5月15日より『君のクイズ』、5月22日より『ミステリー・アリーナ』が劇場公開中です。1週間違いでの上映スタートとなった両作は、パッと見のビジュアル以上に共通点が多い作品でした。


「映画『君のクイズ』と『ミステリー・アリーナ』の共通点

・ベストセラー小説が原作
・生放送のクイズ番組が題材
・原作者と監督が映像化の意義やハードルの高さを明言している」

今は作品の解釈を内容の疑問への「回答」のように語る、「考察」の記事や動画がもてはやされています。『君のクイズ』『ミステリー・アリーナ』は考察ブームの時流に乗り、考察そのものをエンタメに仕立てた映画と言えるでしょう。

さらに、どちらも映像化が難しい小説が原作ながら、なかなか大胆な方法で「映画」にしている、「アプローチそのものが面白い」作品だと思いました。

どちらも豪華キャストが集結していますし、それぞれ別ベクトルで賛否を呼びそうなポイントも含めて、実に興味深かったのです。それぞれの魅力を、決定的なネタバレにならない範囲で記していきましょう。

※以下、『君のクイズ』『ミステリー・アリーナ』の一部内容に触れています

■映画『君のクイズ』での「検証番組」で「文字情報もスタイリッシュに」魅せる工夫
『君のクイズ』のあらすじは、賞金1000万円を賭けて戦う生放送クイズ番組の決勝戦で、”世界を頭の中に保存した男”が、なぜか問題を1文字も聞かずに正解を叩き出して優勝した、というもの。世間では当然ヤラセではないかと波紋を呼び、その対戦相手だった“クイズ界の絶対王者”が謎を解こうと奮闘するのです。まず映像化のアプローチとして真っ当かつクレバーなのは、原作小説では「主人公の独白で謎を検証していく」のに対し、映画版は「検証番組内で謎を解き明かす」というアプローチに変更されていること。考察の過程が視覚的にも分かりやすくなり、番組の「ガヤ」の意見が観客の気持ちを代弁してくれたりもするので、映像で「魅せる」エンタメとしての強度が格段に上がっていました。

さらに、『ハケンアニメ!』の吉野耕平監督らしく、シックでシャープな画作りだけでなく、「文字情報」をスタイリッシュに映し出すVFX映像もとても面白く仕上がっています。「SNSの声」や「クイズを解くまでの思考プロセス」などの膨大な情報が文字として浮かび上がる様は、テレビでの単純なテロップとはまったく異なる、映画館で集中して見ることに向けた演出だと思えました。

■『君のクイズ』の映画化という史上最大の難問と、映像でこそ届けられること
ちなみに、吉野耕平監督は「クイズという宇宙を、言葉だけで極上のエンターテインメント小説に変換してしまった唯一無二の作品『君のクイズ』。
(中略)果たしてこの小説の面白さを音と映像に再変換できるのか…?その映画化という史上最大の難問に挑むことになってしまいました」と、なかなか正直に思えるコメントをしていました。

対して原作者の小川哲は「(前略)解答者の表情や息遣い、ボタンを押したあとの緊張感、体の動きや細かな仕草、そしてピンポンの音。吉野監督の手によって、原作で伝えきれなかったクイズの魅力がみなさまの元へ届けられることを、今からとても楽しみにしております」とコメントしています。まさにその通りで、生身の人間が演じるクイズの緊張感は、小説という媒体ではどうしても表現し得ないものです。さらに、生真面目であるがゆえに不器用さを感じさせる中村倫也、甘いマスクだからこそのサイコパスな印象もある神木隆之介、嫌悪感まで抱かせるほどに独善的な印象のあるムロツヨシ、メインキャストそれぞれが超ハマり役で、かつこれ以上ない名演を見せていました。余談ですが、劇中のクイズとして登場するクリーニングチェーン「ママクリーニング小野寺よ」およびCMソング、さらには「誰も死ななくていい、世界一優しいRPG」と銘打たれたインディーズゲームの『UNDERTALE (アンダーテイル)』は実在しています。それぞれの音楽や映像が実際に提示される、ということももちろん小説では表現し得ないことでしょう。

■映画『君のクイズ』で好みが分かれそうなのは「内省的」な後半の展開?
その上で、本作の美点でもあり、また好みが分かれそうなのは、「クイズ番組の優勝者は、なぜ問題を1文字も聞かずに正解できたのか?」という問いに対する答えが、とある「普遍的な人生訓」につながっていることです。

その過程は論理的に語られており、確かな勇気と希望が持てるメッセージでもあり、個人的にはとても納得できたのですが、はっきりとした「謎解きの答え」を期待していた人にとっては、やや期待とはズレてしまうのかもしれません。また、真相が明かされてからのモノローグが多めで、ややテンポが重く感じてしまうのも欠点ではあるでしょう。

そんなわけで『君のクイズ』は「検証番組内で謎を解き明かす」というアプローチが秀逸で、シックでシャープな画、豪華俳優陣の熱演もあって見事な映像化がされた作品ながら、やや「内省的」な後半の展開は好みが分かれる、という印象でしょうか。

■『ミステリー・アリーナ』は「映像化不可能」な「連続する叙述トリック」に取り組んだ
『ミステリー・アリーナ』のあらすじは、ミステリー読みのナンバーワンを競う生放送の推理クイズ番組で、6人の解答者が出題された文章を解読し、ヒントから犯人とトリックを解き明かそうとする、というもの。
賞金はキャリーオーバーのために膨れ上がり、なんと100億円です。深水黎一郎による原作小説は、「文章で書かれたことへの違和感やヒント」から推理する、あるいは「思い込み」が見識を誤らせる、いわゆる「叙述トリック」が多分にある作品でした。それは小説ならではの、映像化がそもそも不可能な「仕掛け」でもあるのです。原作者の深水黎一郎が「映像化は絶対に無理だろうと思いながら書いていた作品なので、それが実現したことに作者が一番びっくりしています」とコメントするのも当然でしょう。

では、今回の映画でどのように小説の“読みながら考える面白さ”を再現したか。それは、劇中の殺人事件を記した「バイブル」と、文章が重要なアイテムや人物として視覚化される「デジャブ」という「SF的なガジェット」です。特に「デジャブ」は、解答者それぞれの解釈が「思い込みも含めて映像化される」という、大胆かつストレートにして「確かにそれしかないかも!」と納得できるアプローチがされていたのです。その上で、感服したのはその劇中の殺人事件の映像における、カメラワークと画作りです。臨場感がありつつも、どこか「主観的」な目線に思えて、良い意味で違和感があり、「信用できない」映像に見えてくるのですから。それでいて推理の過程は実に論理的で、観客は登場人物と一緒に謎解きをしていく楽しさを味わえるでしょう。

■史上最高にムカつく唐沢寿明はもとより、芦田愛菜の「バディ」の三浦透子が尊い!
さらに、映像化ならではの魅力と言えば、やはり生身の人間が演じること。この『ミステリー・アリーナ』では、「クレイジーな司会者」に実際にテレビ番組の司会の経験もある唐沢寿明を配役したことでのインパクトは強烈です。
アフロにサングラスのファンキーな見た目で、ハイテンションかつ毒舌で解答者を「煽る」様は、端的に言ってイライラする、「現実にこんな司会者が許されるはずがないだろ!」とツッコミたくもなるのですが、ここまで振り切っていれば「これはこれですごい」「史上最高にムカつく唐沢寿明だ」と感心する人も多いのではないでしょうか。

さらに、実質的な主人公と言えるIQ180の天才少女を芦田愛菜が熱演していることと、なぜか彼女にしか見えない“心の友”の三浦透子との関係が見逃せません。

その心の友は原作にはいない映画オリジナルのキャラクターで、堤幸彦監督から提案されたという「おじさんっぽいべらんめえ口調」に三浦透子がめちゃくちゃハマっていて愛おしいのです。おかげで、「女性2人のバディもの」という要素がとても魅力的に仕上がっていました。ちなみに、堤幸彦監督は優れた原作と脚本に敬意を払いつつ「私の演出的知見で太刀打ちできるのか」「風味としての“コメディ性”とミステリーの持つ“構造性”、さらに本作独自の“秘密”、それらを統合する鍵を見出せなかった」と不安を隠せないコメントをしつつも、「ある日の主演・唐沢寿明氏の一言で全てが視えた!『アフロでいんじゃない?樺山(司会者)の頭』」「なんだと? アフロ! その瞬間、全てのビジュアルが降ってきた!」と思ったのだとか。

映像化の自信が持てた理由が「唐沢寿明のアフロ」というのもどうなんだ?と思ってしまうところですが、実際にその唐沢寿明が「作品の顔」になっているのは事実。確かに映画化の一番の意義かつ、土台と言えるポイントでもありました。

■オチは間違いなく賛否両論!でも「メタフィクション的な批評」かも?
その上で、この『ミステリー・アリーナ』で好き嫌いが分かれそうなのは、後半からの「えっ!?そっちに行くの?」という意外な展開はもとより、もっとも重要と言える「オチ」の部分です。もちろんネタバレになるので具体的には書きませんが、それは「ふざけんな!」と激怒する人もいてもおかしくないほどのものでした。

しかしながら、そのオチが「納得しにくい」ことも含めて間違いなく意図的なものですし、劇中の登場人物それぞれが痛感する「理不尽さ」にシンクロしているところもあり、何より「どんでん返し」「叙述トリック」の概念や問題をメタフィクション的に批評しているようにも思えるので、筆者は少なくとも全否定はしたくはないのです。

そんなわけで、映画『ミステリー・アリーナ』は生放送で殺人事件を論理的に推理する過程、小説のトリックを映像でも見せる工夫はしっかりしていながらも、唐沢寿明の良くも悪くも腹の立つ司会者のキャラクターや、後半からの荒唐無稽な展開ととんでもないオチは賛否両論必至、という印象でした。

『君のクイズ』『ミステリー・アリーナ』はそのように「似ているように実は違った魅力のある映画」なのです。
それでいて、どちらも万人向けのエンタメ性がありながらもクセが強めですが、その特徴も含めて楽しんでほしいです。

この記事の執筆者: ヒナタカ
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
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