高橋一生主演のドラマ「僕らは奇跡でできている」。変わり者でマイペースな動物行動学者・相河一輝(高橋一生)と彼をとりまく人々の姿を描く。
脚本は『僕の生きる道』シリーズの橋部敦子。

先週放送の第8話は、住み込みで働いている家政婦・山田さん(戸田恵子)と一輝との関係に焦点を当てた話だった。つまるところ、家族の話だ。
高橋一生「僕らは奇跡でできている」母親でも家政婦でもなく山田さんは山田さん。みんな凄いみんな奇跡8話
イラスト/Morimori no moRi

相談の乗ってくれる頼れるおじさんたち


「僕は山田さんから生まれたんですよね」

一輝の結婚式を妄想してウキウキしている山田さんに、冷水を浴びせるように言った一輝の言葉をきっかけに、ふたりの関係はギクシャクしていく。

山田さんは本当に一輝の生みの親だった。一輝は15年前の大学生のとき、パスポートをつくるために見た戸籍で真実を知ったのだ。

一輝は大学教授の鮫島(小林薫)に、山田さんは一輝の祖父の義高(田中泯)に相談する。
こうやって頼りになる人が近くにいるのっていい。

「もう二度と、私のごはんは食べないんでしょうか」

寂しそうに呟く山田さん。一輝は「山田さんのごはんでできている」とまで言われていたのに! その後、山田さんは鮫島にも相談を持ちかける。

「どうしたらいいかわからないんです。本当のことを言うべきかどうか」
「どっちでも一緒なんじゃないかな。本当のことを言っても言わなくても、うまくいかないと思いますよ」
「どうしてですか」
「だって山田さん、信じてないじゃない。
自分のことも、一輝のことも」

すべては「それだけのことだよ」


意を決した山田さんは真実を打ち明ける。結婚した山田さんは一輝を妊娠、出産したが、人と同じことができない一輝の子育てに悩み、自分はダメな母親だと思いこんでいた。一輝が3歳のときに父親が亡くなり、その思いはさらに強くなる。育児ノイローゼだ。そして一輝が4歳のとき、山田さんは家を出てしまった。

「取り返しのつかないことをしてしまった」と後悔の日々を送る中、11年後、こっそり一輝の運動会を見に行ったときに義高と偶然出会う。義高に促される形で、山田さんは家政婦として相河家に帰ってきた。
そして日々、一輝の身の回りの世話をし続けてきたのだ。

一輝は山田さんの告白を受け止めるが、何も言わずに部屋へと消える。翌日、義高のもとを訪れた一輝は思っていることを素直に尋ねる。

「どうして11年後に戻ってきたのかな?」
「11年だからだよ」
「どういう意味?」
「一輝とまた一緒に暮らすために必要な時間が11年だった。それだけのことだよ」

義高にとってはすべてが「それだけのことだよ」なのかもしれない。すべての出来事、存在をあるがままに前向きに肯定し、受け入れる。
言いかえれば「これでいいのだ」。

育児に苦しむ山田さんにお金を渡して数日休むように告げたのも義高だった。義高が渡したのは2万円。もしこれが1万円だったら、5000円だったら、その後の一輝と山田さんの運命は変わっていたかもしれない。でも、渡したのは2万円だった。それだけのことなのだ。


義高は家を出てしまった彼女を恨むこともなく一輝を育て上げ、帰ってきた山田さんを受け入れて、今でもふたりの良き相談役になっている。なんかもう神様みたい。

僕もあなたもみんな「奇跡」


一輝は山田さんと向き合って、急にイヌとネコの生物学的な分類の話を始める。イヌはネコ目(もく)で、ネコもネコ目。非常にややこしい。

「でも、よく考えたらどちらも肉食で、共通の祖先から枝分かれした生き物なんです。で、この分類上の呼び方はまったく重要ではありません。
つまり、家政婦か母親かもまったく重要ではないってことです。重要なのは山田さんが存在していることです。山田さんがいなかったら僕は存在してません」

一輝は自分が存在している確率を計算しようとしたが不可能だったと言う。精子だけで2億分の1の確率だというのに、山田さんが女に生まれる確率、山田さんがお父さんと出会う確率、山田さんが出産まで生きている確率、山田さんのお母さんがお父さんと出会う確率……。

「とにかく先祖代々奇跡的なことが起こり続けてきたから僕が存在しているわけです。それってすごいです」

これでドラマのタイトルの伏線回収! 一輝の言葉はまだ続く。

「生まれただけでもすごいのに。この世界にはすごいことがたくさんあります。僕がまだ知らないこともたくさんあります。すごいです」

「すごい」という表現で、一輝は世界をまるごと肯定している。変わった人も、変わった生き物も、自分を捨てた母親も、他人と同じことができなかった自分も、すべて。そりゃ葛藤もあっただろう。自分のことは大嫌いだったし、自分を捨てた母親のことを思って涙した日もあったはずだ。でも、それを乗り越えてみせた。「奇跡」も「すごい」も胡散臭い言葉かもしれないけど、そうとでも言わなきゃやってられないような現実がある。

僕らはごはんでできている


「山田さんから生まれてきて良かったです。山田さんありがとうございます」

ポイントは、一輝が山田さんのことを肯定したのに最後まで「お母さん」と呼ばないことだと思う。一輝は「母親」や「家政婦さん」という肩書を使わない。そういえば、虹一(川口和空)とこんな会話をしていた。

「家政婦さんも家族なの?」
「山田さんも家族だよ」

一輝は山田さんのことを「家政婦さん」と肩書で呼んだことはなかったはず。第三者に対しても必ず「山田さん」と言っていた。彼にとって、山田さんは山田さんなのだ。そういうところも行き届いた脚本だと思う。

山田さんは一輝の生物学的な母親である。それに加えて、山田さんは一輝の食事を朝昼晩と欠かさず20年にわたって作り続けてきた。山田さんを演じる戸田恵子は、インタビューでこんなことを語っている。

「今回特別な設定だなと思ったのが、ああやって一緒にご飯を食べるという、家族化しているということですね。寝食を共にしてすべてを見られている状態の他人が家にいるという…だから、一輝さんにとってはもはや他人というくくりではないと思うんですよね」(ダ・ヴィンチニュース 11月2日)

一輝と山田さんが実の親子である設定を隠した状態で話している内容だが、ふたりは一緒にごはんを食べることで「家族化」したという。それを表すためか、第8話は食事のシーンがとりわけ多かった。ぎこちない朝食で始まり、母親にまつわるトラウマのタコさえ克服した和やかな夕食で終わる。第7話で虹一と母親の涼子(松本若菜)の和解の象徴として登場したのも夕食のシチューだった。

母親と子という肩書だけでは家族にはならない。子を生むこと自体が奇跡なのかもしれないけど、食事をつくって一緒に食べるという日々の営為を積み重ねることで、人と人とは家族になり、お互いが存在するという奇跡を実感するのだろう。

本日放送の第9話では、恋人との関係を清算した育実(榮倉奈々)と一輝との関係に進展が? 今夜9時から。
(大山くまお)

「僕らは奇跡でできている」
火曜21:00~21:54 カンテレ・フジテレビ系
キャスト:高橋一生、榮倉奈々、要潤、児嶋一哉、田中泯、戸田恵子、小林薫
脚本:橋部敦子
音楽:兼松衆、田渕夏海、中村巴奈重、櫻井美希
演出:河野圭太(共同テレビ)、星野和成(メディアミックス・ジャパン)
主題歌:SUPER BEVER「予感」
プロデューサー:豊福陽子(カンテレ)、千葉行利(ケイファクトリー)、宮川晶(ケイファクトリー)
制作協力:ケイファクトリー
制作著作:カンテレ