【増田俊也 口述クロニクル「茶の間を変えたコメディアン 欽ちゃんのぜ~んぶ話しちゃう!」】#35


 作家・増田俊也氏による連載、各界レジェンドの生涯を聞きながら一代記を紡ぐ口述クロニクル。待望の第2弾は、「視聴率100%男」として昭和のテレビ界を席巻したコメディアンの萩本欽一氏です。


  ◇  ◇  ◇


増田「良い運が重なりすぎると悪い運が巡ってくると」


萩本「そうなのよ。だから俺ね、自分の番組が視聴率30%行ったときに、奥さんに『とにかく動物飼え』って。何にも知らないから『何で?』って言うからね、30%行ったから、家族に絶対病人が出るから、動物飼えって言ったの」


増田「なるほど、そうしたら」


萩本「そしたらね、子供が犬と猫を買ってきたの。『これいくらするんだ?』って『チンチラっていって7万円かな』って言うから俺、張り倒したくなっちゃった。おまえが運使ってくんじゃねえよこの野郎って。それで子供にね『かわいそうな猫がいたら連れて来い』っつって。で、かわいそうな猫がいたわけ。踏まれちゃったかなんかで腰がちょっと曲がってる猫がいたの。だからそれだ。みんなでこの子をね、可愛がるんだよってさ、あの子がみんな家族の病気をなくした、助けてくれた。だから俺、家建てないじゃない」


増田「今まで一度も建てなかったんですか?」


萩本「建ててないですよ。買ったことはあるけど建ててない」


増田「その決心というか軸はすごいですね」


萩本「いまいるここの会社の建物も建てたものじゃない、買ったんです。

ここのおっさん助けるために。バブルでここの親父さんがね、倒産しちゃったの。そんなもんだから助けるっていうんで、たまたま買ったんです」


増田「ご自宅を建てないっていうのは、何かそういう運とかそういうのを」


萩本「ダメでしょう。いい家建てると子供がまずダメになるんじゃないかって。子供がそういう錯覚するから。だからさ、引っ越して、子供たちが障子紙ビシビシ破いてるのを見て、俺、ラッキーと思ってました。うちにお客さんが来るとね、大将の家にしてはひでえなって言ってるけど、それでいいんです。そもそも築20年の家ですからね」


増田「築20年を買ったんですか」


萩本「はい。しかもね、隣がお寺っつんで。みんな買わないところですよね。ええ、それこそ日本一の人気者の萩本さんの家が、そんなお寺の横の築20年だったという」


増田「それで運が逃げない」



「箱根の峠道でブレーキ利かなくなって…」

萩本「はい。そういうところで運が変わるんだっていう気がするから。

こんなこともありました。引っ越した時に、奥さんがお腹が痛いって救急車で病院に行った。だけど救急車って、帰りは送ってくれないんだよね。そのことがあって奥さんが僕に内緒で車の免許取ったの。神奈川の山の上の家だから、車がないと生活できないところだからって。俺、やめてくれって言ったんだよ、事故が起きるからって。事故が起きると、私の仕事もアウトになるよって言った。間違いなくそうなるって言ったんだよ。だからやめてって言ったの」


増田「確信してた?」


萩本「うん。1年後くらいに大事故が起きるよって。でもね、どうしてもこの場所で車なければ生活できないって言うんで。うん、じゃあわかったよって。

覚悟しとくからって。そしたら本当に1年後、大事故が起きた。でも、人が亡くなったとかっていう事故じゃなかった。奥さんから電話が来て、いきなり『あんた当たるのね。本当に1年後に大事故だよ』つって」


増田「車がぐちゃぐちゃになるぐらいの事故だったんですね」


萩本「箱根の峠道でブレーキ利かなくなって車が暴走したんです。そういうところを暴走したら、道の脇に駆け上がるとこがあるのね。そこへバーって駆け上がったら、そこにたばこ吸って休憩してるあんちゃんがいたんだって。オートバイを置いてたばこを吸ってたんだけど、逃げ場のないところでしょ。車が逃げるそういうところに立ってちゃいけないんだけど、その人をね、ちょっとケガさせちゃった。向こうがごめんなさい、ごめんなさいって助かりましたよね」


増田「よかったですね……」


萩本「そんなものが見える。だからほら、俺、車の免許なんか持たないの」(つづく =火・木曜公開)


▽はぎもと・きんいち 1941年、東京都生まれ。高校卒業後、浅草での修行を経て、66年にコント55号を結成。

故・坂上二郎さんとのコンビで一世を風靡した。その後、タレント、司会者としてテレビ界を席巻し、80年代には週3本の冠番組の視聴率がすべて30%を超え、「視聴率100%男」の異名をとった。社会人野球「茨城ゴールデンゴールズ」の初代監督、2015年には73歳で駒澤大学仏教学部に入学するなど挑戦を続け、25年10月にスタートしたBS日テレ「9階のハギモトさん!」は今年4月からSEASON3に突入した。


▽ますだ・としなり 1965年、愛知県生まれ。小説家。北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が発売中。現在、拓殖大学客員教授。


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