太めのおばちゃん2人が大活躍『サンダーフォース ~正義のスーパーヒロインズ~』<Netflix>
(C)Netflix

太めのおばちゃん2人が大活躍『サンダーフォース ~正義のスーパーヒロインズ~』

純粋な悪ふざけと政治的配慮の両立。ちょっと考えただけでも高難易度であることがわかるこの課題を、『サンダーフォース ~正義のスーパーヒロインズ~』は軽やかにクリアした。軽いコメディとしても、異色のスーパーヒーロー映画としても楽しめる、高水準な作品である。


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スーパーヴィランをシバくべく、おばちゃん超人2人組が立ち上がる!

1983年、地球は超強力な宇宙線にさらされた。その結果、反社会的傾向を持つ一部の人間のみにスーパーパワーがもたらされ、彼らはあらゆる場所でそのパワーを悪用。スーパーパワーを用いて悪事を働く彼らは、「ミスクリアン(悪漢)」と呼ばれた。

1988年のシカゴ、両親をミスクリアンの襲撃で失った黒人の少女エミリーは、いじめから助けられたことでガキ大将気質の少女リディアと友達になる。2人はそのまま友人として成長するが、大学生のときのトラブルが原因で絶交状態に。エミリーは人間にスーパーパワーを与える薬剤の研究に没頭。一方のリディアはコンテナ運搬の仕事で稼ぐ、ガテン系の道を選択。
気づけば2人とも中年に。

太めのおばちゃん2人が大活躍『サンダーフォース ~正義のスーパーヒロインズ~』<Netflix>
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そして現在、2人の通っていたハイスクールの同窓会が開催される。リディアはエミリーを誘ってみるも、会場にエミリーは現れない。業を煮やしたリディアは、勝手にエミリーの研究所に押しかける。そこには研究を手伝うエミリーの娘、そして立派な中年になったエミリー本人が。久しぶりにエミリーに再開したリディアは、自分の悪ふざけが原因でエミリーが研究していた超人パワーを打ち込んでしまう。


なし崩し的に超人的怪力を手に入れてしまったリディアは、自身も体を透明化する能力を手に入れたエミリーとともに力を正義のために使うことを決意。ヒーローチーム「サンダーフォース」として、街の犯罪にドタバタと立ち向かう。一方、市長選が近づくシカゴでは、選挙を巡ってある陰謀が巡らされようとしていた……。

太めのおばちゃん2人が大活躍『サンダーフォース ~正義のスーパーヒロインズ~』<Netflix>
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太めのおばちゃん2人が大活躍『サンダーフォース ~正義のスーパーヒロインズ~』<Netflix>
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主演はメリッサ・マッカーシーオクタヴィア・スペンサー。「とりあえずこの人が出演していたら面白い」というレベルの芸達者2人が、パツパツのスーツを着てスーパーヒーローになるんだから、もうこの時点で勝ち確定、見る前から安心と信頼を保証してくれる組み合わせである。脇を固めるジェイソン・ベイトマン(今回は両腕がカニの爪になっている「クラブ」という悪役として登場する)もコメディ作品の常連。
盤石の布陣である。

というわけで、おばちゃん二人組がスーパーヒロインチームとしてシカゴのために大活躍! スポーツカーで出撃しようとするも座席が狭すぎて車に乗るのも出るのも一苦労、コスチュームを着れば洗濯できる素材かどうかが頭をよぎる。そもそも、現状「太ったおばちゃん」はスーパーヒーロー映画の主役から最も遠い存在である。そこを逆手にとってのギャグの連打は安定感抜群。破天荒すぎるガテン系おばちゃんのリディアとインテリで真面目なツッコミ役のエミリーのやりとりも楽しいが、リディアとクラブが鶏肉を巡って意気投合するシーンも凄まじい(意味がわからないと思うので、もうこれは本編を見てもらうしかない)。週末にビールでも飲みながら見るのに最適である。


太めのおばちゃん2人が大活躍『サンダーフォース ~正義のスーパーヒロインズ~』<Netflix>
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政治的配慮と悪ふざけの両立に成功した一本

『サンダーフォース』で感心するのは、政治的に正しいコメディでもこれだけ面白く、しかもタチが悪い笑いを作ることができるという点だ。そもそも太めの中年女性2人組のヒーローチーム(しかも片方は黒人女性)という配役の時点で「今時の映画だなあ」という感じもするが、『サンダーフォース』はそれ以外にもいろいろと配慮が感じられるポイントがある。

太めのおばちゃん2人が大活躍『サンダーフォース ~正義のスーパーヒロインズ~』<Netflix>
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例えば、シカゴ市長選の一方の候補者として登場するレイチェル・ゴンザレス議員は、名前の通りヒスパニック系の若い女性議員。おそらくモデルは、同じくヒスパニック系の議員として注目を集めるアレクサンドリア・オカシオ=コルテスである。同性婚に理解があるエミリーの祖母を登場させつつ、あくまで主人公2人は異性愛者として描くところなど、2021年のコメディ映画として抜群のバランス感覚だと思う。

だがその一方で、本作のギャグはけっこう過激である。メタルバンドのTシャツを着てフォークリフトに乗り、シリアルに酒をぶっかけて食うリディアは、もう立って歩いているだけですでに面白い。
キレて部下をシメるザ・キングやカニ爪ギャグ(多分この映画にしかない要素だと思う)をひたすら繰り返すクラブなど、ほぼ悪趣味スレスレのシーンも多い。アクの強いコメディとしての魅力も十分なのである。

太めのおばちゃん2人が大活躍『サンダーフォース ~正義のスーパーヒロインズ~』<Netflix>
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正直な話、キツめのコメディ映画と政治的配慮の相性はよくないと思っていた。コメディは悪ふざけしてくれないと面白くならないのに、政治的な配慮は「配慮がある」というポイントが見えた時点で真面目な匂いが漂ってしまう。根が真面目だとわかっている人の言う、真面目なジョークで笑うのは難しい。そんな難しさを感じる作品も、Netflixオリジナル作品で見たことがある。


しかし、『サンダーフォース』は普通にタチが悪い、純粋な悪ふざけのパワーを獲得している。にも関わらず、大筋では弱者を笑い者にしたり、差別的な要素がない。「ポリコレで悪趣味なジョークを題材にした映画は作れなくなった」という意見に対する反証として、十分に機能する内容だと思う。このバランス感覚は、政治的配慮が問題となる中でひたすら脚本を書き映画を仕上げてきた、アメリカの映画関係者が積んだ功夫の厚みや手応えを感じさせるものである。「誰も傷つけない」だけではなく、ちゃんと悪趣味で面白いというところにまで到達したのは、シンプルにすごいことだと思う。

というわけで、『サンダーフォース』は現在のアメリカ製コメディ映画の水準を我々に教えてくれる、ベンチマークのような作品となっている。「最近の映画はポリコレでつまらなくなったのではないか」と感じている人にこそ、ぜひとも観てほしい一本だ。

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作品情報

『サンダーフォース ~正義のスーパーヒロインズ~』

太めのおばちゃん2人が大活躍『サンダーフォース ~正義のスーパーヒロインズ~』<Netflix>

4月9日(金)よりNetflixで配信中
配信ページ:https://www.netflix.com/jp/title/81079259

出演 メリッサ・マッカーシー、オクタヴィア・スペンサー、ジェイソン・ベイトマン、ボビー・カナヴェイル、ポム・クレメンティエフ、メリッサ・レオ、テイラー・モスビー、マーセラ・ロウリー、メリッサ・ポンツィオ

<ストーリー>
オクタヴィア・スペンサーとメリッサ・マッカーシー共演の話題作はぶっ飛びスーパーヒーローコメディ。街を悪の手から守るため、親友だった二人が再会する。

2021年/1時間 47分


Writer

しげる


ライター。岐阜県出身。元模型誌編集部勤務で現在フリー。月刊「ホビージャパン」にて「しげるのアメトイブームの話聞かせてよ!」、「ホビージャパンエクストラ」にて「しげるの代々木二丁目シネマ」連載中。プラモデル、ミリタリー、オモチャ、映画、アメコミ、鉄砲がたくさん出てくる小説などを愛好しています。

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@gerusea