引っ越しをする際、大事なのは物件選びだろう。個人的に、譲れない幾つかの条件がある。
オートロック、風呂・トイレ別、駅から10分以内、2階より上の部屋……。
そういえば以前、私は線路沿いのアパートに住んでいたっけな。あれは大変だった。夜は寝れないわ、家は揺れるわ、電車の光が入り込んで来るわ。いい大人だってのに、苦学生のような心境になってしまって。あれから、物件選びに妙にこだわる人間に変わった気がする。もう家の中で、電車の走行音に悩まされたくはないのだ。

でも、このカフェは良い。ここでの走行音は心地良い。3月31日より東京都葛飾区にて営業している「プラたく」は、“店内をプラレールが駆け巡るカフェ”。
お店に足を踏み入れると、本当に「ガシャーッ」というプラレールの走行音が絶えず響き渡っているのだ。こんなカフェは初めてだよ。


でも、どうしてこんな変わり種カフェを? 「プラたく」の岡田店長に伺ってみた。
「昨年の8月に会社を退職しまして、『地元で何かをやってみよう!』と思い立ったんです。オープンの際は、以前より在籍しているプラレールサークル『けいぷら』の仲間たちに協力してもらいました」(岡田さん)
同カフェではお店の中を一周する形で電車が駆け巡っており、入ってすぐのスペースには幅1800ミリ、奥行き900ミリ、高さ2メートルもの巨大プラレールがそびえ立っている。(通称「1畳プラレール」)
これら全てを組み立てたのが、「けいぷら」の仲間たちだったのだ。なんと、岡田店長が作業に加わる前に一気に建設してしまったらしい。ちなみにかかった費用は、具材だけでおよそ30万円。

そうした苦労の末に辿りついた、鉄分溢れるコンセプトが心地良い。耳には軽妙な走行音が響いてくるし、お茶を飲んでくつろいでると目の前を愛らしい電車が横切るし。こういうカフェ、悪くないもんだぜ。
そんなこのオンリーワンな魅力に引きつけられ、平日はプラレール好きのお子さんとママさん達が多く訪れる。
「プラレールファンは、就学前の小さいお子さんが主流です。家で遊んでいるとどうしてもレイアウトの問題に直面してしまい、飽きちゃう事が多いんですね」(岡田店長)
まずスペースの問題で、小じんまりとしか遊べない。
あとは“かさばり”等の問題で、具材を数多く購入できない。結果、子どもたちの多くはヒーローものに興味が移ってしまうそうだ。
しかし、このカフェなら大丈夫! スケールの大き過ぎるプラレールを、遠慮なしに満喫することができるのだから。事実、取材中は「1畳プラレール」に群がる子供たちが多数。この子ら、凄まじい量の鉄分を取ってそうだな。

それだけではない。当然、プラレールファンには大人も多い。
「プラレールに興味がある“鉄ママ”が来店する事もあります。その他には、評判を聞きつけて遠方からお越しになるお客様もいらっしゃいました」(岡田店長)
ハンパじゃない。なんと、はるばる岐阜から訪れた方もいたそうだ。幕張でのプラレールイベントの帰りに、セットで同カフェに訪れたらしい。もはや『プラたく』は、全国区でプラレールの聖地!

では、この聖地にはどれ程の電車が走っているのだろう。

「いっぺんに店内を走る電車は、最大で4本です。『1畳プラレール』の方には同時に最大で8本の電車を走らせることができますが、安全性を考慮して4本までにしております。他に、モノレールも2本走らせています」(岡田店長)
同カフェには現在発売されている車両のほぼ全てが用意されており、廃版になった物については岡田店長のコレクション(約300編成)の中から選んで走らせているという。豪勢だ。確かに、遠くから来る価値はあるな……。

そして面白いのは、店内のチラっとした部分にプラレールが施されているという点だろうか。「OPEN/CLOSE」の看板はプラレールを用いた手作りだし、トイレ内の洗面台の下部分にもプラレールが貼り付けてあった。テーブル椅子の裏側にも、アクセントとしてプラレールがベッタリと!
「これも、サークルの仲間が貼り付けてくれたんです」(岡田店長)
まさに、仲間たちの協力のもとに起ち上がったカフェである。

ただ、岡田店長は強調する。
「あくまで、プラレールが走る“カフェ”だとお考えいただきたいです」(岡田店長)
その魅力はプラレールだけではない。事実、取材時に店内でお茶してたママさんたちは気軽に会話を楽しんでいた。プラレール門外漢でも楽しめる雰囲気があると思う。


お茶は美味しくて、パスタや焼きそばやトーストも見事。重厚とは真逆のポップな走行音の中で楽しむカフェタイムは、完全なる新感覚。オツなものでした。
(寺西ジャジューカ)
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