住宅ローンの審査に通ったから、その金額までは借りても大丈夫――果たして、本当にそうでしょうか。物件価格と住宅ローン金利が上昇する今日、重要なのは金融機関で「借りられる額」ではなく「返し続けられる額」です。


世帯年収1,200万円でも「住宅ローン破産」まっしぐら?持ち...の画像はこちら >>

 FPの武田拓也氏が、過去の相談事例を基に、教育費や老後資金を考慮した住宅予算の上限を検証します。※個人の特定を避けるため、世帯年収などの情報を一部変更しています。


住宅価格高騰+金利上昇の「ダブルパンチ」

 近年、建築費や人件費、土地価格の上昇によって住宅価格が高騰しています。


 東京23区のマンション戸当たり平均価格は2025年度は1億3,784万円となっており、2020年度の7,564万円から大きく上昇しました。


※出典:株式会社不動産経済研究所「 首都圏 新築分譲マンション市場動向2025年度(2025年4月~2026年3月) 」より


 さらに、2026年6月、日本銀行は政策金利を1.0%に引き上げ……これにより、住宅ローン金利も上昇局面に入ったことで、「待てば待つほど家が買えなくなるのではないか」と、焦る人が増えています。


 ただ、焦って家計のシミュレーションを誤ると、せっかく購入したマイホームを泣く泣く手放すことになりかねません。


 そこで今回、首都圏に住む38歳の共働き夫婦からの相談事例を基に、住宅購入を検討する上で知っておきたい「無理のない予算の組み方」を見ていきましょう。


世帯年収1,200万円・38歳共働き夫婦の事例

 今回紹介する相談者A夫婦はともに38歳、夫は上場会社の会社員、妻は5歳の子どもの育児のため時短勤務をしています。世帯年収は1,200万円、金融資産は約500万円です。


 勤務地は夫婦とも東京23区内で、現在は首都圏の賃貸住宅に住み、駐車場代を含めて月15万円の家賃を支払っています。


 そんな夫婦は、都内某所の築浅マンションの購入を検討しており、その価格は8,000万円台後半。夫いわく、「今後の昇給と妻がフルタイムに復帰することを考慮すれば、不可能ではないと考えている」とのことでした。


 では、果たしてA夫婦のマイホーム購入計画は実現可能なのでしょうか?


「銀行が貸してくれる金額」をうのみにしてはいけない

 まず、夫婦は世帯年収1,200万円と、全世帯の平均所得575.2万円※を大きく上回っています。


※厚生労働省「 2025年(令和7年)国民生活基礎調査 」より


 住宅金融支援機構「2025年度 フラット35利用者調査」によると、マンションを購入した人の平均年収倍率は7.5倍とのことですから、1,200万円であれば9,000万円まで借りても問題なさそうです。


 しかし、「金融機関が貸してくれる金額」と「無理なく返せる金額」は違います。


 まず、夫婦の金融資産は500万円です。つまり、住宅の購入はフルローンが前提でしょう。また、今後は子どもの教育費が増えるほか、妻が時短勤務を続ける可能性、転職や病気によって収入が減る可能性も考えられます。


 住宅ローンを組む際は、現在の年収や手元資金に加えて、将来の教育費や老後資金、収入減少リスクまで含めて判断する必要があるのです。


金利上昇を考慮する

 2026年7月の変動型住宅ローンでは、適用金利が年1%前後となる例が見られます。また固定金利型の場合、今年に入ってからすでに2.2%程度※まで上昇しています。政策金利引き上げを受け、変動金利の基準金利を引き上げる金融機関も増えているようです。


※出典: 住宅金融支援機構 より


 住宅金融支援機構が紹介する民間予測では、変動金利の基礎となる政策金利が2027年6月末までに約1.6%へ上昇するとの見方もあります。将来の金利を正確に予測することはできませんが、金利が2~3%まで上昇しても返済できる金額に抑えることが重要です。


夫婦にとって「妥当な借入限度額」は?

 住宅金融支援機構の基準では、年収400万円以上の場合、住宅ローン以外の借入れも含めた総返済負担率は35%以下が上限とされています。世帯年収1,200万円であれば、年間返済額420万円、月35万円程度まで審査基準に収まるため、計算上は約9,000万円の借入れも可能です。


 しかし、35%は「審査に通る可能性がある水準」であって、安全に返せる水準ではありません。


 2025年度のフラット35利用者の平均総返済負担率は22.8%※です。年収1,200万円の22.8%は年間約274万円、月約22万8,000円となり、金利3%・35年返済で計算すると、約5,900万円となります。


※出典:住宅金融支援機構「 2025年度 フラット35利用者調査 」より


 つまり、将来の金利上昇を考慮した妥当な借入限度額は、「6,000万円前後」が一つの目安と考えて良いでしょう。


 さらに、住宅を所有することで生じる「住宅ローン以外の支出」も忘れてはいけません。マンションの場合は管理費や修繕積立金、固定資産税、場合によっては駐車場代などが必要となるため、およそ月6万~7万円程度が見込まれます。


 世帯年収1,200万円の手取りは、勤務先の社会保険制度や賞与の割合によって異なりますが、手取り月72万円ほど。


 これらの条件をもとに、借入額別の具体的な家計収支をシミュレーションしてみます。


生活費と借入額別のシミュレーション

項目 費用(月額) 食費 10万円 水道光熱費 3万円 通信費 2万円 日用品・被服費 4万円 自動車関連費 5万円 保険料 3万円 教育・保育費 6万円 夫婦の小遣いや娯楽費 8万円 その他の支出 2万円 合計 43万円

 まず、夫婦の毎月の支出は約43万円です。ここに住宅ローンと住宅の維持費を加えたのが二つ目の表です。


借入額 ローン返済額 維持費を含む住居費 手取り割合 合計支出(月) 6,000万円 約23.1万円 約29.1万~30.1万円 約40~42% 約72万~73万円 7,000万円 約26.9万円 約32.9万~33.9万円 約46~47% 約76万~77万円 8,000万円 約30.8万円 約36.8万~37.8万円 約51~53% 約80万~81万円

 表を見ると、借入額6,000万円の場合、毎月の支出が約72万~73万円となり、収支がほぼ均衡します。そして、借入額7,000万円では月4万~5万円程度、借入額8,000万円では月8万~9万円程度の赤字になる計算です。


 よって、金利が上昇しても返済めどがたつ金額の上限は約6,000万円であり、この金額を超えると金利上昇時に恒常的な赤字となる可能性が高いでしょう。


「インフレだから急いで買う」は危険

 インフレが続けば将来も住宅価格や家賃が上昇していきます。また、現在より住宅ローン金利が上がる可能性も否定できません。しかし、「これ以上高くなる前に」という焦りだけで住宅を購入するのは危険です。


 候補物件を探す前に、まずは「返済計画」を十分に検討しましょう。


住宅購入の判断基準は「家計の耐久力」

 ここまで見てきた内容を踏まえて、今回紹介した夫婦の借入限度額は6,000万円、よりリスクを抑えるのであれば、5,000万円台前半~半ばに抑えることが望ましいでしょう。


 夫婦の現在の家賃は駐車場込みで月15万円と、首都圏の住居費として極端に高いわけではありません。むしろ、現在の住まいで資産形成に励むのが合理的な選択と考えます。


 インフレや金利上昇に焦って「今すぐ買うべきか」を考えるのではなく、「家を買った後の家計」を具体的にシミュレーションし、無理のない予算を組むことが重要です。


(武田 拓也)

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