特に、仕事ができて周囲の期待に応え続けてきた“優秀な人”ほど、連休明けにどうしてもエンジンがかからず、深い落ち込みに襲われてしまうことも少なくありません。
今回お話を伺ったのは、『最強の俯瞰思考』(KADOKAWA)の著者で、オーセンティック・リビング代表の亀井弘喜さん。亀井さんは、独立後、心理カウンセラーとして数多くのセミナーや講演会を実施し15年間にわたって延べ1万人以上の人生やキャリア相談に乗ってきました。
亀井さん自身、外資系コンサルの第一線で活躍していた26歳のときにうつ病を発症し、1年間の闘病を経験した当事者でもあります。自らの実体験に加え、多くのカウンセリング実績から見えてきた「優秀だったのにつぶれてしまう人の共通点」を聞きました。
▼【質問】優秀だったのにつぶれてしまう人には、どんな共通点があるのでしょうか。
▼【回答】成果や能力ではなく、「自分の存在そのもの」を認められているかどうかです。
なぜ、能力が高いはずの人が「存在」という壁にぶつかってしまうのか。亀井さんに詳しく解説してもらいます。
■「成果」で自分を認める人の危うさ
自己肯定感には、「成果や能力に対する自己肯定感」と、「自分の存在そのものに対する自己肯定感」の2種類があります。
優秀な人は、成果も能力もあり評価されるため、「成果や能力に対する自己肯定感」が非常に高くなります。しかし、自分の存在そのものに価値があると思えるかという、「存在としての自己肯定感」は低いことが多いのです。
つまり、条件付きでしか自分を認められていない状態なので、成果が出せなくなった瞬間に、自分の存在価値そのものが揺らぐため、うつ病などになりつぶれてしまうのです。
さらに、成果主義の強い組織や環境に身を置くことで、この感覚は強化されます。
成果主義の傾向が最も強い場所と言っても過言ではなかった外資系コンサルという場所で、私自身もメンタルを崩し、気付いたらうつ病と診断されていました。そこからの闘病生活は本当に苦しいものでした。
■「成果を出せば認められる」という呪縛
この自己肯定感の構造は、幼少期からの経験によって作られます。
テストでいい点を取れば褒められ、受験で結果を出せば認められる、そうした経験を通じて、「成果を出せば価値があると感じられる」という感覚が自然と身に付いていきます。
私自身も、いい高校・大学に進み、出世することがよいとされる価値観のもとで人生を重ねてきました。
その価値観が強烈に印象付けられたのが、父と兄の関係でした。私が小学校の頃に、兄がいわゆる「不良」という存在になり、そんな兄の存在を認めようとしなかった父親を見て、自分は優秀に生きなければいけないという意識を強く持ったのです。
今となっては兄と父は仲よくしていますが、当時のこの経験が自分自身の「優秀なエリートコースのレールから外れてはいけない」という私の生き方に大きく影響を与えていたように思います。
■自立心が強い人ほど「孤独」という罠(わな)にはまる
心理学でよく知られているマズローの欲求5段階説では、下から「生理的欲求」「安全・安心の欲求」「社会的欲求」「承認欲求」、そして「自己実現欲求」と積み上がっていく構造です。
優秀だったのにつぶれる人は、心理的な2~4段階目の3つの欲求「安心・安全の欲求」「社会的欲求(つながりの欲求)」「承認欲求」が満たされないまま毎日を過ごしているのです。
また、経済的に自立しており、物理的には満たされていることが多い一方で、勝ち続けなければならないプレッシャーから心が休まらず、周囲を競争相手のように感じて心を許せる仲間がいないことも少なくありません。
そして、優秀な人ほど自立心が強く、1人で何でもできるため、他人に頼る必要性を感じにくく、結果として孤独になってしまうのです。
しかし、それはともすると健全な自立心のレベルを超え、人間が本能として持っている「つながりたい」という欲求が麻痺(まひ)してしまうことにもなるのです。
その結果、つぶれそうになったときに支えとなるセーフティーネットが自分の人生から存在しなくなってしまうのです。これは26歳当時の私がうつ病になったプロセスそのものでした。
■なぜ、心に「強制終了」が起こるのか
また、本来であれば追い込まれてつぶれてしまう前に「会社や職場を辞める」という選択もあるはずですが、安心感が少なく不安感が強い人ほどその選択肢が持てなくなり、「ここで辞めたら自分のキャリアは終わってしまう」とさらに自分を苦しめてしまいます。
その上、承認欲求が強く、仕事や目標が大きくのしかかります。本来は「やりたい」はずの自己実現の領域で、「認められるためにやらなければならない」という感覚に変わってしまうのです。
そうすると、その義務がどんどん積み上がり、喜びがなくなっていく。その結果、いろいろなことに対して意欲がなくなります。食欲、睡眠欲、最終的には生存欲求まで脅かされ、「強制終了」状態となってしまうのです。
■「自分責め」を手放す“心の筋トレ”
一方で、同じように優秀でもつぶれない人も存在します。
安心できる環境や信頼できる人間関係、そして無条件に受け入れられる経験を持っている人は、たとえ仕事でつまずいても立て直すことができます。
また自分を追い込み過ぎる前に辞める勇気も持てるものです。自己実現欲求の領域で積み上げたものが崩れても、再び築き直すことができるのです。
では、どうすればその状態に持っていけるのか。
重要なのは、成果や役割は関係なく、「自分という存在そのものを認めること」。言い換えれば、自分を責めることをやめて「無条件に自分を認める」ということでもあります。
ただし、「無条件に自分を認める」ということは頭で理解したからといって、すぐにできるようになるものではありません。長年の思考の癖や捉え方があるため、“思考の訓練”が必要になるのです。
■自分を認めると「人間関係」が変わる
私は、現在講師として教えている人間心理学「センターピース」という講座に32歳のときに出会い、長年に渡って学び続けることでこの感覚を身につけてきました。現在では私自身もこの心理学講座をこれまで約100回開催しています。
「無条件に自分を認める」筋力を育むプロセスは、歯の矯正のように、時間をかけて行っていくものです。
また、自分に対する態度は、そのまま他人への態度につながります。自分を責めている人は他人にも同じように責めてしまいます。反対に、無条件で自分を認められる人は、他人を無条件で認めることができるのです。
だからこそ、まずは自分を認めることが大切です。そして、人とのつながりを見直し、心を許せる仲間や家族、パートナー、コミュニティーを作ること。それが、優秀であり続けながらもつぶれないための土台になっていきます。
また、無条件に自分を認めるスキルを身につけることで、つぶれにくくなるだけでなく、周囲との関係も自然とよくなります。
結果としてチームで成果を出せる状態へとつながり、プライベートでも良好な人間関係を育み、公私共に充実した人生を歩めるようになるのです。
お話を聞いたのは:亀井弘喜さん
心理カウンセラー・セミナー講師/東北大学卒業後、外資系コンサルティング会社を経て人材業界に転身し、営業として高い成果を上げるとともに組織マネジメントにも従事。その後独立し、コーチングや心理学をベースに、キャリアや人間関係など人生全般の意思決定を支援するセミナー・講座を展開している。これまでの受講者は1500人以上、相談者は延べ1万人以上にのぼる。
この記事の執筆者:廣田美絵子
化粧品会社の人事部にて採用・教育業務に従事した後、広報を担当。教育関連企業へ転職し、広報業務を中心にキャリアを重ねる。現在はフリーランスとして活動し、キャリアコンサルタントとしても人のキャリアや働きがいをテーマに執筆・発信を行っている。
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