首都圏を中心に年々激しさを増す中学受験の志望校選び。「少しでも上の学校へ」と願う親心と、「全落ちは避けたい」という不安の狭間で、チャレンジ校と安全校の組み合わせに頭を抱える方もいるのではないでしょうか。


我が子のこととなればつい感情的になりがちなこの難題ですが、実は金融のプロが行う「ポートフォリオ戦略(リスクとリターンの見極め)」とまったく同じ思考プロセスで解決できるのをご存じでしょうか。

グロービス経営大学院教授・森暁郎氏の著書『世の中のことも自分のこともみるみるわかる お金の「選択」 人生の節目に役立つファイナンス超入門』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)より、教育や人生のあらゆる局面に役立つファイナンス思考の共通点について、一部抜粋して紹介します。

■「中学受験」と「資産運用」の共通点
皆さん、あるいは皆さんのお子さんは、中学受験を経験されたでしょうか。

首都圏では小学生の半数以上が受験をする地域もあり、6年生の冬になると教室がガラガラになる学校もあるそうです。

私自身も昔に受験を経験しましたが、当時は地元の小さな塾に通い、夏休みも海やプールで遊ぶようなのんびりしたものでした。

しかし今は、ほとんどの受験生が大手塾に通い、夏休みも特訓や合宿で埋まっています。

進学塾では、小6の秋以降になると、本人や親の意向、模試の結果、学校ごとの方針や入試日程を照らし合わせながら、緻密に受験戦略を立てます。

こうした中学受験の思考プロセスは、資産運用の基本構造と実はまったく同じです。

■チャレンジ校と安全校のバランス。受験も投資も「リスクとリターン」から
資産運用の世界でまず押さえておくべき概念が「リスクとリターン」です。

人生全般に当てはまるコンセプトでもあります。

■リスク:結果のぶれ幅(どのくらい上下に変動するか)、不確実性の大きさ
■リターン:投資によって得られる利益や収益

大きな成果を狙えば、ぶれ幅も大きくなる(ハイリスク・ハイリターン)。


逆に、安定を求めればリターンは控えめになる(ローリスク・ローリターン)。

中学受験でいえば、合格確率の低い「チャレンジ校」に挑むのはリスクが高い一方、合格できたときの喜び(リターン)は大きい。

だからこそ、家庭ごとに「どのくらいのリスクなら受け入れられるか」を考え、チャレンジ校と安全校のバランスをとります。

偏差値や難易度は最難関校ではなくても、その子にぴったり合った学校に入ることができれば、入学後も目を輝かせて毎日通学し、自分の歩みたい人生を見つけていく。

最難関校に合格できたら素晴らしいですが、いろいろな子どもたちを見ていて、「ロー/ミドルリスク、ハイリターン」の中学受験もまた、理想形の1つかもしれないと感じます。

資産運用も中学受験と同じで、「どの程度のリスクなら許容できるか(リスク許容度)」を把握し、リスクとリターンのバランスをとることが出発点になります。

絶対に減らせないお金と、最悪減ってもよいけれど増えたら嬉しいお金を組み合わせる。その組み合わせこそが「ポートフォリオ」です。

■志望校の組み合わせは、投資の「ポートフォリオ」とまったく同じ
ポートフォリオとは、株式・債券・現預金・不動産などを、それぞれどの割合で持つかという資産配分のこと。

株式のように高リターンを狙える資産と、現預金のように安定を重視する資産、その中間の資産をバランスよく組み合わせて、リスクを抑えながら資産を育てていきます。

中学受験でも、試験日程・難易度・子どものモチベーションなどを見ながら受験校を組み合わせます。

こうした「組み合わせ戦略」こそが、ポートフォリオ戦略です。


■“卵を1つのカゴに盛るな”—— 全落ちを防ぐ「分散」と「相関」の考え方
投資の世界では、無数のポートフォリオ(資産の組み合わせ)が考えられます。

その中で「最適なポートフォリオ」をつくるには、何を基準にすればいいのでしょうか。

ここで重要になるのが「分散」と「相関」という考え方です。

「分散」とは、卵を1つのカゴに盛るな(Don,t put all your eggs in one basket.)という格言で知られるように、投資先を1つに集中させず、複数に分けること。

そして「相関」とは、値動きの関連性のことです。

たとえば株式を特定業界に集中させると、その業界が不調になれば全滅してしまいます。

だから複数業界に分散し、かつ値動きが逆の資産(逆相関)を組み合わせるわけです。

晴れの日に儲かるかき氷屋と、雨の日に儲かる傘屋の両方に投資するイメージです。

中学受験でも、試験日や出題傾向が近い学校ばかり受けると、最初に受けた試験の結果が芳しくない場合に影響を引きずってしまうかもしれません。

そこで毛色の違う学校を組み合わせることで、リスクを分散し、チャンスを広げる。

これも「分散」と「相関」を意識した戦略です。

■偏差値だけに振り回されない。
親として学んだ「リスクの取り方」
私自身も、親として、子どもの中学受験を経験しました。

限られた時間の中で、模試の結果に一喜一憂しながら努力を続けるわが子の姿を見ていると、親のほうが試されているようでした。

模試の成績が少し上がると「チャレンジ校も受けようか」と夢を描き、思うように結果が出ないと「安全校を中心にしようか」と揺れる。

まさに、リスクとリターンのバランスをどこでとるかという判断の連続です。

それでも最終的に、本人が笑顔で受験を終え、楽しそうに通学している姿を見て気づきました。

「リスクをとりすぎてもいけない」
「でも、怖がって何も挑戦しなければ、リターンも得られない」

リスクを完全に排除することはできないけれど、その性質を理解し、自分に合ったリスクのとり方を選ぶ。

これから大人へと成長していく中で、自分の力で適切にリスクをとりながら自分の人生のリターンを最大化できるようなたくましい子に育って欲しいと、心から願っています。

■投資も受験も原理は同じ。人生の「リターン=幸せ」を最大化する方法
中学受験は数日で結果が出る過酷な世界ですが、資産運用は一生かけて向き合う長期戦です。どちらにも共通しているのは、「分散」と「長期視点」。

複数の学校を受け、仮にどれかがうまくいかなくても、次にチャンスを残す。

それは、異なる資産を組み合わせてリスクをならす投資戦略と同じです。


そして短期の結果に一喜一憂せず、長い目で「成長」を見守る。

この姿勢こそが、最終的にリターンを最大化する唯一の方法です。

受験を振り返ると、そこには投資家の資産配分表のようなメモが残っていました。

志望順位、日程、確率——すべては「限られた資源をどう配分するか」という判断の積み重ねです。

思えば、家計もキャリアも時間の使い方も同じ構造。

人生そのものが、1つのポートフォリオなのです。

「ポートフォリオ」「分散」「相関」と聞くと、少し難しそうに感じるかもしれません。

でも本質は、「有限である時間やお金を、大切な家族や自分自身の人生が少しでもハッピーになるために、どう振り分けるか」を工夫することと、何ら変わりはありません。

原理原則は同じです。資産運用を小難しく考えすぎないでください。

人生はすべて「リスクとリターン」のバランスです。リスク(=不確実性)を少しでも抑えながら、リターン(=幸せ)の総量を増やしていきましょう。


資産運用に限らず、このバランスを意識した言動の積み重ねこそが、「年をとるほど幸せになる」人生の秘訣です。この書籍の執筆者:森 暁郎 プロフィール
グロービス経営大学院 教授。慶應義塾大学経済学部卒業、コロンビアビジネススクール修了(MBA) 三和銀行(現三菱UFJ銀行)入社。国内及びニューヨーク支店にて、シンジケートローン等の営業及び審査業務に従事。MBA取得後、General Electricに入社し、大型のM&A案件等を担当。その後、ベネッセにて新規事業開発や海外M&Aを統括。現在はグロービスにて会計・ファイナンス領域の責任者を務める。取締役として投資先の経営にも参画。
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