南インド料理店「エリックサウス」総料理長で飲食店プロデューサーの稲田俊輔さんが、上柳昌彦アナウンサーがパーソナリティを務める、ラジオ番組「上柳昌彦 あさぼらけ」内コーナー『食は生きる力 今朝も元気にいただきます』(ニッポン放送 毎週月・金曜 朝5時25分頃)にゲスト出演。『現代調理道具論 おいしさ・美しさ・楽しさを最大化する』(講談社)の著者でもある稲田さんに、テフロンのフライパンやせいろ、シリコンスチーマー、低圧力鍋など、身近な調理道具の魅力と活用法について聞いた。
南インド料理は「テフロンのフライパン」で簡単に作れる
上柳:稲田さんは料理人で飲食店プロデューサー、そして東京・名古屋・岐阜・大阪で13店舗展開する南インド料理店「エリックサウス」の総料理長、さらに本も出版されていますが、元々は大手飲料メーカーで4年間ほどサラリーマンをされていたのですよね。
稲田さん:よく、変わった経歴だと言われます。
上柳:最初は会社員をされていたこともあって、稲田さんが「料理人の皆さんって圧力鍋を使わないんですか?」と聞いたら、お店の方に「君は何を言っているんだ?」と言われてしまったそうですね。どうやら飲食店では、家庭で使っているような圧力鍋やテフロンのフライパン、さらに電子レンジもあまり使わないのだとか。
稲田さん:そういう物は家庭の主婦が使うものであり、プロの料理人は使わない、プライドが許さない、というような考え方が根強くあるようです。
でも実は、陰でこっそり使っているんですよ。ただ、使っていることをお客さんに知られないよう、隠し通していました。テフロン加工のフライパンなんて、本当に便利なものなんですけどね。
上柳:そのテフロンのフライパンを使うと、南インド料理がかなり簡単にできるそうですね。
稲田さん:はい。しかも、20センチぐらいのそんなに大きくないフライパンで作ることができます。カレーというと、大きな寸胴鍋で長時間ゆっくり煮込むイメージがあるかもしれませんが、南インドカレーはすごく調理時間が短く、シンプルな料理なんです。炒め物の延長としてそこに液体を注ぎ、さっと煮てカレーを作ります。
家庭で南インドカレーを2~4人前ぐらい作るなら、20センチほどのテフロンのフライパンを使うのが一番現地の作り方に近いし、扱いやすいですよ。

上柳:『現代調理道具論 おいしさ・美しさ・楽しさを最大化する』の中で「スパイスだしキーマカレー」の作り方が紹介されていますが、こんなに本格的なものが、20センチのテフロンのフライパンで作れるそうですね。
稲田さん:フライパン1つで、すごくお店っぽいというか、本格的に見えるものが作れます。本当に簡単で15分ぐらいでできてしまうので、お忙しい方に試していただきたい料理です。
上柳:南インド料理と聞くと、すごく特殊な器具を使わないとできないように思っていたのですが、そんなことないのですね。
稲田さん:ごくごく素朴な調理器具で作れますよ。

肉巻きこそ「せいろ」の出番
上柳:最近、せいろを使った料理がブームですよね。
稲田さん:そうなんです。
上柳:稲田さんが書かれた本の中でも、せいろなどの蒸し器を使った料理がいくつか紹介されています。中でも「みそだれで味わう なすの豚ばら巻き蒸し」が豪華でとてもおいしそうに見えたのですが、実はすごく簡単に作れるそうですね。
稲田さん:はい、なすを豚バラ肉でくるっと巻いて、それをせいろに乗せて蒸すだけなので、とても簡単に作れます。どんな料理でもそうですが、巻いてあるとすごく凝ったご馳走に見えるものなんですよね。
上柳:すごく手間暇かけているように見えますよね。
稲田さん:料理をする方は分かると思いますが、肉巻きを焼く場合は、豚肉が剥がれないように巻き終わりに何かを塗ったり、フライパンで焼くときに巻き目を下にしたりするので手間がかかります。しかも、それでも焼いているうちに肉がはがれてバラバラになったりします。
でも蒸し器なら、具がバラバラになったり焦げたりする心配がありません。肉巻きのような料理は、実は蒸して作る方が向いています。
不思議と、せいろは何年かおきにブームが来るんです。ですが多くの方が、野菜や肉を乗せて蒸しただけの料理を作るので、あっさりし過ぎて飽きちゃうんです。もちろん、それはそれですごく簡単でおいしい料理なんですが、飽きてせいろを使わなくなってしまうんです。
そういう様子を見てきたので、ほんのちょっと工夫するだけでバリエーションが広がるし、日常的にずっと使い続けるものになるんですよ、というのを本の中でも提案しています。

令和のキッチンに必要なものは何かを解き明かす。『現代調理道具論』稲田俊輔著 講談社刊
せいろ以外の蒸し器「フライパン蒸し器」「シリコンスチーマー」の魅力
上柳:せいろ以外にも、最近は「フライパン蒸し器」「シリコンスチーマー」という調理道具があって、蒸し料理をおいしく作れるそうですね。
稲田さん:正直、フライパンに重ねるタイプの蒸し器は、せいろより使い勝手がさらに良いです。
上柳:せいろより便利なのですか?
稲田さん:そうなんですよ。同じサイズなら、せいろよりもフライパン蒸し器の方が具をたくさん乗せられますし、手入れも楽です。
上柳:シリコンスチーマーは、どんな料理に向いているのでしょう?
稲田さん:少量のものを蒸すとき、シリコンスチーマーが1番手軽にできます。ただ、蒸し時間が長すぎると、蒸し料理ならではのふっくらした感じが失われたりもするので、使い方のコツがいるかもしれません。
上柳:シリコンスチーマーは少量の調理に合うということですので、お弁当を作るときに活躍しそうですね。時短にもなりそうです。
稲田さん:おっしゃる通りで、お弁当にはぜひ使ってほしいです。

ちょうどいい!「低圧力鍋」の魅力
上柳:「圧力鍋」は私も知っていますが、「低圧力鍋」という物もあるのですよね。どんな違いがあるのでしょうか。
稲田さん:原理的には同じ物です。まず低圧力鍋についてですが、圧力鍋ほどの強い圧はかからない、軽く圧をかけられます。
普通の鍋で60分煮込む料理が、圧力鍋だと15分ぐらいになりますが、低圧力鍋だったら30~40分ぐらいになります。低圧力鍋は、普通の鍋と圧力鍋のちょうど中間的な存在です。
これだけ聞くと「だったら圧力鍋を使った方がいいじゃないか」と言われるかもしれませんが、低圧力鍋は蓋をいつでも開けられるんです。これは低圧力鍋の最大の魅力だと思います。
上柳:蓋を開けていいのですか?
稲田さん:調理中に開けても大丈夫です。圧力がそんなに高くないので、1回開けても、また蓋をしたら圧力がすぐ戻るわけです。しかも、ガラス製の蓋が多いので、中の様子も見えて便利です。
だから、低圧力鍋は特別な鍋ではなく、普通の鍋の延長。でも、普通の鍋よりも密閉性が高く、火の通りも少し早い。
上柳:圧力鍋よりも手軽に使えそうですね。
稲田さん:肉じゃが、みそ汁、豚汁など、いろいろな料理に使えて便利ですよ。
――調理道具は料理をラクにするだけでなく、味や仕上がりも変えてくれる。