これまでのまとめ

1)日本の各県では県民手帳というものが普通に流通しているらしい。
2)県民手帳には県議会議員の住所と電話番号が当たり前のように載っている。

3)多くの県民手帳には「うちの県の日本一!」というお国自慢や、「全国で比較するとうちの県はこういう順位です」という統計指標が載っている。
4)県民の多くが知らないと思われる県民歌も載っている。

さて、前回の続きは中国地方からである。まずは山陽道に沿ってーー。
エントリーNO.14「広島県民手帳」
資料編の1ページ目に「広島県 お国じまん」のページがある。まず、全国1位の主な工業製品では「携帯電話機、PHS電話機」(2,700.6億円/27.7%)が目を引く。後者は、そうかシャープの東広島工場があるからか。あとは「鋼製外国船舶の改造・修理」(77.9億円/シェア41.5%)というのは、さすがに戦艦大和を建造した呉海軍工廠のあった県という気がする。珍しいところでは「やすり」(6.6億円/76.0%)、「ウスター・中華・濃厚ソース」(124.8億円/25.5%)というのも。後者はオタフクソースが貢献しているのかな。
その他農水産物ではさすがの「かき(殻付)養殖」(1,077百t/65.5%)があって納得した。
(県議会議員のアドレス)あり。

(県民歌)なし! というよりも、広島県にはたぶん県民歌が制定されていない。ここで詳述する余裕はないので、こちらを参照いただきたい。現時点で県民歌に当たるものがないことがわかっているのは広島県と大阪府だけである。

エントリーNO.15「岡山県」
統計指標が6ページにわたって掲載されている。残念ながら1位(最下位も)はなかったのだが「交通事故死亡者数」のところで37位とある横に(低順位)とあるのが不謹慎ながらちょっとおもしろかった。「全国で37番目に少ないんだ、よかったー」と油断しないように、「逆ですよ、逆!」と但し書きしたのかな。ちなみに人口10万人当たり5.6人(全国は3.8人)でした。岡山県の人は交通事故に気をつけてね。
(県議会議員のアドレス)(県民歌)ともに、あり。県民歌のほうは愛唱歌の「みんなのこころに」まで記載がある。県民の方はご存じかもしれないが小林亜星作曲である。実は岡山県の公式サイトには県民歌のページがありません。
これを見たら作ってください。

エントリーNO.16「島根県民手帳」
日本海側にまわった。日本の人口最少県はお隣の鳥取県だが、「生産年齢人口(15〜64歳)」割合はこちらが最下位である(58.1%)。そうした統計指標もたくさん載っていて好感が持てる。ただ、生産年齢人口の比率の低さを示すような数字が多いのはたしかで、「特別養護老人ホーム定員数(65歳以上人口千人当たり)」は全国1位(21.9人)である。逆に「1児童当たり教育費(小学校)」が1,256,899円で全国1位、「本務教員1人当たり児童数(小学校)」が11.3人で全国最下位と、これから子育てをするためにはいい条件も揃っている。
(県議会議員のアドレス)(県民歌)ともに、あり。

エントリーNO.17「鳥取県民手帳」
そして日本の人口最少県である。当然だが統計では「人口」(589千人)「世帯総数」(227,848世帯)とともに最下位であることを潔く認めている。この手帳には生産量ではなく1世帯当たりの家計消費と購入金額というちょっと変わった日本一が乗っていて、「即席めん」と「なし」の家計消費量がそれぞれ年4,259g/年、13,261g/年である。なしの方はやっぱり! という気持ちになるが即席めんがそんなに食べられる県なのだろうか。購入金額のほうでは、「もやし」(1,520円)が1位というのが意外だった。

その他、白ハタ寿司などの郷土料理紹介、特産物旬のカレンダーなどもあり、全般的に食のイメージが強い県民手帳なのであった。
(県議会議員のアドレス)なし!
(県民歌)あり。作曲者は佐賀県と一緒で團伊玖磨である。

【近畿地方】
エントリーNO.18「わかやま県民手帳」
2つめのひらがな県名表示手帳である。「和歌山県の日本一」と「和歌山県のトリビアあれこれ」が充実している。
それによると日本一は「梅」「みかん」「柿」(栽培面積・出荷量)の果物と「パンダ(飼育数)」なのだそうだ。うーん、パンダはなんか別なのではないかという気がする。またトリビアページを見ると「梅干消費金額(2人以上の世帯1世帯当たり)」3,742円が日本一とある。納得。わからないのは「コンビニ店舗数」で、1万人当たり2.1店舗しかないのだそうだ。これは全国最下位である。
(県議会議員のアドレス)(県民歌)ともにあり。
作曲者は「赤とんぼ」の山田耕作(耕の字は本当はたけかんむり)。

エントリーNO19〜23「奈良・兵庫・大阪・京都・三重」
この2府3県は残念ながら欠番である。三重県民手帳は平成17年に公式廃止、奈良県民手帳は存在が確認できているのだが、残念ながら購入が間に合わなかった(というか、県内でしか買えない模様)。他の2府1県では作られたことがないのではないか。かつて京都府民手帳が売られていた、という証言も見かけるのだが未確認である。かつての古都であり、商業的にも観光的にも街情報の需要が高い京都・大阪・兵庫では、ガイドブックや手帳の競争率が高く官製の色合いが強い県民手帳が存在しにくいのかもしれない。

エントリーNO24「滋賀県民手帳」
気を取り直して続けたい。滋賀県はオーソドックスな資料編一体型で、コンパクトなのに各市町村の紹介がちゃんと1ページずつ付いていてとても偉い。なにしろ観光PRキャラクターまで画像つきで紹介されているのだ。もちろんあの「ひこにゃん」だっているが、野洲市の「ドウタクくん」が「第6回ゆるキャラカップin鳥取砂丘2011」で総合優勝を飾ったことも明記されている。これはもしかすると「ゆるキャラ」という文字が県民手帳に載った初の事態ではないのだろうか。
「滋賀県の地位(全国対比)」のページもあるのですが、目ぼしい全国一位がなかったので紹介は割愛。
全面積に占める湖比率、とかあったらたぶん1位だったね。
(県議会議員のアドレス)(県民歌)ともにあり。県民歌のほうは一緒に「琵琶湖周航の歌」まで載っている。「琵琶湖周航の歌」は滋賀県人が作った歌じゃないんだけど。

【中部地方】
エントリーNO.25「愛知県民手帳」
名古屋市を有する人口集中県なのに京都・大阪と違って県民手帳が存在するのは、お国自慢の県民性の表れなのかもしれない。
その証拠に「全国第一位」を示すページが充実している。まず工業分野では「製造品出荷額等総額」が38兆2108億円、全国比13.2%で1977年から34年連続全国1位と誇らしげだ。ここには「普通自動車(2,000CC以上)」(2兆9,933億円/39.2%)、「パチンコ・スロットマシン」(5,270億円/46.2%)などと、さもありなんという品目がずらっと続く。あまりに予想どおりすぎておもしろくないので意外なものを挙げておこう。それは「犬の予防注射票交付数」である。頭数37万4,837、全国比7.6%で1位なのだとか。犬を飼えるぐらい裕福な家庭が多い、ということなのかな?
(県議会議員のアドレス)あり!(ちょっと意外)
(県民歌)あり。
歌詞には補作者・西條八十の手が入っている。

エントリーNO.26「静岡県民手帳」
表紙折り返しに横山大観の「群青富士」が描かれ、カレンダー部分には東海道の各名所写真がカラーで掲載されるなど、観光資源を目一杯活用した見やすい手帳だ。ただし、指標の部分には全国順位の記載がないのでちょっと残念。公式サイト「MYしずおか日本一」を設立したので、割愛したのだろう。これは楽しいサイトなので一見の価値はある。現在静岡県の日本一は244個あるのだそうだ。
(県議会議員のアドレス)(県民歌)ともに、あり。ただし議員は事務所住所が多い。

エントリーNO.27「岐阜県民手帳」
「全国からみた岐阜県の位置」が充実しているのだが、残念ながら1位は1つしかない。指標で全国1位になっているのは「副業的農家割合」71.6%である。他の職業で収入を確立しつつ、農業を継続している農家がそれだけいるということか。名産品や観光資源などについての言及がもう少し多かったら私好みの手帳でした。
(県議会議員のアドレス)(県民歌)ともに、あり。

エントリーNO.28「長野県民手帳」
はい、ここもお国自慢が素晴らしい県です。「統計で見る長野県の姿」のページにはたくさんの「1」の文字が躍っている。就業関連の指標では「就業率」(58.9%)「総農家数」(117,316戸)など。また生産の項では「レタス収穫量」(171,400t)をはじめとするさまざまな農作物が。長野が偉大な農業県であることを思い知らされる。それ以外のものでは「博物館数」が意外にも1位である。10万人当たり3.78館なのだそうだ。
しかし、この手帳の最大の特徴は県民歌「信濃の国」の扱いにあるといっていい。これまで見てきた手帳中で唯一カラー、しかも表紙折り返しという重要なページに廃してある長野県民がいかに「信濃の国」を愛しているかは、以前にも書いたのでここでは割愛。私はちなみにほとんどそらで歌えます。
(県会議員のアドレス)あり。

エントリーNO.29「山梨県民手帳」
おもしろいのはこの県も富士山押しになっているところで、反対側の静岡県よりも独占欲は強いといっていいようだ。当然のように日本一を紹介する「郷土自慢」のページにも「高い:富士山」の文字が記されている。その他のものでは「ミネラルウォーター出荷額」204億円「ぶどう収穫量」42,300tなどに並んで「もも光センサー糖度別選果機の導入」が平成元年度で日本一早いというのが目立っていた。そういう機械があるんだなー。あと「宝石美術専門学校」は宝石関係の公立学校としては日本唯一のものだそうです。
(県議会議員のアドレス)(県民歌)ともに、あり。

エントリーNO.30「福井県民手帳」
別冊になっている統計資料が非常に充実していてすばらしい。他県にはない「観光客入込状況」の表まで掲載されているのである。統計指標では「共働き世帯割合」が36.44%、「労働力人口比率(女)」が52.2%でともに全国1位になっているのが印象的である。女性の労働人口が多い県なんですね。「全国で上位を占める工業製品」のページも良いのだが、詳述している余裕がない。眼鏡が全国1位なのは有名だが(出荷額1,579百万円)、他にも「抵抗器」(出荷額32,672百万円)など多数あるのだ。「日本一」好きにはたまらない手帳だ、これ。
(県議会議員のアドレス)(県民歌)ともに、あり。

というわけで、ここで時間切れ。次回でいよいよ最終回です。
(続く)

(杉江松恋)
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