「悲しみが、繰り返される人がいる。
悔しさが、繰り返される人もいる。

それでも、生きている限り、明日はやってくる」


12月8日放送の金曜ドラマ『コウノドリ』第9話(TBS系列)。
流産を3回繰り返し「自分は“不育症”ではないか」と疑う女性・篠原沙月(野波麻帆)が登場。沙月、そしてペルソナの医者たちが、それぞれの明日を探した。

第9話 あらすじ


過去に2度の流産を経験している沙月。再び妊娠してサクラ(綾野剛)の診療を受けるも、エコーの結果、3度目の流産をしていることがわかった。沙月は「私、“不育症”ですか?」と自分の身体を疑い、検査を希望。助産師の小松(吉田羊)は、沙月の心を心配していた。

同じ頃、四宮(星野源)は入院した父・晃志郎(塩見三省)の見舞いのため、故郷・石川県能登に帰省。そこで、父親の代わりに緊急帝王切開を担当することになる。

サクラ「こんな近くに、世界一の味方がいる」


「コウノドリ」妊婦やお母さんを責めない、無理に謝罪させないドラマの矜持。今夜どうする「出生前診断」
TBS系金曜ドラマ『コウノドリ』公式ガイドブック (ヤマハミュージックメディア)

沙月「3回も流産するなんて、やっぱり……、私のせいですか?」
サクラ「それは違います。初期の流産は、ほとんどの場合お母さんが原因ではありません。偶然が重なって起きたんだと思います」
小松「篠原さん、流産してしまった人の中には『働いていたから』とか『重いものを持ち上げたから』とか、自分のせいにするお母さんが多いんだけど、そうじゃないんだよ」

『コウノドリ』を見ていると、妊娠・出産・育児に関して自分を責める女性の多さを改めて痛感する。
完璧な育児と仕事の両立ができないこと。
未熟児として産んでしまったこと。

病気を背負わせてしまったこと。
理想のお母さんでいられないこと。
上手に愛してあげられないこと。
産んであげられなかったこと。
家族や夫婦のもとに生まれてくる赤ちゃんなのに、どうしても母親たちは自分を追い込まずにはいられない。サクラや小松は母親たちをいつも励ましてくれるけれど、その声は、最初はなかなか届かない。


沙月もまた、流産が続くのは自分が「不育症」であるせいではないかと悩む。
不育症とは、妊娠はしても流産や死産、新生児死亡などを繰り返して、結果的にはこどもを持つことができない病態や症候群のこと。不育症でも、正しい検査と治療をおこなえば、約85%の女性が妊娠・出産することができる。

「不育症検査終わったよ。修ちゃんすごく不安」

メールを打った沙月だが、夫の修一(高橋光臣)に送らずに消してしまった。帰宅した修一に検査について聞かれても「普通」と答える。
こどもがいなくてもいいと励ます修一に「嬉しくない」と返事してしまう。

客観的には、修一はとても沙月を思いやっているように見える。きっと、「不安だ」と言えば寄り添ってくれただろう。
けれど、沙月は、こどもが大好きな修一に我が子を抱かせてあげられないことを申し訳なく感じている。自分のせいだと考えて、周りが見えなくなってしまっていた。いっぱいいっぱいの沙月は、修一をがっかりさせてしまったと思っただろうし、修一も本心では自分を責めているとすら感じていたかもしれない。
だから、頼れなかった。

自縄自縛の結果、隣にいる人を信じられなくてとげとげしい態度をとってしまうことは、悲しいしもどかしい。
サクラのアドバイスを聞き、修一は電子ピアノでBABYの楽曲を弾いて沙月に聴かせることを思いつく。鍵盤に音階のシールをたくさん貼っていたところを見ると、修一にとって初めての挑戦だったのだろう。拙い指でひとつひとつゆっくりと鍵盤を押す修一を見て、夫がずっと自分を励まそうとしてきてくれたことにようやく気づく。

そこで沙月に「今までとげとげした態度をとってきて、ごめんね」と言わせないのが、本作の優しいところ。
妊娠・出産・育児に悩む女性を責めず、必要以上に謝罪させない。ただでさえ妊婦やお母さんを責めすぎる世の中で、『コウノドリ』はどんな女性にとっても世界一の味方でいてくれるのだ。

今橋、晃志郎、年長者だから教えられること


今橋「僕は、ペルソナをいつ辞めてもいいと思っています」
小松「え?」
今橋「人の命を預かるには、精神的にも肉体的にも、そろそろ限界かなって。当直明けも堪えます。老眼鏡も手放せなくなりました。それでもここにいるのは、まだ必要とされているってことが嬉しくて、それがつらいと思うことより大きいんですよね。誰かのためじゃなくて、自分のためにここに居たいだけなんです」

9話では、シーズン1、2をとおして初めて今橋(大森南朋)の感情をはっきりと聞くことができた。
今橋はペルソナに長く勤め、周産期センター長として、自分の成長のために産科を離れた下屋(松岡茉優)やペルソナを離れる白川(坂口健太郎)を応援してきた。自分は若い2人のように外に出ていく勇気がなかったと言う。

四宮の父・晃志郎もまた、能登の病院を離れない。
代打で緊急帝王切開を担当した四宮は、設備や物資、人材の足りなさを憂いて(呆れて?)「父さん、よくここで医者続けてきたな」と言う。晃志郎の返事は「ここが、好きだからな」だった。

同じ場所でずっと働き続けている今橋や晃志郎を、白川や四宮はどこか侮っているようなところがあった。もっと良い設備、進んだ知識があれば、今よりたくさんの患者を助けることができるという意見は、医師として正しい。
だけど、医師として命を救うことは最重要事項でも、人として仕事を長く続けていくためには「自分のため」という側面を捨ててはいけない。「医療の現場で働いているのは人間」ということを、今橋と晃志郎が生き様で教えてくれた。

何も言わない四宮、サクラへの信頼


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金曜ドラマ『コウノドリ』主題歌 Uru「奇蹟」(ソニー・ミュージックレーベルズ)

晃志郎に「お前こそ、自分の患者放り投げてきたんだろう。すぐに帰れ」と言われても、四宮は答えなかった。ぐうの音も出なかったわけではない。大切な自分の患者を、サクラに託して来たからだ。
四宮は「放り投げていない。信頼できる仲間に任せて来たから大丈夫なんだ」などとは言わない。何も反論しないところが、かえって四宮からサクラへの信頼感を表していて良かった。

「生きている限り、明日はやってくる。
悲しみが、繰り返されてしまうときがある。
悔しさが、繰り返されてしまうときもある。
それでも、気づいてほしい。
今ある道を進むことで、光が見える。
だから怖がらないで。
人は必ず、誰かがそばにいて、誰かのそばにいる」


サクラのモノローグ。画面には沙月や下屋が映される。
だけど、晃志郎に何も言い返さない四宮の姿もまた、東京と能登で離れていても、サクラのそばに四宮がいて、四宮のそばにサクラがいるということを感じさせた。
離れていてもそばにいる。それは、サクラと四宮だけでなく、下屋、白川、小松、今橋にも言えること。視聴者としては、こんなに信頼し合っているチームのもとで出産できたら素敵だと思う。でもドラマの中では、彼らの信頼関係は患者にそこまで伝わっていない気もする。医師と患者の距離感、温度差までリアルに描かれている。

12月15日(金)よる10時から放送の第10話は、「出生前診断」を受ける2組の夫婦が登場する。障害や病気を抱えて産まれてくる赤ちゃんに、どう向き合っていくべきか。
第9話は、TBSオンデマンドAmazonビデオTVerで配信中だ。

(むらたえりか)

金曜ドラマ『コウノドリ』(TBS系列)
出演:綾野剛、松岡茉優、吉田羊、坂口健太郎、宮沢氷魚、松本若菜、星野源、大森南朋、ほか
原作:鈴ノ木ユウ『コウノドリ』(講談社「モーニング」連載)
脚本:坪田文、矢島弘一、吉田康弘
企画:鈴木早苗
プロデューサー:那須田淳、峠田浩
演出:土井裕泰、山本剛義、加藤尚樹
ピアノテーマ・監修・音楽:清塚信也
音楽:木村秀彬
主題歌:Uru「奇蹟」(ソニー・ミュージックレーベルズ)

11月18日発売 TBS系金曜ドラマ『コウノドリ』公式ガイドブック (ヤマハミュージックメディア)