池井戸潤原作、役所広司主演の日曜劇場『陸王』。老舗の足袋屋が会社の存続を賭けてランニングシューズの世界に殴り込みをかけようと奮闘する物語だ。
先週放送された第3話の視聴率はグッと上がって15.0%。まだまだ尻上がりに上がっていく予感がする。

今週のミッションは山崎賢人問題


『陸王』は長編小説が原作だが、1話ずつ課題を設定し、そのエピソードの中で課題をクリアすることで視聴者は非常に高い満足度を得ることができるようになっている。脚本の八津弘幸の高い構成力のたまものだと思う。

第3話のファーストカットは宮沢(役所広司)の息子、大地(山崎賢人)のドアップ。山崎賢人ファンはたまらないだろう。これだけで「ああ、今回は大地の話なんだな」ということがわかる。非常に明快である。

今週のクリアすべきミッションは、第2話で陸王プロジェクトの一員となった飯山(寺尾聰)と一緒に「シルクレイ」を作り上げること、そして就活の失敗で腐っていた大地が働く喜びを知り、名実ともに陸王プロジェクトの一員となることだ。
「陸王」3話。腐っていた山崎賢人の目がついに輝いた。日曜の夜はこれを観て寝よう
イラスト/Morimori no moRi

飯山が運び込んできた「シルクレイ」を製造するための機械を見て、工学部卒の大地は関心を持ち、自然に手伝いをするようになる。飯山は「いい筋してるぜ」と認めているが、宮沢は大地のこれまでのいい加減な仕事ぶりに信用を置いていない。さりげなく大地をフォローするあけみさん(阿川佐和子)が今週もいい味出している。どうでもいいが、あけみさんがやる気や喜びを表すポーズが、ストーンコールド・スティーブ・オースティンのラトルスネークポーズと一緒。


父親からの不信を感じた大地はふて腐れるが、友人から聞いた「やりがいのない仕事を一生続けていくのは、もしかしたら就職できずにいる今より辛いことなのかもな」という言葉に心動かされる。関心のない会社に就職が決まるより、自分のやりたい仕事をやるしかないのではないか。足袋屋の仕事には関心が持てなかったが、「シルクレイ」の製造工程には関心がある。宮沢が大地に率直に詫びたこともあり、大地は晴れて飯山のアシスタントとして働くことになる。

ランニングシューズのソールにとって理想の硬度は「55~60」。「シルクレイ」をその硬さに調節しなければならない。これでクリアすべきミッションがはっきりした。大地は先週のやさぐれぶりがすっかり吹き飛んだ飯山とともに、昼夜を問わず作業に没頭する。

あなたは怒り狂う役所広司に至近距離で対峙できるか?


次の難関が資金だ。特許使用料、飯山への顧問料などなど、こはぜ屋にとっては多額の資金が必要になる。宮沢は埼玉中央銀行に乗り込み、第1話で対決した融資課長・大橋(馬場徹)と対峙する。相変わらずこの大橋が憎々しい。

「確実な実績」を求める大橋に対して、宮沢ができることはダイワ食品陸上部の茂木(竹内涼真)に陸王を履いてもらうことだけだ。
とはいえ、このミッションはすでに先週クリア済み。あとは宮沢と茂木の邂逅を待つのみである。

窮した宮沢はランニングインストラクターの有村(光石研)の智恵を借りにいくが、逆に「アトランティスを正々堂々と打ち破れ」と励まされる。そんな折、とある高校の教師(鳥居みゆき)から陸王の発注が1200足入る。「これは実績になる」と喜ぶこはぜ屋の一同だが、埼玉中央銀行の大橋は「雀の涙ですね」とにべもない。大橋の態度に業を煮やした宮沢は定期預金の解約を申し出る。途端にうろたえる大橋。これは坂本(風間俊介)の入れ智恵だった。個人名義の定期預金は会社への融資の担保とされていたが、同時に宮沢の老後のための資金でもある。それを投げ打つ覚悟が求められているのだ。このあたりの駆け引きは元銀行マンの池井戸ならでは。

ちなみに怒り狂う役所広司と至近距離でやりあう馬場徹は弱冠29歳。
小藪千豊がバラエティ番組で「役所さんが本読みで一声発しただけで、うーわ、と怖なる」と語っていたが、馬場の役者魂には敬服するしかない。あんな“圧”、自分なら絶対に耐えられない。

もう一つ余談だが、世界的なスポーツシューズメーカーのニューバランスも最初は陸王と同じく矯正靴の製造からスタートしている。アシックスの前身であるオニツカが販路を広げていったのは全国の高校の運動部だった。両社の歩みは、こはぜ屋と陸王のベースになっているのだ。

「何かから逃げ出して飲む酒は、不味いんだよ」


一方、飯山と大地は完全に行き詰まっていた。ありとあらゆる方法を試しても「シルクレイ」がソールに最適な硬度にならないのだ。ついに今時の若者らしく盛大にブチ切れる大地。これは社長の息子だから許される態度かもしれませんね……。

悲観的になり、ついに飯山の人間性を疑いはじめる大地。宮沢は大地を誘い、真夜中まで一人で「シルクレイ」製造に取り組む飯山のもとを訪れる。懸命に働く飯山を物陰から見つめる2人。宮沢は大地に静かに語りかける。


「あれが嘘をついた人間に見えるか? 少なくともこの1ヶ月、お前と飯山さんが必死にやってきた努力に、嘘偽りはなかったんじゃないのか?」

スポーツを怪我で挫折し、大学は卒業したものの就職活動は全敗、面接のたびに全否定されてきた大地にとって、成人してから自分の努力が実を結んだこと、誰かに認められたことはなかった。だが、ようやく自分の関心があることにめぐり合うことができて、一生懸命努力した。その努力の部分を父親が認めてくれた。あとはそれが実を結ぶまで踏ん張りきれるかどうかだ。今、自分は投げ出そうとしていた。また投げ出してしまうのか? 

転倒した飯山にあわてて駆け寄る大地。そこへ「♪Every day I listen to my heart ひとりじゃない~」と挿入歌「JUPITER」が流れはじめる。ベタ中のベタだが、初めて画面と「JUPITER」がマッチしたように感じた。

「お前、酒、飲んできたろ?」
「すみません。でも、もうすっかり覚めてるんで」
「美味くなかったろ? 何かから逃げ出して飲む酒は、不味いんだよ。俺も、長いことそうだったからな……」

胸にしみる……。たしかに締切から逃げ出して飲む酒は不味い。
言葉少なだが、飯山の言葉を素直に受け止めている表情を見せる山崎賢人が上手い。そして再び2人は働きはじめる。

『陸王』は日曜夜に最適化されたドラマ



安田(内村遙)の言葉にヒントを得て、煮繭(しゃけん)温度を変えることで硬度を調節することを思いつく飯山。そして微調整を重ねて……ついに成功! プロセスに説得力があるので、最後に成功したときのカタルシスがある。

はっきり言って、ラストに成功することは見え見えなのだが、それでも大地が初めて見せる「できた! できたぁぁ!」という歓喜の表情を見ると、こちらの気分も高揚する。どんより腐っていた山崎賢人の目がついに輝いた! 大喜びのこはぜ屋一同を見ると、会社っていいなぁ、と思わずにはいられない。これでビールの一杯でもひっかけて寝てしまえば、サラリーマンはまた明日からの仕事を頑張ろうと思うはず。つくづく『陸王』は日曜の夜に最適化されたドラマだ。

第4話ではようやく陸王を履いた茂木と、茂木に寄り添うカリスマシューフィッターの村野(市川右團次)の行動にスポットが当たる。アトランティス日本支社長の小原(ピエール瀧)と営業担当の佐山(小籔千豊)もこはぜ屋のライバルとして憎々しさを増してきそうだ。こはぜ屋と陸王の運命やいかに? 今夜9時から。

(大山くまお)


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