夏になると、途端に食べたくなるものがある。それは冷やし中華だ。


もちろん暑いから、と言うのも理由のひとつに違い無い。しかしそれ以上に“冷やし中華はじめました”のポスターによる広告効果が高いせいだと思うのだ。

ちょっと暑いなあと感じる初夏あたりから町の中華屋にちらちらと現れる、冷やし中華の文字。
過去に、「『冷やし中華前線』はいまどこにいるのか?」の記事の中でも書かれているが、早いところで4月下旬より冷やし中華ははじまっていく。
こんな堂々とした宣伝を与えられている食べ物は、冷やし中華の他に無いだろう。

なぜ冷やし中華だけ特別扱いなのか。
いくつか中華料理店に聞いてみたところ、「他店がしているから」。特に理由はないそうだ。

それに、
「どうしても中華料理店に来るお客さんは、同じメニューを繰り返し注文する事が多いんです。忘れられてしまわないよう、目印にポスターを出してます」
と、うっかり忘れを防ぐためでもあるらしい。

それだけでなく、
「冷やし中華は少しお値段が張ります。手間も材料費もかかるのでお店としては精一杯の価格なのですが……そこで大きく宣伝している面もあります」
など、お店側の事情も大きい。


冷やし中華の生まれは中国かもしくは暖かい地域なのかと思っていたが、諸説ある様子。その中のひとつ、意外にも寒い東北の仙台が発祥である説が強いようだ。

生まれは昭和12年。「夏に売れる新しい中華はないだろうか」と、当時の中華料理組合員達の茶飲み話で生まれたのが、冷やし中華なのだとか。
そんな仙台でもやっぱりポスターは掲げられているのか。
お店を出されて40年と言う仙台の中国料理店“豊園”さんに伺ってみると、
「うちはポスターは出してません。
ただ4月下旬になったら冷やし中華のノボリを出すんです。合図みたいなものですね」
こちらの冷やし中華のスタートは、夏空にはためくノボリで知らせるそう。
そのノボリも「毎年新しい物を用意しますし、汚れたら期間中でも作り替えます。やっぱり綺麗な方がお客さんも喜んでくれますし」と言う職人魂だ。

ノボリを出す期間は9月ごろまで。さて、ノボリが片付けられれば冷やし中華シーズンも終わるのだろうか。

実は一時期、「発祥の地と言う事で、市内の中華料理店は冷やし中華を年中取り扱おう」と、活動をしたこともあるそうだ。
しかし厳しい東北の冬には受け入れられず、現在の販売時期はお店の裁量に任せているそう。

豊園さんも注文さえしてくれれば「冬でも出します」と堂々たる態度だが、しかし「ロスも出ますし、やっぱり冬はなかなか出ません。でも注文があれば出しますよ。同じようにやってる店は10件ほどあるんじゃないでしょうか」と、1年中冷やし中華を食べたい人にとって、仙台は夢のような土地と言えそうだ。

とは言え、冷やし中華はやっぱり夏の風物詩。

中華料理屋さんが言うには「キュウリ、トマトなど夏野菜が使われていて夏バテの体にも効きますよ」と、体にもよさそうだ。
それに"冷やし中華はじめました"のポスターを見ると、なんとなく気分が盛りあがってしまうのは、全国どこでも共通。

今年も、夏は暑くなると言う予報も聞いた。暑気払いに冷やし中華はいかが?
(のなかなおみ)