米国では2025年、1日当たり平均で1,200人のミリオネア(百万ドル長者)が新たに誕生しました。その背景には、AI革命を追い風とする企業利益の拡大と株高、そして「株式は成長証券」との理解と投資を続ける文化があります。
米国で「百万ドル長者」が増え続ける事実と理由
米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ、2026年7月1日)は、UBSが2026年6月30日に公表した「グローバル・ウェルス・レポート2026」を引用し、「米国では2025年末時点で、株式、債券、住宅不動産などを含む純資産が100万ドル(約1億6,000万円)を超える『百万ドル長者』が約2,360万人に達した」と報じました。
これは、1日当たり平均約1,200人超の百万ドル長者が誕生し、2025年だけで約44万1,000人増加した計算です(2024年の1日当たり平均は約1,000人増のペースでした)。2025年に世界全体で増えた百万ドル長者のうち、約半数を米国が占めました。
米総人口を約3億4,000万人とすれば、百万ドル長者は総人口のおよそ14~15人に1人に相当。成人だけを分母にすると「約11人に1人」という高い割合になります。
スイスユニオン銀行(UBS)の国際比較によれば、日本も百万ドル長者が200万人を超える主要国の一つですが、人口約1億2,300万人に対する割合は約1.6%と少なく、総人口ではおおむね60人に1人程度です。単純比較では、米国の百万ドル長者比率は日本の4倍前後に達することになります。
図表1は、米国株を象徴するS&P500種指数の長期パフォーマンスを、約10年前(2016年初)を起点にして世界株式(MSCI ACWI指数)や日本株式(東証株価指数(TOPIX))との比較で検証したものです。「株式は成長証券(Growth Securities)」と認知されている米国での資産効果が分かります。
図表1:過去10年の内外株価指数の推移比較(ドルベースおよび円ベース)
株高と「成長証券」が米国家計の純資産を育てている
UBSは「米国と日本の百万ドル長者の総人口比率と増加ペースの差を生んでいる大きな理由」として「家計の資産形成の方法」を挙げていました。
米国では、確定拠出年金(401K)や退職個人年金(IRA)を通じて、株式や投資信託を長期保有、定時定額投資(積立投資)を続けてきた中間所得層が多く、一般家計でも株価上昇が一般家計の純資産増加に直接結びつきやすい構造になっています。つまり、利益成長期待を反映する米国株高傾向や、住宅価格の高止まりが、富裕層増加を後押ししてきました。
WSJも、米国で百万ドル長者が増えた大きな理由として「金融市場、特に株式市場の上昇」を挙げています。
一方、株式は16.7%、投資信託は6.9%にとどまるため、株価上昇の恩恵が家計全体に広がりにくい構造となっています。
米国の事例が示すのは、「現金は安心を守るが、株式は成長を取り込む」という資本主義経済の現実です。株式や投資信託を長く保有し、企業利益の成長を家計の成長につなげたことが、資産形成の成否を左右したファクトであるといえるでしょう。
図表2:米国株の上昇を支える「1株当たり利益」の実績と市場予想
過去10年間の米国株式市場を振り返ると、2015~2016年の中国景気減速や原油価格急落、2018年の米連邦準備制度理事会(FRB)利上げと米中貿易摩擦、2020年の新型コロナショック、2022年の歴史的なインフレと急速な利上げ、2023年の米地方銀行破綻、2025年のトランプ関税ショック、今年3月のイラン×米国紛争と原油高など、株価を揺さぶる材料は幾度となく発生しました。
そのたびに大小の株価調整を余儀なくされましたが、中長期では上昇基調を維持しています(図表1)。
その原動力となってきたのが企業業績の拡大です。図表2のように、S&P500ベースの1株当たり利益(EPS)は、2015年の117.46ドルから2025年には271.29ドルへ約2.3倍に拡大し、市場では2026~2028年も3年連続で2桁増益(最高益更新)が予想されています。
今後も需給、金利、地政学的リスクで株価は適宜揺れるでしょう。ただ、「調整は強気相場の必要経費」であり、長期では「株価は業績」です。利益が伸び続ける限り、株式市場は上昇トレンドをたどる。過去10年の米国市場はそのプリンシパルを示してきました。
AI相場は一時のブームではない―「新たな産業革命」の入口
この利益成長見通しをけん引するのが、AIの進化とその産業実装といわれています。筆者は「AI相場は一時のブームではなく、新たな産業革命の入口」と考えています。
プレセデンス・リサーチ(Precedence Research:カナダ系調査会社)の長期予測によると、世界AI市場規模は2025年の約7,580億ドルから2035年には約4兆2,160億ドル(約680兆円)へ拡大し、今後10年で約5.6倍の成長が見込まれています。
これは一過性の需要ではなく、AIが社会のあらゆる分野に実装されていくことで、生産性を向上させて新たな付加価値を生み続けるトレンドを見込んだ予測です。
図表3:世界のAI市場規模は高い成長を続ける見通し
実際、AIの進化はすでに次のステージへ移行しつつあります。生成AIが文章や画像を生み出す大規模言語モデル(LLM)の段階から、半導体やAIデータセンターなどのインフラ整備が進み、AIエージェントが事務、金融、医療・創薬などの知的業務・分析を担う時代へ入り始めました。
さらに、工場・物流のフィジカルAI、自動運転車や家庭(家事作業)へ広がる自律判断型エッジAI、そしてヒューマノイド(人型ロボット)といった現実世界モデル(RWM)に進歩していくと予想されています。
米国では、AIが単なるソフトウエアではなく、生成AIは数年で汎用AI(AGI)に進歩し、やがて人工超知能(ASI)に進化してあらゆる産業の「頭脳」として基盤技術となっていくと予想されているようです。
こうしたトレンドと経済効果は、1990年代後半のインターネット革命や18~19世紀の産業革命を上回るペースであるといわれています。
短期では、地政学的リスクや物価、金融政策など、さまざまなショックで株価が調整する局面は訪れるでしょう。しかし筆者は、「需給的な株価波乱はノイズ、長期の利益成長がトレンド」だと考えています。
市場の主役は「AI関連株」から「AIを活用して生産性を向上させて利益を成長させる企業」へと広がり、米国のみならず世界経済の生産性向上を支えるインフラになっていくでしょう。
現在のAI相場は短命なブームとは思いませんが、相場は一直線には上昇していかないのも事実。
10年前から米国株に積立投資していれば時価資産は約3倍に
NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)口座の「つみたて投資枠」は毎月10万円(年間120万円)です。この制度を活用して長期・積み立て・分散投資を続けた場合、どのような資産形成が期待できるのかを、S&P500(円ベース)の長期実績で検証したのが図表4です。
図表4:S&P500(円)に10年前から毎月10万円ずつ積立投資してきた実績を検証
2016年1月から毎月10万円を機械的に積み立てたと仮定すると、10年間の累計投資額(元本)は1,270万円となります。一方、2026年7月末時点の投資資産の時価評価額は約3,663万円となり、投資元本の約3倍まで膨らんできた計算です。
この結果は過去10年間における米国株式市場実績(円ベースのS&P500=為替ヘッジなしのインデックスファンドへの積立投資をイメージ)に基づくシミュレーションであり、将来の運用成果を保証するものではありません。
それでも、「時間は投資家の味方」であり、長期積立投資が米国経済と企業利益の成長を取り込む有力な方法であることを示す、示唆に富んだ結果といえるでしょう。
上記で解説した、資産形成実績を支えたポイントは三つあります。
一つ目は「ドルコスト平均法」です。毎月一定額を投資することで、株価が高い局面では少なく、安い局面では多くの口数を購入できました。2020年のコロナショックや2022年の急速な利上げ局面など、大きな下落時にも積み立てを継続したことで平均購入単価が抑えられ、その後の株価回復の恩恵を大きく受けることができました。
「安値を当てるより、積み立てをやめない」。
二つ目は複利運用の効果です。資産が増えるほど、その増えた資産自体がさらにリターンを生み出すため、時間の経過とともに資産の増加ペースは加速します。
三つ目は、恒常的な円安トレンド(ドル高=為替差益による円換算外貨建て時価資産の押し上げ)です。図表4でも、積み立て開始から数年間は緩やかだった資産残高が、後半になるにつれて大きく伸びていることが確認できます。これは「利益が利益を生む」という複利の力(雪だるま効果)にほかなりません。
NISAは、こうした長期・積み立て・複利運用を非課税で実践できる制度です。短期的な株価変動に一喜一憂せず、米国を軸とする世界経済と企業利益の成長を信じて積み立てを続けることが、資産形成の王道であることを示しています。
資産形成は「売買タイミングを当てるゲームではなく、時間をかけて育てる習慣」です。市場が一時のノイズで揺れても、長期の視野で投資を続ける(Stay Invested)。本稿でご紹介した「米国で百万ドル長者が増えてきた理由」も、結局はこうした資産形成のプリンシパル(成長証券への長期分散投資)を巡る広い認識があると思います。
(香川 睦)

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