
あらためて辞書で「秘湯」をひいてみると、「人にあまり知られていない温泉」(三省堂『大辞林第二版』)とある。しかし最近では、雑誌やテレビでたびたび紹介されている「秘湯」。その時点で「人にあまり知られていない」温泉ではなくなっているような……。
そこで日本秘湯を守る会の事務局の方に話を聞いてみると、
「秘湯というと山奥の一軒宿などを思い浮かべる方は多いかもしれませんね。しかし当会では秘湯という言葉の定義はとくに定めていません」
そしてもちろん、同会の会員宿だけを秘湯と認めているわけでもないという。
日本秘湯を守る会は昭和50年4月に、33軒の温泉宿が集まって発足。
「もともと旅行会社などが扱わないような小さな山の温泉宿が集まって、一緒に宣伝や誘客をしていこうという目的でつくられたんですよ」
あれ、それってイメージ通りの秘湯では?
「いえ、たとえば当時は不便な場所だったけれど、いまは交通の便がよくなったところもあります。また周りの開発が進んで当時と雰囲気が違う場所もあります」
だからといって、同会の加入資格がなくなるわけでもないらしい。
現在、日本秘湯を守る会に加入している温泉宿は全国で189軒。審査にとおれば、新たに入会することも可能だが、驚くことにこの会には明確な加入条件がない。
「宿を取り巻く自然環境、温泉環境なども重要ですが、単にこれらをクリアすればOKというわけではありません。
同会では温泉や自然に対する愛情や考え方などを重視。それゆえに会って話しながら見極める部分も多く、明文化できるものではないという。
これだけ情報が氾濫している現代において、本当に人知れぬ宿というのはごくわずか。結局、秘湯かどうかの判断は個人のイメージによるところが大きい。そうした時代にあって、同会の理念に同調するような温泉宿は、古くからの日本の温泉のよさをいつまでも残し続ける「秘湯」のひとつの姿なのだろう。――あなたにとっての秘湯はどこですか?
(古屋江美子)
・「日本秘湯を守る会」公式Webサイト