「月にこれだけでいいの!?」と青柳美帆子は叫び、「ライターは言葉で世界をデザインする仕事」と米光一成は語った。

11月1日に高円寺パンディットで開催されたトークライブ「米光一成×青柳美帆子『若手ライターはいかに生きるべきか』」の内容は、たぶんこの一行で済むんじゃないかなーと思います。いやー深い、そして生々しい! そして会場のベテランライターからのツッコミに、真っ正面から切り結んでいく青柳美帆子は美しい! 自分もライターの端くれとして、久々に良いモン見せていただきました。

ちなみに当日の模様は、同じくライターの与儀明子が壁に貼られた模造紙に議事録をとり(これがイラスト付きで味があるんだ。手書き文字っていいね!)、電子書籍配信プラットフォーム「電書カプセル」で配信済み。頭から終わりまで丁寧にまとめられています。たぶんライター志望の学生や若手ライターにとっては、そっちを読んだ方が勉強になるんじゃないかな。本稿では忙しい人向けにポイントだけを紹介しましょう。

宣伝会議「編集・ライター養成講座プロフェッショナルクラス」専任講師で、パズルゲーム「ぷよぷよ」の生みの親として知られる米光一成(1964年生まれ)と、エキレビで赤丸急上昇中の青柳美帆子(1990年生まれ)が、若手ライターの現状を赤裸々にトーク。会場には若手からベテランまで30名近くのライター・編集者が参加。途中から観客席からもポンポンとコメントが乱れ飛び、3時間あまりの時間があっという間にすぎてしまいました。

もともと「米光サンのファン」で、「ワセダミステリクラブ出身で漠然とモノ書きに憧れがあり」「ライターになれるチャンスがあるらしい」という理由から、前述のライター講座に飛び込んだ青柳美帆子。2012年4月6日にエキレビ「『ヒルナンデス!』で佐藤かよと内田里央が腹黒バトル」でめでたく商業媒体でのデビューをはたします。

その後も「サブカル(映画・アニメ・漫画)」「イベントレポ」「女子とエロスと社会」「少女革命ウテナ」を強みに記事を発表中。今や年間100本の(約3日に1日の締切!)記事を上梓するまでに成長しました。(勝手に)ライバル視しているオグマナオトからも「青柳美帆子には積極性と持続性がある」と賞賛されたほどです。

しかし、そこはそれ前途あふれる24歳。大学院で古典文学も研究中で、いわゆる「新卒カード」も所持しています。体調不良でライター業を一ヶ月ほどお休みした時は、収入のハンパない落ちっぷりにフリーで働く厳しさも突きつけられました。結果「このままでいいの私の人生?」と逡巡中。それに「フリー」ライターといっても、ホントに自由に好きな原稿を好きなように書けるわけでは…ないですしね。ほら、お仕事ですから。

実際、この6月の休筆がたたって、8月の原稿料収入はわずか3万円! もっとも9月・10月では、大卒の初任給と同程度、もしくはそれ以上(厚生労働省調べ、平成25年)は稼げたとのこと。しかしその金額は、経費などは抜かない単純な額面です。
本人いわく「運にも恵まれて、この金額。年収400万が見えない」んだとか。周囲の目も優しくはなく、同級生たちとの飲み会で「ネットでライターやってるんだー。それってブログ?」という容赦ないツッコミも喰らった。うーん、辛い、辛いなあ。たしかにフリーライターってフリーターとよく間違われますよね。そこ、変に略さない!

これに対して観客からは「収入を安定させたければ正社員になった方が良い」「ライターになりたいのか、安定したいのか、モノを作る人になりたいのか、変わった仕事につきたいのか、良くわからない」などなど、厳しい意見が炸裂。これに対して青柳美帆子も「中途半端なのは自覚している」としつつも、好きなことをしているから収入が低くてもいい、不安定な仕事でもいい、というのは違うんじゃないかと切り返します。好きなことと、人並みの収入を両立させていくことが重要なんじゃないか…。

いや、まったくおっしゃるとおり。バブルの頃までフリーライターのキャリアパスには、作家か編プロの社長という「上がり」がありましたが、今やそんな時代ではありませんからね。結局は原稿1本いくらの文系肉体労働。将来が不安になるのも、よくわかります。自分の周囲でも心身を病んで足をあらったライターは数しれず。中にはリアル・リッジレーサーとなってガードレールの向こう側にダイブしていった知人もいましたっけハッハッハ。

これに対して米光一成は「旧態依然とした出版業界が苦しくなっているのは事実だけど、ライターを『世界を言葉でデザインする仕事』ととらえれば、そんなに暗くもないし、不安定でもないんじゃないか」と語りました。

例に上げたのがニコニコ動画「正直なトレイラー パシフィックリム」や、ラジオ番組「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」で人気の、宇多丸による映画評。本トークイベントも米光の企画によるもので、「ライター業の定義を広げていく活動の一環」なのだとか。また社会がインターネットによって大きく揺らいでいく中、正社員となって働くリスクについても、同じように目を向ける必要があると補足しました。

いわば日本映画が斜陽になって、映画会社でリストラが進んだ後の映画業界みたいなモンでしょうか。昔は映画監督になるには、映画会社に入社して、助監督から監督になるという流れがありました。しかし、今やそんなルートはありません。一方で8ミリやビデオカメラで誰もが映画を撮れる時代が到来し、いろんな若い才能が飛び出していったのはご承知の通り。今のライターも、そんな環境におかれているのかもしれません。

このほか米光一成から、編集部というリアルな「たまり場」が消失し、ライター同士の横の繋がりが解体されたことが、若手ライターの不安を煽っているのではないかとも指摘されました。それを証明するかのように、トークライブ終了後の交流会では、みなグラスを片手に熱い交流が夜更けまで続くことに。ああ、こんな機会が求められていたんだなあと実感しましたよ。

青柳美帆子は「今の若手ライターって、決意を決めてなるんじゃなくて、自分も含めて何となくライターになっちゃって、そこから身の振り方に逡巡している人が多いんじゃないか」と言います。昔と違ってネットで誰でも自己表現できちゃうし、ライターになるチャンスもそこかしこに広がっているのは事実。昔より敷居が下がったからこそ、ライターになるよりも、なってからの方が大変、そう感じる人が増えているってことなんでしょう。

「気がついたらなっていた」「このまま続けられるのか不安」「どうやって生きていけばいいんだ…」なんだか今時のロボットアニメの主人公って感じでしょうか? 最後にちょっと茶化しちゃいましたが、お許しあれ。勇者・青柳美帆子の冒険は続く。期待してます!
(小野憲史)

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