試合前に決まった行動を繰り返す「ルーティン」を大切にするアスリートは少なくない。しかし、長谷川唯には、あえて決めているルーティンがほとんどない。

初著書『SMILE わたしを笑顔にする40の思考と習慣』には、変化の多い海外での生活や世界最高峰の舞台に適応してきた柔軟な思考、子どもの頃から大切にしてきた目標設定について記されている。決まった形に頼らず、その時々の自分に必要なことを見極める姿勢と、努力を続ける力につながる目標の持ち方を紹介する。

(文=長谷川唯、写真=YUTAKA/アフロスポーツ)

ルーティンよりも大切な、変化に対応する力

ルーティンに関する質問をよく受けるのですが、実は、わたしには決まったものがほとんどありません。むしろ今は、“ルーティン”をあえてつくらないようにしています。

日本でプレーしていた頃は、試合前に使える時間はある程度決まっていて、食事も含めて準備を整えやすい環境でした。でも、海外では会場に入るまでの時間が短かったり、使える場所が狭かったりして、思ったとおりには動けないこともよくあります。そういうときに、「いつもの準備ができない」という不安をもちたくありません。ルーティンを守ることが目的になると、できなかったときに逆に気持ちが乱れてしまうからです。

自分にとって大事なのは、毎回同じかたちを守ることではなく、どんな状況でも落ち着いて準備できることです。環境が変わり続けるなかで、何が起こっても自分の状態を整えられることのほうが、長くプレーしていくうえでは大切だと感じています。ちなみに、イングランドには、「天気が悪いと憂鬱になる」という人も多くいますが、わたしはまったく気にしません。

「ベレーザでプレーしたい」。夢中になれる目標との出会い

一方で、目標設定の意識は、小さい頃からもっていました。

小学4年生くらいまで、生まれ育った埼玉県戸田市の戸田南FCスポーツ少年団と女子の戸木南ボンバーズFCというクラブチームの練習を掛けもちしていました。

金曜日は女子チームでナイター練習、土曜日と日曜日は少年団の試合。木曜日だけ、ボールタッチや1対1の技術を磨くことで知られるサッカースクール、クーバー・コーチングに通っていました。そんなサッカーに夢中になっていた頃、女子チームの活動の一環で、ベレーザと浦和レッズレディース(現、三菱重工浦和レッズレディース)の試合を観にいく機会がありました。

それまで女子のチームは近所にあったレッズしか知らなかったのですが、ベレーザのサッカーを観たときに、シンプルに「うまい」と感じる瞬間がたくさんありました。その試合を観て、ベレーザに入りたいという気持ちが強くなり、当時のコーチからも「唯のプレースタイルなら絶対にベレーザがいい」と強く勧められました。自分が信頼している人にそう言ってもらえたこともあって、ベレーザが“目指す場所”になったのです。

ベレーザの下部組織であるメニーナのセレクションを受けたのは、小学6年生の夏です。それまでの1年間は、ほとんど毎日のように練習していました。最初はセレクションに受かるために始めたものでしたが、次第に練習そのものが楽しくなって、時間を忘れるほど夢中になっていました。

当時の女子チームのコーチは、自身がチームのコーチをやめたあとも、平日の夜の練習につきあってくれました。基本は夜7時から10時までで、遅いときは11時まで練習することもありました。

コーチは仕事を終えたあと、スーツ姿のまま来てくれることもあり、大人になった今思えば、毎日のように時間をつくってつきあってくれたことに驚きます。わたし自身も学校に通いながらよくやっていたなと感じますが、コーチがいてくれたからこそ、その後のサッカー人生で多くの人と出会うことができたと思っています。

「努力」は、楽しいから続けられる

サッカーがうまくなるためには「努力を習慣にすることが必要」と言われることがあります。ただ、自分のなかでは、うまくなるための積み重ねを「努力」だとは思っていません。原点にあるのは「サッカーが楽しい」という気持ちです。「サッカーが嫌だからやめたい」と思ったことは一度もありません。楽しいからこそ、ここまで続けることができたと思います。

「もっとサッカーを知りたい」「もっといろいろなことができるようになりたい」という気持ちがずっと続いているので、ほかの人が「努力」と呼ぶことも、自分のなかでは自然なことでした。

もちろん、理想に近づくには努力が必要で、「こうなりたい」という気持ちだけでたどり着けるわけではありません。それを続けるには「こうなりたい」という思いを、どれだけ強く、具体的にもてるかが大事だと思います。

努力が続かないときは、努力の仕方がわからないというより、自分が目指したい姿がまだはっきりしていないのかもしれません。小学生のわたしがベレーザを“目指す場所”と決めたように、まずは自分が何をしたいのか、どんな姿を目指したいのかを、できるだけ具体的に思い描くことが大切だと思います。

世界を広げて、新しい目標と出会う

そういう「本当に好きなもの」や「夢中になれるもの」が、すぐには見つからない人もいると思います。

実際、わたし自身もサッカー以外で本当に好きだといえるものは、まだ見つかっていませんし、引退したあとに何をしたいのかを考えると、今の時点ではっきりした答えは出ていません。新しい目標ができたとしても、サッカーと同じ熱量で打ち込めるかどうかわかりません。それでも、何もしなければ何も見つからないとも感じています。いろいろな仕事や経験にふれながら、自分が夢中になれるものに出合うために動いていきたいですし、まずは、自分の世界を広げることが必要だと感じます。

最初から「これをやりたい」とはっきり決まっていなくてもいいと思います。「自分はこの年齢だから、もう将来の夢が決まっていなければいけない」と思う必要はありません。大事なのは、年齢に関係なく、いろいろなことにふれながら、自分が心から「やりたい」と思えるものを探していくことです。目標が見つかれば、努力の意味もはっきりしてきますし、続ける力にもつながっていくと思います。

【連載第1回】「批判は気にならない」長谷川唯が明かす、評価に振り回されない思考法

【連載第2回】大一番を「特別」とは思わない。長谷川唯が世界最高峰で貫く“準備の習慣”

(本記事は徳間書店刊の書籍『SMILE わたしを笑顔にする40の思考と習慣』から一部転載)

<了>

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[PROFILE]
長谷川唯(はせがわ・ゆい)
1997年1月29日生まれ。宮城県出身。女子サッカーのイングランド1部(女子スーパーリーグ)・マンチェスター・シティWFC所属。ポジションはMF。中学1年生で日テレ・東京ヴェルディベレーザの下部組織であるメニーナに加入。年代別代表では2014年FIFA U-17女子ワールドカップ優勝、2016年FIFA U-20女子ワールドカップ3位入賞。2017年になでしこジャパンに初招集され、2度のFIFA女子ワールドカップ、東京五輪とパリ五輪、3度のAFC女子アジアカップを経験。なでしこジャパン通算100試合出場も達成した。2025-26シーズンはマンチェスター・シティの10年ぶりとなるリーグ優勝とFAカップ優勝の二冠に貢献。イングランドプロサッカー選手協会(PFA)選出のベストイレブンを3年連続で受賞し、日本プロサッカー選手会(JPFA)が選ぶ年間最優秀選手賞も2年連続で受賞している。抜群のサッカーセンスとボールコントロール、高い戦術眼を武器に、世界最高峰の舞台で日本人プレーヤーの価値を高め続けている。

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