本来は、良いことが多くある年について使われる言葉「当たり年」。それがいまでは、インフルエンザの流行に関しても「今年はインフルエンザの当たり年」などと、嬉しくない使われ方をすることが多くなった。


それにしても、インフルエンザにはなぜ「当たり年」とそうでない年があるのか。国立感染症研究所・感染症疫学センター第二室長の砂川富正さんに聞いた。

「インフルエンザが流行する条件には、温度・湿度が下がること、人が接触する機会が増すことなどいろいろありますが、人の免疫状態による部分も大きいのです」

インフルエンザウイルスで、現在の季節性のものは、H1(2009年当時の新型)とH3型(香港型)の『A型』と、ビクトリア系統、山型系統の『B型』に分類され、ウイルス遺伝子は8つの分節に分かれているそう。
「インフルエンザはRNAウイルスで非常に変わりやすく、ワクチンは基本的に前年に流行したウイルスで作られるため、常に追いかけっこしている状況です。ウイルスの遺伝子が前年と似ている場合には、前年にかかった人にはあまり広がりませんが、ウイルスの変異が大きかったり、分節が入れ替わるなどの非常に大きな変異(新型インフルエンザ)が起こったりすると、ワクチンが効かず、広がりやすくなるのです」

つまり、「インフルエンザの当たり年」になってしまうのは、前年に流行したウイルスと翌年のウイルスが大きく異なる場合のよう。
「『ワクチンを打ったのに、効かなかった』とか、『型は合ってたのに効かなかった』という人がいるのは、そうした理由からです」
そのため、インフルエンザが大流行するかどうかは、どんなウイルスが流行るかが重要なポイントとなるが、予想は非常に難しいそう。


ちなみに、インフルエンザと同じく感染症の「はしか」は流行するし、重症化しやすいものの、ワクチンの有効性に影響を及ぼすような遺伝子の変異が起こりにくいことから、ワクチンが非常に有効だと言う。
「インフルエンザウイルスの遺伝子は非常に変わりやすく、厄介です。そのため、インフルエンザのワクチンと、流行しているウイルスの分類上の型が合っていても、遺伝子レベルの変異の程度によってはかかってしまうことがあります。ただし、感染した人についてワクチンを受けている人・受けていない人を比べた場合、受けた人のほうが重症化しないというデータはありますので、『重症化を防ぐ』という効果はあります」

「ワクチンを打っても、型が違ったら結局かかるから意味ない」と言う人もいるが、毎年ワクチンを受け続けていれば、それだけ多種の免疫ができるということであり、受け続ける意味はあるそうだ。
とはいえ、もちろん「ワクチン打ったら安心」ではなく、「外から帰ったらよく手を洗い、うがいをすること」「十分な睡眠や規則正しい生活リズム、バランスの良い食生活を心がけ、ストレスをためないこと」「感染したら広げないために外に出ないこと」は大切だ。

感染予防にはやはり「人ごみにできるだけ行かないこと」も有効である。

「2009年に新型インフルエンザが発生したとき、メキシコでインフルエンザの報告があってから日本に到達して騒ぎになるまでの時間は、6週間でした。しかし、昔は、例えばスペインかぜの場合、ウイルスができて地球を一周するまで6カ月もかかっていました。人の行き来が増えたことや、交通機関などインフラの進化の影響により、ウイルス同士の接点が生まれ、新しいウイルスが生まれやすくなったり、流行の速度がスピードアップしていたりするのです」

さらに今後、人々がどんどん宇宙に行くようになると、よくわからない病原体が持ち込まれる可能性も心配だという。

文明の発展とひきかえに、ウイルスの流行速度が上がっている現代。うつらないよう、うつさないよう、細心の注意をしたいものだ。
(田幸和歌子)