着く」という表現も変。
まだ死んでないよ? 「殺そうとした相手」ならわかるんですが。まるで博士が死んで、流子が神衣と出会うまでのシナリオが出来ているかのような言い方です。

流子視点での回想シーン自体、以前の回想シーンと構図が違います。
どうも事実は、ちょっと複雑なようです。

面白いのは、これだけの話をマコが一切興味持っていないこと。
これは冷たいんじゃなくて、今はマコやマコの家族が流子の味方だよという、「今」を生きているキャラクターだからです。
逆に言えば未来も過去も考えてない、スコーンと抜けたキャラ。
「今」しか見ていないマコ、「過去」の因縁で動く流子、「未来」のためにシナリオを作る皐月様。対比が出来始めました。

●屹立するぅ
蟇郡については、来週見ないとハッキリ言えないので、ちょっとだけ。
なにより驚いたのは20歳だということ。そうか!この世界別に全員17・8歳とかじゃないんだ!?
となると、蛇崩も年齢不詳になってきます。

あのマコをもってしても「ヘンタイ」といわれる蟇郡の第一形態。
そもそも、なぜドMの「耐える」性質なのか。
第二形態はオメガレッドみたいですね。

重要なのは形態に段階があるという新事実。
つまり、皐月様と流子も第二形態がありうるという嬉しい可能性を残してくれました! よね?

それにしても、蟇郡の車のピンクっぷりは、『パンティ&ストッキング』のシースルー状態。なんだあのでかい初心者マーク。
比較的常識人で、立派な感じがあった蟇郡が、ここにきてまさかのヘンタイキャラになったのには驚きましたが、まだだ、まだ油断できない。
このヘンタイドM理論には、なにか意味があるに違いない!……と思うけどどうなんだろう。

タイトルの「俺の涙は俺がふく」は、美樹克彦の1965年のシングル。昭和40年です。
タイトルがそのまま台詞に使われるのはちょっと珍しいです。
次回の「チャンスは一度」は、1972年の西城秀樹のサードシングル。
乗っていたバイクがラビットスクーターなのはニヤっとしますね。

にしても、これから四天王戦続いて、勝ったらどうなっちゃうの……? まだ8話なんですが。
いや待てよ、あんだけ逃げるヒロインですから、また負けるかもしれない。
とりあえずは、乃音様の実力と変形を見るのが今から楽しみでなりません。
ベースぶんまわさないかな。


『キルラキル』BD 1巻

(たまごまご)