脚本:西田征史 演出:岡田健
星野(坂口健太郎)との交際に関してもにょる常子(高畑充希)に「あのときの誓いに縛られることはないのじゃないか」と知恵の輪を外しながら助言する花山(唐沢寿明)。
花山がやっていた知恵の輪は「テイクファイブ」という名まえだそうだが、唐沢寿明の主演ドラマ「TAKE FIVE〜俺たちは愛を盗めるか〜」(2013年)にちなんだ選択だろうか。この知恵の輪制作者は、「相棒」の映画ノベルティーなどもつくっている有名な知恵の輪作家。「相棒」といえば、あなたの暮し出版社員・大塚役の趣里のお父さん水谷豊の代表作だ。
微妙なリンクを楽しんでいる場合ではない。常子は人生の重要な岐路に立たされている。
かつて常子は出版に人生すべてを捧げると宣言していた。
たぶん、この花山の「あのときの誓いに縛られることはないのじゃないか」は、仕事に限ったことではない。「とと代わりになる」「妹たちを嫁に出す」「家を建てる」というような常子の誓いも含めて当てはまる。
「君も不器用な人間だねえ」と花山が言うように、常子はいろんなことにがんじがらめになってしまっている。
意識してのことか偶然か、「とと姉ちゃん」というドラマは、人間の幸福を邪魔するものは何か? と問われたとき、社会や時代や運などではなく結局は自分なのだという、極めて興味深い命題に挑んでいる。
そう思うと、次々出て来る意地悪な人や戦争、うまくいかない恋愛などの描写がやや空疎である意味がわかってくる。すべての問題は常子にあるからだ。
といって、常子が悪いと言っているわけではない。常子も可哀想。知らず知らずに、とと代わりになる→そのためにお金を稼がないとならない→出版社で稼ごう という思考のループにはまって逃れることができず、イレギュラーな恋愛や結婚が想像できない。悲劇だ。
とはいえ、仕事がすこぶる順調だったら、常子も思い切れただろうに、運悪く問題勃発中。
美子と大昭の結婚も先延ばし。
手をこまねいている間に、星野の転勤が決まってしまった。2年ほど前に希望を出していたのがいまになってかなってしまったのだ。とことん運が悪い。
隣席の同僚(「シン・ゴジラ」にも出てる黒田大輔)が「どうした、希望が通ったのに浮かない顔だな」と訊ねる。通いの女性が気になるのか? とか言えばいいのに。
さて、聞かれはしないが、当然星野は、通いの女・常子のことを気にしている。
さらに、彼も運悪く気になる問題が。長男・大樹の足の火傷だ。
坂口健太郎は、一生懸命、そのときそのときの感情を丁寧に演じようとしているように見える。これからもっともっとその演技や感性がもっともっと生かせる作品に出会えると思う。
(木俣冬)