能力があれば誰でも仕事を受けることができ、新しい働き方として注目されてきたクラウドソーシング。しかし、実際に生活できるレベルの金額を稼いでいるのはごく一部だけ、という事実が明らかになり、議論になっている。


クラウドソーシングサービス大手のクラウドワークス社が2月に公開した「2016年9月期 第1四半期決算説明資料」によると、2015年12月末時点のユーザー数は79.5万人。昨年同月末(26.9万人)から1年で約3倍にも増加した。


■稼げているのは30~40代の専門職ユーザーが中心



しかし、昨年10月から12月末までの期間に、平均月収20万円以上を達成したユーザーは111人だけ。割合でいうと全ユーザーの約0.014%と、本当にごく僅かだ。


月収20万オーバーのユーザーの職種を見ると、最も多いのが、「ITエンジニア」で38.3%。次が「web制作」(27.7%)、「デザイナー」(23.7%)となっている。

「ライター」は残念ながら3.6%だ。


年齢別で見ると30代が最も多く48.5%、次が40代の24.8%だ。20代は16.9%と意外と少ない。ITエンジニアなどの専門職で、かつある程度の経験とスキルがある30~40代でなければ活躍は難しい、ということなのだろうか。


同社は「働き方革命」を掲げてサービスを拡大してきたが、会員が80万人もいるのに稼げる人がこれだけというのは心もとない。ネットでもこれが話題になり、「ネットでみつける在宅の仕事で生きていくのは甘い考えだよ。

と社会の厳しさを教えてくれるデータ」「働き方はやっぱり正社員がNo.1」といった声が挙がった。


ブロガーの永江一石さんも2月25日に「どうしてクラウドソーシングではお金持ちになれないか」という記事を投稿。稼げない理由として「素人の発注者が極安な単価で発注」「安くてもいいからやるという人の集まり」などの点を挙げ、クラウドワークスが「あたかも日雇い労働者が群がる手配師みたいな情景」になっていると指摘する。


■キンコン西野が反論「20万以上稼いでいるのは僅かって、あたりめーじゃん」


なお同社の資料によると、月に20万円以上稼ぐユーザーの平均月収は約34.4万円だった。単純計算で年収は412.8万円ということになる。永江さんはこれについても「サラリーマンならいざしらず、フリーになるならこの3倍は稼げないと、そもそも独立する意味がない」と書いている。


一方、お笑いコンビ・キングコングの西野亮廣さんはFacebookで、こうした見方に反論。登録者の80万人の中には、育児や介護などで会社勤めはできないけど「仕事はしたい」という人がたくさんいる。それなのに「月収20万円以上稼いでいるのは僅か…」と言われても「そんなの、あたりめーじゃん」と指摘する。


「本来、収入がゼロだったところを、月に5万円でも『自分の力で稼げる』という選択肢が生まれたわけじゃん。5万円あれば、どれだけ助かることか」


またネット上には、稼ぐ人が少ない別の理由として「同じクライアントから継続的に仕事を受ける場合、クラウドワークスを経由せずに、直接取引するユーザーがいるから」という説も出ていた。


■クラウドワークス代表「働き方革命は始まったばかり」


直接取引はクラウドソーシング会社への手数料支払いを逃れるため、規約で禁止されている。

問題のある方法ではあるが、そのような実態があるとすれば同サービスがきっかけとなって月20万円以上稼いでいる人は「実はもっといる」ということになりそうだ。


同社広報は、キャリコネニュースの取材に対し、20万円以上稼げるユーザーが111人しかいなかった理由について、以下のように説明した。


「ユーザーの中には、クラウドソーシングだけで生計を立てたいという方ばかりではなく、副業目的や育児や介護などが理由で、自宅で空いている時間だけ働きたい方、定年退職後のシニアや学生など、収入よりもやりがいやスキルアップを目的とされる方など、様々な目的を持った方がいます。週数時間だけ働き月数万円程度稼げるだけで十分と考える方や、クラウドワークスが複数ある収入源の一つである方も多いため、20万円以上稼ぐことを目指すのはもともと一部の層のみであるとは言えると思います」


稼げるユーザーを増やすことの重要性を認識しているからこそ今回の開示に踏み切ったという。そのための仕組み作りも進めている。昨年秋には、過去の実績などを基準に業務の質が高いユーザーを運営側で認定し、有名企業の依頼案件や高単価の案件、継続発注が予定されている案件を優先的に紹介する「プロクラウドワーカー」制度もスタートした。

現在、このプロクラウドワーカーには約4000人が認定されている。


「案件をこちらから紹介するので、ユーザーは仕事を探すという手間がなくなり、効率的に稼ぐことができます。また、企業の方にも『認定ユーザーなら大丈夫』と思ってもらえるので、取引が一層増えると見ています」


また、同サービスを通さずにクライアントと直接取引するユーザーの存在については「いるとは思う」としながらも、「今後は継続的に一定以上の収入を得ている方向けの限定特典を設けるなど、クラウドワークスを通じて取引をすることのメリットを感じていただける施策を打ちながら、継続的に利用してもらえるようにしていきます」と語っていた。


同社の吉田浩一郎代表は、今回の「111人」が話題になったことを受け、2月22日、ツイッターに


「だからこそベンチャーとして市場創出する意味があると思っています。働き方革命は始まったばかりです」


と投稿していた。同社は今期、総契約額40億円を見込んでいる。

引き続き、短期目標である年間総契約額100億円を目指して全力を尽くしていく、とのことだ。


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