「魚釣って、ここで食うんですか?」
「うん、そうなの。釣りよりも食べるのが目的」
「釣れなかったら?」
「えー、何も考えてない」

三浦貴大、夏帆主演のドラマ25「ひとりキャンプで食って寝る」(テレビ東京・金曜深夜0時52分~)。
ゆるい「ソロキャンプ」をテーマにした、趣味ドラマだ。

奇数話は缶詰マニアの三浦貴大が主役を務め、偶数話はワイルドに食べ物を獲る夏帆が主役を務める変則的な構成。先週放送された第6話は、夏帆演じる七子がメジナ釣りに挑戦する。

冒頭の会話は、磯で出会った中学生・宗太(青山和也)と七子の会話。七子の性格がよく表れているセリフだと思う。
メジナ釣りに挑戦夏帆「ひとりキャンプで食って寝る」新しい経験に躊躇しない女子、過去を引きずる男子6話
イラスト/まつもとりえこ

対照的な缶詰男子と狩猟女子


プロの釣り師・久保野孝太郎の動画に感化されたらしい七子は、メジナを釣るために釣具店を訪れる。ちなみに久保野氏は実在の磯釣り師で、七子が見ていたものとそっくりのメジナ攻略動画をYouTubeにいくつもアップしている。


釣り道具一式を揃え、キャンプ道具を背負って海へ向かう七子。七子は新しい知識を仕入れ、新しい道具を手に入れ、実際に行動に移すことに躊躇がない。彼女の関心はいつもどんどん外に向かっている。失敗も恐れてない。「えー、何も考えてない」の精神だ。

同じソロキャンプ愛好家でも、三浦貴大演じる健人と七子は対照的に見える。


テントや缶詰のような密閉された小宇宙を愛する健人、オープンエアで釣りやキノコ狩りをするのがたまらなく好きな七子。誰かとコミュニケーションをとるときも、巻き込まれるような形が多い健人に対して、七子は自分から積極的に声をかけていく。

健人が別れた恋人との過去を引きずっているのに対して、あっけらかんと新しい経験に向かっていく七子のマインドも正反対に見える。

これを「女」と「男」の違いだと言うつもりはないが、製作者側はどこか意識しているような気がしてならない。

関係ないが、小気味良い釣具店員を演じていた杉山ひこひこは、俳優業をしながら世田谷区経堂で古道具店「コント」を経営している(週末のみ営業)。

デカい広告より地道な営業


三浦半島の城ヶ島でメジナ釣りに挑戦する七子だが、なかなかお目当てのメジナを釣ることができない。
ちなみにメジナは癖のない淡白な白身で、刺身、たたき、カルパッチョ、焼き魚、西京漬、煮付け、唐揚げ、鍋料理など様々な食べ方ができるのだという(ウィキペディアより)。これは七子ならずとも釣りたくなる魚だ。

磯で中学生の宗太と出会った七子は、彼がやっている蟹の「ひっこくり」に興味を持つ。「ひっこくり」とは伊豆地方に伝わる伝統的な漁法で、竿の先に簡単な仕掛けをつけて蟹をつかまえるもの。

詳しくは「獲って食べる監修」を務めているライターの玉置標本氏が書いた記事「カニを『ひっこくり』で捕まえたい」(デイリーポータルZ)をご覧ください。ドラマで使っている仕掛けは、玉置氏が愛用しているものなのだとか。


撒き餌を使ってアタリを待つメジナ釣りと、蟹の穴を自分で探しながら獲る「ひっこくり」を比べた七子の言葉が可笑しい。

「デカい広告打って寄ってくる客を偉そうに待つんじゃなくてさ、一軒一軒、『ピンポーン、どうですか? 新しい保険いかがですか?』って、どんなに断られても地道に訪ねていくのとおんなじだ!」

七子は、デカい広告を打って偉そうに待つより、自分の足で稼ぐ営業のほうが性に合うのだろう。

結局、七子はメジナを釣ることができず、ゲットできたのは蟹だけだった。七子は蟹の味噌汁をつくってズズッとすする。ものすごく満足そうだ。

最初の目的が果たせなかったからといって、不幸なんかじゃない。
釣れなかったメジナじゃなくて、自分で獲ったカニで十分。彼女にとって幸せは自分でたぐり寄せるものなのだろう。そんな七子の行動とスピリッツが気持ちいい。

本日放送の第7話は缶詰男子の健人がひとりキャンプ好きの女子とキャンプデート! ちょっとうらやましすぎるんですけど……。今夜0時52分から。
(大山くまお)

作品情報
ドラマ25「ひとりキャンプで食って寝る」
監督:横浜聡子(奇数話)、冨永昌敬(偶数話)
脚本:冨永昌敬、保坂大輔、飯塚花笑
音楽:荘子it(Dos Monos)
出演:三浦貴大、夏帆
主題歌:Yogee New Waves「to the moon」
プロデューサー:大和健太郎、滝山直史、横山蘭平
制作:テレビ東京、東京テアトル
※動画配信サービスひかりTV、Paraviで放送1週間前から先行配信
※放送後にTVerで配信中