「もう一回いいですか」
「黒岩くん、落ち着いて」
「誰が何を言おうと関係ない。僕、先生が好きです」

10月30日(火)放送の火曜ドラマ『中学聖日記』(TBS系)第4話。

聖(有村架純)は、教師である自分を慕ってくる生徒・晶(岡田健史)と距離を置こうとしていた。しかし、るな(小野莉奈)から聖の携帯電話の番号を教えてもらった晶から「花火大会の日、会いたいです。」と連絡が来る。花火大会の夜、浜辺で鉢合わせた聖と晶。話をしているうちに、晶が聖にキスをした。
「中学聖日記」有村架純と岡田健史の美しいキス美しくない恋愛4話。圧倒的予告動画再生数の意味するもの
イラスト/まつもとりえこ

ズルくなる晶と誰も幸せにならない恋愛


大人になるとは、曖昧なものを受け入れたりズルい駆け引きができるようになったりすることなのだろうか。晶は、聖を好きになってから少しずつズルいやり方を覚えている。

るなが自分の母親の携帯電話から、聖の携帯電話の番号をメモして晶に見せた。
晶が一緒に花火大会に行くならば、聖の電話番号を教えるという。
「どうする? ちなみに浴衣ね!」
次のシーン、晶はそのメモを持って自分の部屋にいた。るなの条件を飲んだのだ。

「花火大会の日、会いたいです。」
「花火が終わる頃。天野崎神社で待ってます。」

そんなメッセージを、晶は聖に送る。でも、聖はメッセージを削除し、晶の番号を着信拒否。
体育祭で晶にもらったハチマキをゴミ袋に入れ、忘れようとしていた。
しかし、花火大会の夜に、浜辺で汚れた靴をすすいでいた聖と待ちぼうけを食らっていた晶が鉢合わせる。

「今日会いたかったのは、聞きたかったことがあって。先生は、僕のことどう思っているんですか。ちゃんと先生の口から聞きたくて。どう思ってますか」

本当の気持ちを聞きたいというまっすぐな問いかけに、聖は「私、結婚するの」と返す。
答えになっていない。本音を話してもらえないことに苛立ってきた晶は、条件を出す。

「じゃあ、今日だけ僕と一緒にいてください。それで僕、先生のこと諦めます」

相手に何かしてほしいことがあるとき、条件を出してそれを飲ませること。るなが晶に対しておこなった方法で、晶は聖に言うことを聞いてもらおうとした。「好きになっちゃいました」、「会いたいです」、「僕のことどう思っているんですか」と、これまで気持ちをまっすぐにぶつけ続けてきた晶が、ズルい技を使おうとした。


るなは、恋をして晶に振り向いてほしいと思ったばかりに、大人に嘘をついたり晶に交換条件を出したりしてズルくなっている。自己嫌悪をしていると言っていた。そんなるなのことを、晶は「えらくて強い」と言う。
どうやって恋を進めたらいいかわからない晶が、自分と同じく相手に執着して「気持ち悪」くなっているるなをお手本にする。誰もハッピーにならない。

これに限らず、『中学聖日記』で描かれる恋愛はとことん誰も幸せにしない。
みんなが憧れている恋愛って、本当にキラキラしていてすばらしいものなんですか? と、疑いの目を向けてくる。

『中学聖日記』、圧倒的な予告動画再生回数


晶を見ていると、恋をするとは人を「特別な人」と「そうじゃない人」とで差別化することなのだと改めて思う。
自分を好いてくれているるなに対して、晶は「傷つけてたらごめん」と言っておきながら、自分の聖への思いを吐露した。

「俺、先生に好きだって言った。でも全然相手にされなくて、色々みんなにも言われて。俺はただ、先生と一緒に楽しくなったり優しくしたりしたいだけなのに」

こんなこと言ったら絶対に傷つけるでしょ! とツッコみたくなることを、平気で言う。
るなが怒りのあまり晶の頬にキスをしたが、晶はキスされた頬を目の前ですぐに拭った。こら! そんな汚いものみたいに扱ったら、相手が傷つくでしょ……!

晶にとっては聖だけが特別で大切で(もっと言うと、聖を好きな自分の気持ちが大切で)、他の人の気持ちなんて考えている余白がない。
自分の希望を叶えるためにズルい人間になってしまうこと。大切な人とそうじゃない人の扱いに差をつけること。自分勝手になってしまうこと。まっすぐな恋心も、行動に移してしまうと人を傷つける。

「なんで先生を好きになっちゃいけないんだよ」と、晶は言っていた。先生を好きになるのは内心の自由だ。でも、それをどんな風に表現しなければいけないのかを、晶は知らなかった。

ハッピーエンドが想像できないし、恋愛のすばらしい部分も描かれない『中学聖日記』。第4話の視聴率は5.4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。決して良いとは言えない。

しかし、YouTubeの予告動画再生回数を見てみよう。
同じTBS系の大人気ドラマ『下町ロケット』第4話の予告動画が約4万3千回、『大恋愛?僕を忘れる君と』第5話の予告動画が約22万4千回。対して『中学聖日記』第5話の予告動画の再生回数は69万2千回だ。(11月5日現在。すべて最新話の予告)

この圧倒的な再生回数の多さには、視聴率だけでは測れない人々の興味関心が向けられている可能性を考えてしまう。

本作は、何か問題が解決してスカッとするようなストーリーではない。恋愛のすばらしい面も描かれず、登場人物全員がただただモヤモヤとしている。一言で「ここが面白い!」と人に薦めにくいドラマかもしれない。
でも、そういうわかりやすくないものや人のズルさ、美しくなさが排除されないこと。興味を持っている人がいることに、少し安心も感じる。

晶に手を引かれて帰宅した聖の前に、婚約者の勝太郎(町田啓太)、晶の母親が現れた。「終わるよ、聖」という千鶴(友近)の言葉が、現実になってしまった。
終わった二人が、それぞれどんな道に進んでいくのか。第5話は、今夜10時から放送。
(むらたえりか)

▽配信サイト
Amazonプライムビデオ(TBSオンデマンド)
Paravi

火曜ドラマ『中学聖日記』
TBS系にて、10月9日(火)スタート 毎週火曜よる10時から放送
出演:有村架純、岡田健史、町田啓太(劇団EXILE)、マキタスポーツ、夏木マリ、友近、吉田羊、夏川結衣、中山咲月
原作:かわかみじゅんこ『中学聖日記』(フィールコミックス/祥伝社)
脚本:金子ありさ
演出:塚原あゆ子、竹村謙太郎、坪井敏雄
主題歌:Uru「プロローグ」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
製作:ドリマックス・テレビジョン、TBS
(c)TBS
公式サイト:http://www.tbs.co.jp/chugakuseinikki_tbs/