8月10日放送『dele』(テレビ朝日系)。語りたい気持ちはあるのに、語るほど野暮になりそうで、口をつぐもうかとさえ思う第3話だった。


作家・高橋源一郎をゲストに起用


今回、ゲスト俳優として起用されたのは高橋源一郎。横浜国立大学在学中は学生運動に参加し、凶器準備集合罪で逮捕歴のある作家だ。また、4度の離婚歴と5度の結婚歴を持つ移り気な人でもある。

彼が今回演じたのは、さびれた街で写真館を営む老人・浦田文雄。「dele. LIFE」の事務所にやって来た浦田の依頼は、死後、削除する前にパソコンのデータをコピーし、バラの花と一緒に同じ街の住人・江角幸子(余貴美子)へ届けてほしいというもの。
数日後、浦田が海に飛び込んで自殺したことが判明した。
「dele」高橋源一郎のリアル、物語に殉じる菅田将暉と山田孝之が神回生んだ3話
イラスト/Morimori no moRi

公安のスパイを演じる高橋源一郎


6人の脚本家を擁し、異なる脚本家が週替りで各話を担当するのがこのドラマの特徴。アクションありの初回、親子関係を扱った2話。
そして、第3話はラブストーリーだった。

ネタバレしてしまうと、浦田はただの写真館店主ではなく、公安のスパイである。浦田の使命は、江角を監視すること。彼が使命を全うしたのは、なんと28年間。月3万円の報酬で、浦田は江角を見張り続けた。
そして、公安は監視を打ち切る。
公安に切られた浦田は江角が営む理容室を訪ね、「写真館を閉める」と告げた。お返しに、江角は浦田に勧めた。
「一度くらいは、うちで髪を切りませんか?」

浦田は、江角の客になることができなかった。理由は、江角が監視対象者だから。でも、もう監視は打ち切られた。浦田は江角に髪を切ってもらうことにした。


江角に対する監視は24時間体勢。28年もの長い月日、浦田は江角を盗聴し続けた。若き日から老いるにつれ、次第にゆっくりになっていく江角の口調。比例するように、浦田の顔つきは温かなものになる。監視の最中、浦田は明らかに私情を挟んでいた。江角を見守ることを楽しみにしているのだ。
対象者への恋心が芽生えてしまっている。
カップラーメンを食べながら江角を見張る浦田。すると、盗聴マイクを通じ江角の言葉が聴こえてきた。
「ダメよ、そんなものばかり食べてちゃ。ちゃんと栄養摂らないと。もう、若くないんだからねぇ(笑)。
いつまでも一人でいないで、お嫁さんもらえばぁ? フフ」
自分の状況とリンクし、照れ笑いがこぼれる浦田。すでに江角の存在は、浦田にとって生きる糧である。

江角は客と会話しながら、他の誰かに語りかけているような口調だ。彼女は、明らかに浦田に向けて言葉を発していた。お互い、それを知っている。浦田の監視は、そのまま、2人の密かな逢引だった。


浦田が写真館を閉めることを伝えに行った際、2人はこんな会話を交わしている。

江角 写真館さん。
浦田 その名前、今日までです。店、閉めることになりました。それで、飾らせていただいた写真を皆さんにお返ししています。
江角 そうですか……。

髭を剃られながら、浦田は江角に語りかけた。
「もう終わりにしました」
2人はお互いに片想いをしていた。両想いではなく、片想い同士だったのだ。

監視し監視されて想い合う2人


浦田の自殺は、江角への愛情だ。

43年前の恋愛を引きずり、江角は恋人である五島卓の逃亡資金を援助し続けていた。五島は過激派である。だから、公安は江角を監視した。

真柴祐太郎(菅田将暉)が江角の理容室へ行った際、江角は自らが住む街を卑下した。
「時間が止まったような街ですからね」
43年前からの恋愛に人生を捧げていた江角。そんな江角を監視し続けた浦田。みんな、過去に生きていた。時間が止まった街は、住民の人生を象徴している。孤独を背負う2人は、監視し監視されることでお互いを支え合っていた。

江角への監視を打ち切った公安。浦田は自害することで、時間を進めるよう江角に促した。だから、五島と待ち合わせしながら江角は通報したのだ。

監視の事実を祐太郎に告げられた江角は、浦田への想いを口にした。
「とっくに気付いてました、浦田さんのことは。何やってたんでしょうねえ、何十年も私。浦田さんは私が止めた時間にずっと寄り添っていてくれたんです。でも最後に、その時間を動かそうとしてあんなことに……。あの人の時間も、私が止めてしまったんですねえ」
江角は浦田に感謝してる。28年間、「監視されていた」のではなく「寄り添っていてくれた」と思っている。2人は“監視者”と“対象者”という関係性。好き合っていても恋愛関係にはなれない間柄。浦田が江角にできる愛情表現は、寄り添うことだけだった。

検索しないとわからない山田孝之の真意


坂上圭司(山田孝之)が、やっぱり今回も優しかった。

浦田から受けた依頼は「データとバラの花を江角に届けてほしい」。江角の理容室へ向かう途中、圭司と祐太郎は花屋でバラを購入する。

祐太郎 知ってた? バラって本数に意味があるんだって。
圭司 興味ないな。

公園で五島を待つ江角に、2人はデータとバラを渡しに行く。その時のバラは、圭司が自ら用意したものだった。もっと豪勢に渡せばいいものを、圭司が用意したバラはなぜか少ない。バラの少なさを責める祐太郎を制し、「いいから、さっさと行け」と促す圭司。祐太郎に持たせたのは、5本のバラだ。
バラは、本数に意味がある。祐太郎は「5本のバラ」を検索した。そこで、初めて圭司の真意が判明した。

祐太郎 おーっ! 「5本のバラ」って、こういう意味だったんだ。えーっ! ケイって、意外とロマンチストなんだね(笑)。
圭司 うるさい。

「興味ない」なんて一蹴しといて、バラの本数についてしっかりリサーチしていた圭司。バラをあえて5本にしたのには、ちゃんと理由がある。

劇中で「5本のバラ」の意味は明かされず、そのまま第3話は終了した。果たして、「5本のバラ」にはどんな意味が含まれているのだろう?
検索した筆者は、圭司の意図を知って撃沈した。浦田が江角に贈るバラは、5本以外に考えられない。浦田の想いを汲み「寂しい人生ではなかった」と江角へ伝えるために、圭司は「5本のバラ」を選んだのだ。

筆者はもちろん、多くの視聴者は「5本のバラ」を検索している。その意味は、本稿では明かさない。もし未検索の人がいるならば、是非ご自身でググっていただきたいと思う。

主人公である祐太郎と圭司が脇に回り、依頼人の人生をきっちり描き切るのがこのドラマ。2人は、必ず狂言回しに徹する。主人公のために依頼人がいるのではなく、依頼人の人生を2人が際立たせている。そこが、本当に素晴らしい。

第3話のことを忘れない


第3話の挿入歌には、マーラー交響曲第5番「アダージェット」が選ばれた。“運命の女性”と出会ったマーラーが恋心を表した楽曲である。

加えて、江角と五島の待ち合わせ場所を突き止めるキーワード「百万本のバラ」にも意味がある。これは、加藤登紀子が歌っていた曲。加藤の夫・藤本敏夫は、学生運動の指導者だ(加藤と藤本は獄中結婚で夫婦になった)。加えて、「百万本のバラ」のB面曲は「海辺の旅」である。浦田は公安に切られ、海に飛び込み自殺している。
わかる人にはわかる形で、多くのことがリンクしていた。

このドラマには、傑作の予感がする。1話も2話も、もちろん良かった。でも、今回の第3話の完成度は圧倒的だ。こういうのを「神回」と言う。『dele』第3話のことを、私はこの先もずっと覚えていると思う。
(寺西ジャジューカ)

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金曜ナイトドラマ『dele』
原案・パイロット脚本:本多孝好
脚本:本多孝好、金城一紀、瀧本智行、青島武、渡辺雄介、徳永富彦
音楽:岩崎太整、DJ MITSU THE BEATS
ゼネラルプロデューサー:黒田徹也(テレビ朝日)
プロデューサー:山田兼司(テレビ朝日)、太田雅晴(5年D組)
監督:常廣丈太(テレビ朝日)、瀧本智行
撮影:今村圭佑、榊原直記
制作協力:5年D組
制作著作:テレビ朝日