「報道部畑中デスクの独り言」(第429回)

先月(7月)は参議院選挙、経済界の夏季会合など、政治・経済が慌ただしい1カ月でした。政界は選挙後の臨時国会が今日召集されました。

会期は8月5日までで、その後は通常であれば、来たる秋の臨時国会に向けて英気を養うところ。経済界も第一四半期の決算発表を経て、多くの企業が夏季休暇に入りますが、選挙結果、関税合意の余波はしばらく収まりそうもありません。

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参院選直前に開かれた経済同友会夏季セミナー

さて、小欄前編でお伝えした経団連夏季フォーラムに先立ち、同じく軽井沢で経済同友会の夏季セミナーが開催されました。開催は参議院投開票日直前、7月18日と19日の2日間、こちらも様々な議論がありましたが、注目されたものの一つが、在留外国人の問題でした。

「年間30万人ぐらいの人が入ってくる。増えるにはどういうふうにしていくか、仕組みをつくっていかなくてはいけない」

経済同友会の新浪剛史代表幹事はセミナー冒頭の講演でこのように述べました。在留外国人の問題は参院選の選挙戦後半ににわかに争点になってきましたが、ややもすると「排外主義」の方向に傾きがちな様相も呈していました。セミナーでは冷静な議論が展開されました。

国立社会保障・人口問題研究所の是川夕さんは「これまでの日本政府がとってきた、現場で積み重ねてきた外国人受け入れの取り組みを一気にひっくり返してしまいかねない良くない動き。急速な締め付け、なりふり構わぬ締め付けに大きく振れるのではないか」と深刻な懸念を示しました。議論では刑法犯の検挙人数は2005年をピークに減少傾向にあること、公的医療保険について外国人の利用額は日本人の3分の1であるというデータも示されました。後者については外国人に保険料を納めてもらって黒字に維持しているという見方もできます。

セミナーではゲストとして静岡県の鈴木康友知事も参加しました。実は、静岡県では在留外国人が昨年12万人を超えました。鈴木知事は浜松市長時代、様々な外国人対策に取り組みます。例えば、子どもの就学問題、外国人住民基本台帳を設けるなどして、子どもの状況を把握し、「不就学ゼロ作戦」を展開しました。在留外国人の中には、母国でも日本でも十分な教育を受けていない子どもがいます。生活習慣、法律を理解するにもまずは言葉からというわけです。このほか、外国人学習支援センターの開設など外国人の処遇改善に務めました。外国人の人材活用のモデルケースともいえるその経験から、鈴木知事からは示唆に富む発言がありました。

「表面的に日本は、労働目的の外国人移民を受け入れないと言ってきた。この“ダブルスタンダード”が非常に問題だ。国として受け入れないから国としての施策が進まない。方針をあいまいにしたまま、労働力が足りないということで実際にはそうした外国人を受け入れていく。

しかし、ロボットじゃない、みんな1人の人間であり生活者だ……、そういう観点で考えていかないと。基本方針も定まらないまま、規制だけかけて外国人を排斥するのはもう、ナンセンス極まりない」

関税合意、参議院選挙、外国人政策……、経済界の見方は?(後編)
グループディスカッションでは闊達な議論が行われた

グループディスカッションでは闊達な議論が行われた

一方、経済同友会の新浪代表幹事と鈴木知事とはこんなやり取りもありました。

「外国人もいろいろいる。投資家として来ている人も随分いる。土地を買っているとか、全然別次元の問題も起こっている、むしろ、こういう方々が物議を醸している。こういう観点で外国人をどう見ていったらいいのか」(新浪)

「そこは本当に住み分けて考えないと。一緒くたに外国人が悪いというふうに決めつけてはいけない。外国人は絶対土地を買ってはいけない、不動産は買ってはいけないということになると、コツコツお金貯めてローンで家買ったりする人もいる、そういう人も家を買えなくなるのか……、そこを切り分けていかないとだめだと思う」(鈴木)

国は特定技能実習法などの対応はあるものの、建前上「移民政策」を取っていません。一方で、実際は「国境を越えた居住地の変更を伴う移動」をする人がいて、詳細な対応は自治体の裁量に任されているというのが実情です。これを踏まえた上で何をすべきか、そんな議論が必要になってきます。

民間企業の立場からも様々な声がありました。

「我々がやらなければいけないのは、外国人で治安が悪くなる、社会保険が混乱する、こういうことが将来起きないようにいまから準備をしておくこと。

外国人の子女教育もしっかりやっていかなくてはいけないし、そのために国は責任を果たさなくてはいけない。企業もその責任を果たしていく、そういう覚悟を持たなくてはいけないのではないか」(ロイヤルホールディングス(以下ロイヤルHD)・菊池唯夫会長)

「食事環境の問題とか、宗教的な必要性からインフラ的に必要となるような話、こういった環境については、まだまだ日本は脆弱。コミュニティをつくるための基本的な多様性を国は増やしていかなくてはいけない」(寺田倉庫・寺田航平社長)

宗教的な視点では、仕事場に「お祈りの部屋」を設けたり、食事環境の面では、ハラルレストランの情報を提供することなどが考えられるということです。経済同友会では今年5月に外国人材の共生社会に関する提言を出しています。国による支援プログラム、外国人政策を統括する司令塔組織、外国人の人材活躍促進の基本法の制定、民間の支援などを提言しています。

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経済同友会・新浪代表幹事

経済同友会・新浪代表幹事

一方、この在留外国人の社会は成熟すればするほど、ある問題に行き着きます。それは外国人参政権の問題。憲法15条で国政選挙では外国人参政権が認められていない一方、地方選挙では、特別永住者に対しては参政権を付与してもいいのではないかという議論があります。セミナーでは記者として質問する機会がありました。

「議論はすべきだが時期尚早。こんな“日本人ファースト”的な議論が起こるこの国において、この話をする前にどういう共生をするかという話をすべき、順序を立ててやらないといけない」(新浪代表幹事)

「将来的には必ず議論しなくてはいけないところは出てくると思う。ただ、いまの段階ではそれよりもっと前に議論をしなければいけないことが山のようにある」(ロイヤルHD・菊池会長)

在留外国人、外国人の人材活用の問題については経団連の夏季フォーラムでも議論になりました。

経団連の筒井会長は「バランスが大事」と語ります。

「バランスを失すると、海外からの日本に対する評価が、事実に基づかない形で大きく劣化してしまう危険性がある」

参議院選挙で在留外国人の問題は、後半一気に争点に浮上しました。各党の主張の是非は別にして、あいまいな外国人政策を議論の俎上にのせたという点では、一定の意義はあったのではないかと思います。今後の国会で活発な議論につながるかどうか。

ただ、外国人について、人手不足解決の手段という視点のみでは根本的な解決にはつながりません。排外主義のような極端な議論に陥ることは絶対に避けるべきですが、「バランスが大事」であるとすれば、共生する地域の住民の視点も加えた幅広い議論が求められるところです。

(了)

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