台湾出身のLEE KAN KYOさん(以下、リーさん)が描いたスーパーマーケットのチラシの作品が話題となっている。先日まで渋谷「ユトレヒト」で開催された個展「SUPER」も盛況だった。
日本のスーパーのチラシのデザイン性に衝撃を受けたというリーさんは、なんとも味のある絵で、細かい部分まで絵で再現している。早速、リーさんに制作秘話などを伺った。

スーパーのチラシを絵で緻密に再現 台湾出身アーティストの作品が話題


スーパーのチラシを絵で緻密に再現 台湾出身アーティストの作品が話題
※実際のチラシの大きさの4倍くらいはあります


スーパーのチラシを絵で緻密に再現 台湾出身アーティストの作品が話題


チャーハンは難しい


リーさんは、B4の大きさのイラストボードにマジックで描き、それをつなげて一枚の絵にする。
「下書きはせずに、チラシを見ながら描いていきます。大きな作品は、完成するのに1カ月かかります」

スーパーのチラシを絵で緻密に再現 台湾出身アーティストの作品が話題

●沖縄のスーパーのチラシ
「偶然見つけたんですけど、チラシにたくさんの写真や文字が載せてあるところが、押入れに入っているような感じがして面白いと思ったんです。『朝市』の文字の形も好きなので描きました」
確かに日本のチラシはゴチャゴチャしているように見えて、それでいて読みやすい。日本のチラシはハイセンスで、よくできたデザインだとリーさんは感心する。


――台湾にはチラシはないんですか?
「あるけど、これだけたくさんのことが盛り込まれてはいなくて、もっとスカスカなんです(笑)」
チラシに描いてある通り、地図も描く。
「マップが描いてあると、『本当に実在する店なんだ』と思っていいでしょ(笑)」
リーさんのこだわりは値段の部分の赤色の塗り方にもある。
「値段の赤色は大事で、何度も塗っていくんです」

スーパーのチラシを絵で緻密に再現 台湾出身アーティストの作品が話題

●お気に入りは日本酒
リーさんは日本酒のラベルのデザインが大好きだ。
「日本酒が並んでいるところがたまらなく良いので、描きました!」

スーパーのチラシを絵で緻密に再現 台湾出身アーティストの作品が話題

●新鮮便
「なんといっても、トラックがカッコよくて描きました!」
うんうん。なんとなく分かる気がするぞ。

スーパーのチラシを絵で緻密に再現 台湾出身アーティストの作品が話題

●チャーハンは難しい (上の部分)
「チャーハンは描くのが難しいですね(苦笑)。
自分にとってはトライアルです」
ご飯粒をどのように描くかが悩みどころだそうだ。

「難しい」といえば、日本語が上手なリーさんは今でも苦手な文字がある。
「『ン』と『ソ』の違いと『シ』と『ツ』の違いがいまだに分からないんです。『シーチキン』って書こうとして『ツーチキソ』って書いたりして。形が似ているので本当に分かりません。あとは濁点の付け方も苦手で……」
うんうん。
それは頑張ってもらわないと、私の方ではどうすることもできないのです……。

スーパーのチラシを絵で緻密に再現 台湾出身アーティストの作品が話題
製作途中



来日のきっかけは新宿


スーパーのチラシを絵で緻密に再現 台湾出身アーティストの作品が話題
LEE KAN KYO(リーさん)

ここで改めてリーさんのプロフィールを紹介。
LEE KAN KYO 台湾出身。2012年、東京造形大学大学院造形専攻を修了。現在東京を拠点に活動中。展覧会:ドリーム・あの子 (ガーディアンガーデン 2015)、Young Art Taipei 2015、preview of YAT (新宿眼科画廊 2015 年)、 Tokyo Art Book Fair などに参加。第 10 回グラフィック 「1_WALL」 グランプリ受賞。


リーさんは来日して8年になる。台湾の美術大学を卒業後、デザイン事務所で働き、冷凍食品のパッケージも担当していた。エビを美味しそうにデザインするなど、忙しい毎日だったそうだ。

――なぜ日本に興味を?
「森山大道さんの写真を見たのがきっかけです。新宿の写真を見て『なんて、ファッショナブルでカッコイイ街なんだ! 新宿に行きたい!』と思いました」

行動が早いリーさんは、来日して日本を旅行することに。
「3カ月間ブラブラと滞在しているうちに、日本にどんどんハマっていったんです。
それで、日本に留学しようと思いました」
これまた行動の早いリーさんは、会社を辞めて日本の大学でグラフィックを学ぶことを決意。かくしてリーさんのドタバタの日本生活が始まったのであった。

松屋は好きだけど吉野家には入れない理由


ほとんど勢いで日本に来たリーさんだが、一つ困ったことがあった。日本語が全く分からないのである。
「松屋には本当によく行きました。券売機があるから日本語がしゃべれなくてもご飯が食べられるんです。
吉野家は行きたくてもしゃべって注文しないといけないから、怖くて入れませんでした(汗)」

その後、美術学校と日本語学校に入学。
「美術学校に東京造形大学のパンフレットが置いてあったんです。予備校の先生に『とても良い大学だよ』と言われて入りました」
その後、大学院に進み、現在は原宿のデザイン会社で働いている。

さすがに、現在は牛めし以外も食べているが、リーさんには少し変わったところがあって、野菜ジュース(伊藤園「栄養もきっちり摂れる! 1日分の野菜」限定)を毎日飲んでいて、毎日同じような角度で飲んでいる姿の写真も撮っている。

日本の女性アイドル文化にも興味があり、アイドルをモチーフにした作品なども描いているが、リーさんの作品はどれもカラフルだ。「これからもエネルギッシュで、ビジュアル的に楽しめるものを作っていきたいです」というリーさん。自ら描いた「新鮮便」のトラックのように、今後も楽しいものを届けてくれそうだ。
(取材・文/やきそばかおる)

●LEE KAN KYOさんの次回の展示は、東京アートブックフェアにて。
LEEさんのInstagramもぜひ。