「報道部畑中デスクの独り言」(第428回)
7月は政治、経済の分野で大変慌ただしい月となりました。日本時間の23日には日米関税交渉が急転直下、合意に達しました。
経団連夏季フォーラムで石破首相の講演、続投の意向を重ねて示す
「双方利益を得るのでなければ交渉の成果とは言えない。今回、トランプ大統領との間で、そのような中での合意実現は誠に意義深い。実現したことを誇るようなことは申し上げない。国民に対して果たすべき責任を果たしたということ」
石破茂首相は長野県軽井沢町で開かれた経団連の夏季フォーラムで講演し、関税合意の意義を強調しました。実はこの時期、経済界はセミナー、フォーラム、政策懇談会と称して企業トップが一堂に会し、国内外のテーマについて議論します。議論の結果は今後の提言に活かされますが、経団連のフォーラムは今月24日と25日、奇しくも関税合意直後というタイミングで開催されたわけです。
企業トップからは合意にこぎつけた政府に感謝の意を示しながらも、15%の重みは小さくはない、そんな声が聞かれました。
「15%という関税自体は決して影響は小さくないが、大きく前進した。しっかり見通しを立てて必要な対応を取り組む段階に入っていく」(トヨタ自動車・佐藤恒治社長)
「日本からアメリカ(に流れる)というものもあれば、そのほかの国からアメリカ(に流れる)というものもある。15%でも非常に重たい。
トヨタの佐藤社長は例として3万ドルの車では、4500ドル=50万から60万円の価格への影響があるという認識を示しています。とは言え、佐藤社長は夏季フォーラムの懇親会で乾杯後、速やかに石破首相に駆け寄る気遣いを見せていました。

左:トヨタ自動車・佐藤恒治社長、中央:パナソニックHD・楠見雄規社長、右:日本製鉄・橋本英二会長
一方、鉄鋼・アルミニウムに課されている50%の追加関税は維持されます。日本製鉄の橋本英二会長は、「最悪のことにはならなかった」と胸をなでおろしたものの、50%は「トゥー・マッチ(高すぎる)」いう認識を示しました。ただ「中国の影響がより大きい品目について、障壁を高くしたいということになるのはある程度やむを得ない」をアメリカの対中事情に理解も示しました。
日本製鉄はUSスチール買収という「大仕事」を成し遂げた実績があります。その経験から関税交渉とは2つの共通点があると橋本会長は語ります。
「一つは対等な立場の交渉ではないこと。喧嘩別れはできない。“なし”にしたら、向こうが好きなように関税をかけるだけ。立場が弱い中で国益を最大限守らなければいけない。もう一つは、トランプ大統領までいかないと決まらないということ。
経団連の筒井義信会長は記者会見で、状況次第で経済対策など政府に働きかける考えを示しました。
「非常に精力的な粘り強い交渉を長期にわたって続け、そのことが実った合意内容。高く評価している。さはさりながら、15%は経済的に影響があるのは事実。経済対策が適切に行われていくよう、場合によっては政府に働きかけていく」

左:経団連・小路明善副会長、中央:石破首相、右:経団連・筒井会長
続いて、参議院選挙です。自民・公明の与党はあわせて47議席で、非改選を合わせた過半数ラインの50議席に及ばず大敗。去年の衆議院選挙に続いて、参議院でも少数与党に転落しました。
「何が足りなかったのか、どういう訴えが国民の心に響かなかったのか、自らに対する反省も踏まえて。しかし、この国家を運営していかなくてはならない。この上ない責任感、緊張感をもって、次の時代にいい日本国を残していきたい」
石破首相は経団連の夏季フォーラムで、続投の意向を重ねて示しました。一方で自民党では近い時期に両院議員総会が開催されることが決まりました。所属議員から総裁選の前倒しを求める声も出ており、政界は混とんとした状況になっています。
経団連の筒井会長は選挙結果について、「厳しい結果が出た。民意の表れ。そこはしっかり受け止めてほしい」と諫めながらも、少数与党の“効用”も指摘しました。
「スピードのある決定が鈍ることは想定しておかなくてはいけない、逆に、野党との熟議が進んでいく。ここは前向きに受け止めたい。政策本位で与党とも野党とも今後様々な連携をし、協力をしていく」
昨年秋の衆議院選挙後に各党のトップが話していたことを思い出します。

懇親会で石破首相は経団連・筒井会長と乾杯 喧騒から離れるつかの間のひと時だったのかも
「新しい時代に入った。熟議と公開の時代に入ってきた」(立憲民主党・野田佳彦代表)
「丁寧な議論による合意形成は、公明党の真骨頂でもある」(公明党・斎藤鉄夫代表)
「与党は“寛容と忍耐”、野党は“責任と提案”。国益にかなう国会を作り上げていこうという意識が両者に新たに課せられた義務」(国民民主党・玉木雄一郎代表)
そして、石破首相も「ある意味でこういう状況は、民主主義にとって望ましいことかもしれない。より議論が精緻になる」と話していました。
こうした国会の状況は「ハング・パーラメント(宙づり国会)」と言われますが、「新しい民主主義」のカタチと言えるかもしれません。仮に自民党の総裁が交代したとしても、少数与党の状況は続きます。
一方、経団連夏季フォーラムに先立ち、同じく軽井沢で経済同友会の夏季セミナーも開催されました。参院選の投開票日直前のことで、こちらも様々な議論がありましたが、注目されたものの一つが、在留外国人の問題です。これについては次回に譲ります。
(続く)