〈韓国で犬肉販売禁止へ〉「外国に言われてというより“家族の一員”ですから」食用犬農場は8割超が廃業…代わりに食べるようになった動物は
〈韓国で犬肉販売禁止へ〉「外国に言われてというより“家族の一員”ですから」食用犬農場は8割超が廃業…代わりに食べるようになった動物は

犬肉が夏の暑い時期の滋養食として珍重されてきた韓国では、来年2月から食用目的の犬の飼育・繁殖・食肉処理や、犬肉の流通・販売が法律で禁止される。店で犬肉を食べられる最後の夏を迎える前に、犬肉を扱う農場の大半は廃業している。

食用禁止が決まった時には「伝統文化なのに」と反発する声も出たが、最近は犬肉食禁止を当然視する空気が強まっているという。その背景を探った。

「伝統の食文化」から「新たなペット文化」へ…

韓国では今夏、記録的な猛暑が続いている。8月2日には南東部で42.5℃という高温を記録。日本の観測史上最高気温を上回る暑さに、熱中症による死者も相次いでいる。そんな韓国では毎年、日本でウナギを食べる風習のある「土用の丑の日」のように“滋養食を食べよう”という日がある。

「中国の古い思想をもとに初伏(チョボク)、中伏(チュンボク)、末伏(マルボク)という3日があり、毎年少しずつ日付は変わるのですが、今年は7月15日、25日、8月14日がそれぞれあたります。

これらの日には日本人にも人気の参鶏湯(サムゲタン)が多く食べられますが、同じく有名なのが、補⾝湯(ポシンタン)と呼ばれる犬肉のスープです。毛が短い食用犬の肉を、香りの強い野菜と一緒に煮込んだもので、クセが強くて好き嫌いは分かれるでしょうね」(食べた経験がある元ソウル駐在員)

ソウル旧市街にはかつて、食用犬がずらりと並ぶ市場もあった。夏の補⾝湯店には行列ができるほど。犬肉はよく食べられてきた。

しかし、1988年のソウルオリンピックを機に海外の動物保護団体から批判の声が上がり、それから国内でも禁止を求める声が高まっていった。

歴代政権も何度か食用禁止を検討したが、関連業界や犬肉ファンからの「伝統の食文化をなくしていいのか」との抵抗に遭い、挫折してきた。

しかしここ数年で事態は一気に進んだ。禁止を決定づけたのは、日本でも有名な“アノ人”の行動だったという。

「2024年12月に戒厳令を宣布し、政治学上“セルフクーデター”とも評される行動に失敗し失脚、逮捕された尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領の妻・金建希(キム・ゴンヒ)氏です。ブランドもののバッグを賄賂として受け取ったなどとして逮捕、起訴されている金氏は夫を尻に敷き、政治にかなり口出しをしていたと言われています。

その一つが、当時の与党『国民の力』が法案を提出し、2024年1月に成立した『犬食終息法』です。犬好きな金氏は犬肉食の禁止をたびたび訴えてきたので、“金建希法”と呼ばれています」(韓国メディア記者)

同法は、食用目的の犬の飼育や流通、販売を全面禁止。廃業に追い込まれる犬飼育農家や補⾝湯店を政府が支援する内容が盛りこまれ、施行まで3年間の猶予期間を設けた。そのため、来年2月からは食用目的の犬の飼育・食肉処理や、犬肉の流通・販売が禁止される。

「犬は家族の一員」食文化を変えた韓国社会の意識

法制定の結果、業界は消滅への道をたどっている。今年5月の韓国農林畜産食品部の発表によれば、2024年8月に1537カ所あった犬飼育農家は272カ所に減少した。

消えゆく犬食を市民はどうみているのだろう。

「私は一度も食べたことがなく、食べること自体が理解できませんでした」という50代の会社員女性Aさんは、自分の好き嫌いとは別に社会の変化を説明してくれた。

「以前は犬肉を滋養食として食べていても、犬を飼うようになって考えが変わり食べなくなった、という知人を多く見てきました。外国の文化の影響というより“家族の一員”という認識が社会で広がって、犬肉食に反対する空気が強まったと思います。

韓国では、ペットを飼う人も増え続けていて、食用反対を越えて“動物の権利”の問題への関心も高まっています。動物の権利を強く認識する欧米の水準に追いついていくのではないでしょうか」(Aさん)

韓国農林畜産食品部が2025年に全国3000世帯を対象に行なった調査では、ペットを飼う世帯は全体の29.2%となった。しかもこのペットがいる世帯のうち犬を飼っているのは80.5%に達し、第2位の猫の14.4%に大差をつけている。

韓国の世論調査機関ギャラップの調査では、ペットを飼う人の割合が2015年の19%から2022年には30%へ増えた一方、犬肉を1年の間に食べた人は15年の27%が22年には8%に減った。犬肉食を否定的に見る人も64%に達しており、ペットの家族化と並行して犬肉食への意識が変化してきたことがうかがえる。

しかし、韓国ではただ食文化が一つ消えるわけでもないようだ。

「犬に代わってヤギが“受難”すると言われていて、実際に街中ではヤギ肉の店が増えています」(Aさん)

実際、犬肉に代わる滋養食として黒ヤギ料理の需要が伸びている。韓国では国内のヤギ肉消費量が2021年の約6600トンから2024年には約1万3000トンへ増加した。

犬肉が消えても、“夏に滋養食を食べる”という習慣まではなくならないようだ。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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